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珍車EXAベースのコンバーチブルはレア度が高すぎる!
極上のコンディションを保つ超弩級変態グルマに迫る
パルサーEXAは、パルサーのクーペモデルとして1982年に登場。日産の資料には「スタイリッシュなクーペボディが人気となり、…」とあるが、当時クルマ好きな小学生だった筆者の目には、”リトラクタブルライトの変なカタチをしたクルマ”としか映らなかった。
で、コンバーチブルの登場は1985年。日産チェリー系販売会社の創立15周年記念モデルという位置付けで、生産台数はわずか100台。
コンバーチブル化を施すベース車両として、なぜパルサーEXAが選ばれたのか。その理由は知る由もないが、幸運にもベース車そのもののイニシャル変態度がハイレベルだったおかげで、生み出された限定モデルはさらにその純度をアップ。四半世紀以上が過ぎた今でも、一部の熱狂的なマニアを狂喜乱舞させてくれることに、我々は素直に感謝すべきだろう。
現存するのは、おそらく数十台と思われる“超大物”を目の前に、いつも以上の興奮と緊張を覚えずにはいられなかった。が、そこは21世紀におけるリアルなパルサーEXAコンバーチブルの生態を知らしめるべく、努めて冷静になるよう努力してみた。
まず、ソフトトップを閉めた姿は、クリフカットを特徴とするクーペボディのラインを微妙に再現しつつ、今ひとつ垢抜けないところが興奮ポイント。少なくとも、リトラクタブルライトを持つスマートなフロントマスクとのミスマッチ感は、多くの人が感じるところだろう。
ところが、手動開閉式のソフトトップを開け放った姿は、横転時の乗員保護を目的としたロールバー(ルームランプ付き)や大きく盛り上がったトノカバーを含めて悪くない。
いや、スタイリッシュにまとまりすぎていない独特の雰囲気が、ゆるいオープンカー風情を醸し出していて、カッコ良いだけのオープンカーとは明らかに一線を画し、それがパルサーEXAコンバーチブルの大きな魅力になっているのだ。ちなみに、ボディ色は赤のみという潔さにも好感が持てる。
パルサーEXAの外観を特徴づけるリトラクタブル式ヘッドライト。点灯時に開くのはもちろん、開閉のみを行うスイッチも設けられる。この角度から見るとハチロクトレノっぽい感じもする。
運転席に乗り込む。シートポジションは想像以上に低く、スポーティな印象だ。メーター本体は当時の日産車の多くに見られた水平ゼロ指針タイプで、スピードメーターの右側にタコメーター、左側に水温&燃料計が並ぶ。また、3本スポークステアリングは北米仕様と同じものだ。
DIN規格を無視した、独自デザインのラジオ&カセットデッキやエアコン操作パネルが収まる逆台形のセンタークラスター。これはK10マーチと基本は同じタイプ。さらに、シフトノブやフットレストも見覚えがある…。他の車種は未確認だから明言はできないが、80年代初めの1.0〜1.5Lクラスの日産車は、インパネデザインや個々のパーツの共通化が図られていたに違いない。
赤×エンジの2トーンでまとめられたインテリア。ジャガード織りのシート&ドアトリム生地、シートバックに入るロゴ“PULSAR NX”ともに北米仕様となる。リヤシートは背もたれが短めだが、2名分のスペースがしっかり確保されている。
トランクルームは、ベースの2ドアクーペと遜色ない容量を確保。オープンカーに見られがちなスペース的な犠牲は最小限に抑えられている。
PLASMA-E15S型エンジンは、エンジン回転数や水温、インマニ負圧などで空燃比を最適化する電子制御キャブレター仕様。ボア×ストロークはφ76.0×82.0mmのロングストローク型で、ストローク量を77.0mmとしたE13、88.0mmとしたE16も存在した。
当時は「これのどこがカッコ良いのか…」などと思っていたが、時代が変わったからなのか歳を取ったからなのか、「これなら乗りたい!」と思ってしまうほどの魔力。
SSクラスのレア度に加え、走行3万4000km(エンジン一発始動で静か)、屋根付き保管(塗装のヤレも皆無)、ホイール以外はフルノーマルという、世界遺産級のグッドコンディションを誇る個体、もはや幻のような存在だ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:HN12改
全長×全幅×全高:4125×1620×1350mm
ホイールベース:2415mm
トレッド(F/R):1395/1385mm
車両重量:900kg
エンジン型式:E15S
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ76.0×82.0mm
排気量:1487cc 圧縮比:9.0:1
最高出力:85ps/5600rpm
最大トルク:12.3kgm/3600rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:165/70-13
●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)