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Who knows most, speaks least 〜能ある鷹は頂を目指す〜
チューニング第3世代の実力者が渾身のエンジンルームをビルド!
18歳までレーシングカートに打ち込み、プロ契約を結んだ経験も持つオーナー。父親の影響で根っからのクルマ好きとして育ち、小学生の時には教室でOPTION誌を読んでいて先生に怒られたこともあったという。
ある時、86/BRZレースに参戦しようと思い立ち、競技ベース車両であるTRDの86 Racingを購入。だが、練習で訪れた富士ショートコースでクラッシュし、全損もやむなしという状況に陥ってしまった。それでも「何か縁を感じる」という直感に従い、86を直すことを決意。修理完了後は、当時モータースポーツと同じくらいハマっていたUSDMに強く傾倒していった。
そんな時に、友人から紹介してもらったのが岡山県倉敷市で『Kazu Imai Build』を営む新進気鋭のビルダー、Kazu Imaiさんだった。
Kazuさんは、いわゆるワイヤータック(配線類を可能な限り隠す手法)や、シェイブドベイ(エンジンルームにも外板同様の板金塗装を施して見た目を整える手法)といった、アメリカ発信の作り込みを得意とする職人。当コーナーの撮影を担当しているサンダー平野が勝手に命名した「チューニング第三世代」を代表する実力者でもある。
長野県に住むオーナーは、もっぱらLINEでKazuさんと連絡を取り、使用するパーツや仕上げの方法について相談。「基本的にはKazuさんにお任せでした(笑)」と言うが、ひとつだけ大きな拘りとして4連スロットルの装着をリクエストした。
その結果、SARDの4スロットルキットを装着することが決まったのだが、百戦錬磨のKazuさんがマニュアル通りに「はい、付けました」で終わらせるわけもなく、独自の技をぶつけまくっていく。
FA20型水平対向のエンジンブロックと6速MTのミッションケースはシルバー、メッキ調塗料、クリアの3層コートでメイクアップ。エンジンベイもボディと同じサテンホワイトパールでペイントした。
水平対向エンジンに覆いかぶさる純正のサージタンクやインテークパイプはあっさり放棄し、4連スロットルにセラミックコートを施した上で戸田レーシングのファンネルを取り付け、ヴィンテージな雰囲気を再現。リンケージの要へと役割を変える純正スロットルをマウントするステーは、各種センサーの配線やウォーターラインを隠す役目も担っている。
その他、バッテリー、ヒューズボックス、ABSユニットを目立たない位置に移設する一方、見た目がカッコ良いラディウムのキャッチタンクは目立つ位置に追加。フロントがガラ空きになることで露わになるプーリーとエキマニは戸田レーシングで統一し、ミシモトの電動ファンとオーバーフロータンクが付いたラジエターも備える。
どうしても目に入ってしまう配線類は、高品質なパーツに置き換えると同時に綺麗に束ね、できるだけ存在感を消すように工夫。オルターネーターにもガンコートを施して、エンジンルーム全体の統一感を生み出した。86 Racingが標準装備するエアコンをデリートする一方、オイルクーラーはそのまま活用している。
一方で外装は、元々の目的でもあったUSDMを実現するため、灯火類やエンブレムをサイオンFR-Sの純正品に交換。ボディは純正色のサテンホワイトパールでリペイントされているが、86 Racingの標準仕様である素地のドアハンドルはそのままキープした。ホイールとブレーキ以外はノーマル然としている力の抜き方がカッコ良い。
86 Racingも本来はリヤシートが備わる4人乗りだが、カーペット類も含めてすっかり撤去。フロアと標準装備のロールケージはボディ同色でペイントされ、美しくもレーシーな雰囲気を醸し出す。
オーディオレスカバーが備わる位置には、水温、油温、油圧のTRD製3連メーターを装備。ステアリングはアメリカのレナウン製でイエローのセンターマークとステッチが入ったコンペティティブなモデルだ。フルバケットシートはレカロのRS-GEを備える。
ホイールには車種専用サイズを展開するアメリカの鍛造ワンピースメーカー、タイタン7のT-R1(FR9.5J×18+40)を装着。組み合わせるNITTO NT01は40偏平という厚みのあるサイズ選択で、いかにもアメリカのサーキットを走っていそうなむっちり感を引き出した。
ブレーキもアメリカのロートラ製で、フロント4ポット、リヤ2ポットの鍛造キャリパーとビッグローター(F355mm2ピースローター+316mm1ピースローター)を組み合わせる。車高調は326パワーのチャクリキダンパーを備え、メーガンレーシングの調整式サスペンションアームも装着することで理想のローダウンを追求。
「外観はわりとサラッとしているけど、エンジンルームには拘りが入りまくっている今の仕様がとても気に入っています。全く想像できない展開でここまで来ましたけど、このクルマに感じた縁を大事にして本当に良かったと思います」。そう笑顔で振り返るオーナー。86は一生の愛車と心に決め、次なるアクションも構想中だ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI