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心臓部は900馬力を発揮するドライサンプ仕様のRB26改2.7L
シェイクダウンで56秒台に突入!?
過熱する筑波タイムアタックバトル。冬になると全国各地からアタッカーが集まりコンマ1秒を賭けた戦いを繰り広げるわけだが、そんな大舞台で一旗揚げようとしているのが、今回紹介するR33型スカイラインGT-Rだ。
オーナーである荒井伸明さん(右)は、フォーミュラのレース経験もある腕利きドライバーで、筑波タイムアタックランキングTOP50に名を連ねるJZA80『ノブえもん常陽不動産スープラ』のオーナー兼ドライバーである。JZA80スープラ最速タイムである55秒458は、本稿執筆時点で全体35位にランキングされる激速ぶりだ。
荒井さんは中古のGT-Rを購入したのをきっかけに、茨城県石岡市にあるGT-R専門店『アウトバーン』にも通うようになり、それが縁でプライベートビルダーの坂東邦彦さんとも知り合うこととなった。
坂東さんと言えば、カーボンソアラの異名でも知られる『AutoBahn常陽不動産JZZ30』のオーナー兼ビルダー兼ドライバーであり、52秒454という筑波のベストタイムはJZ最速はもちろん、総合ランキングでも5位につける速さだ。2019年にはオーストラリアで開催されたWTACに初参戦するや、PRO-AMクラスで3位を獲得するなど、その活躍は輝かしいばかりである。
坂東さんは基本的にクルマ作りは何から何まで自分の手で行うタイプだが、エンジンに関しては馴染みのアウトバーンに一任している。そんなアウトバーンの代表を務める川井さんは、カーボンソアラの活躍で知名度が高まったのは良いのだが、やはり専門店としてはGT-Rでも筑波最速を実現させたい、というのが本音であり念願だったそうだ。
荒井さんと坂東さんはアウトバーンに集まると「GT-R最速が実現したらスープラとソアラを交えて、RB最速 vs JZ最速の究極デキレースをしよう!」と、いつも笑い話を交わしていたそうだが、今年になってそのプロジェクトが本格スタート。車両の製作は海外製パーツの情報にも明るい坂東さんが主導するカタチで進められていった。
心臓部となるRB26DETTは、オーストラリアのニットー製ストローカーキットで2.7Lまで排気量を拡大。タービンは1200hp対応のギャレットG42コンパクトを採用し、これまたオーストラリアのハイパーチューン製インマニ&EXマニ、82φのボッシュ製電子制御スロットルなどで吸排気性能を大幅に向上させている。
ウエットサンプのオイル供給では油圧の安定化が難しいと判断し、オーストラリアのロスパフォーマンス製キットでドライサンプ化。そのため、ドライサンプ用のスカベンジポンプとオイルタンクなどメカニカルな装備が搭載されている。
アルコール混合燃料であるE85を使用する独自の燃料システムも構築し、各種制御を司るコンピュータにはモーテックのM800を使用。E85は一般的なガソリンよりもオクタン価が高いので高圧縮にできる一方、理論空燃比は小さくなるので一度に大量に吹く必要がある。そのため2000ccの大容量インジェクターや高圧のフューエルポンプを導入。耐シール性に優れたB&M製のホースを贅沢に使った美しい取り回しも見どころだ。
ブースト圧2.0キロで最高出力は900ps、最大トルクは100kgmを実現し、電子制御4WDのアテーサE-TS PROも自在にコントロールする独自チューニングを加え、筑波最速を瞬速で実現させてしまう土台を作り上げた。トランスミッションはホリンジャーの6速シーケンシャルだ。
サスペンションはワンオフ車高調のメーカーであるスピリットがリリースした2ウェイダンパーを使用し、フロント34kg/mm、リヤ32kg/mmのバネレートを採用する。
タイヤ・ホイールはボルクレーシングZE40にアドバンA050の組み合わせ。ブレーキはエンドレスのモノブロック6ポットとRddのビッグローターを装着している。
エクステリアには、アンダー鈴木プロデュースのドライカーボン製フロントアンダーパネルとリヤウイングをインストール。ボンネット、ドアパネル、トランクフードもインフュージョン成形によるセミドライカーボン製となっており、大幅な軽量化を実現している。トランクフードにはシャシーマウントのリヤウイングを避ける切り欠きも用意。
不要なものは全て取り払い、ロールケージを組んだインテリア。モーテック制御化に合わせて、ディスプレイロガーのC125や電装品の配線を一元化できるPDMも搭載する。左後席側にマウントされる超軽量リチウムイオンバッテリーはアメリカのブライル製だ。
トランクルームにはアルミ製フューエルタンクとワンオフで製作したコレクタータンク、ドライサンプ用のオイルタンクなどが設置されている。
今回の撮影は筑波でのシェイクダウン当日に行われたのだが、タイムは午前中の走行でいきなり56.435をマーク! 今後チューニングを煮詰めることで最終的には53秒台突入を実現し、GT-R最速、RBエンジン最速を目指すという。
「JZの最速と合わせて、6発制覇!って高らかに宣言したいですね(笑)」と、前途洋々の未来に笑顔を浮かべる坂東さんと荒井さんなのであった。
●PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI