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横置き2ローターでFF駆動の変態グルマ!
フランス車マニアが個人輸入して所有
ピストンの往復運動によるレシプロエンジンに対し、ロータリーエンジンは三角形のローターの回転運動により動力を生み出すのが特徴。その原理を発明したドイツの技術者フェリクス・ヴァンケルにちなみ、ロータリーエンジンは別名“ヴァンケルエンジン”と呼ばれることもある。
知っての通り、数々の難題を解決してロータリーエンジンの量産化に成功したのはマツダだが、それに先駆けて世界で最初に実用化にこぎ着けたのはドイツのNSUヴァンケル。そしてかつてロータリーエンジン搭載車を市販していた第3のメーカーが、フランスのシトロエンだ。
ここで紹介するのは、シトロエンGS BITOROR(ビトロール)という1974年製のモデル。NSUとシトロエンの合弁会社コモトール製の水冷2ローターエンジン(排気量497.5cc×2)を、マツダでは例のない横置き搭載のFF駆動方式としているのが特徴だ。
普段、目にしているマツダ製のロータリーエンジンとは補機類の装着方法も異なっていて、ウォーターポンプとオルタネーター(発電機)はエンジンを挾む位置に装着されている。
スパークプラグもNSU系とマツダではサイズや形状が異なる。ディスプレイとして展示されていたものを見てみると、向かって左側のNSU系エンジン用は、まさに沿面と呼ぶのがピッタリな側面電極となっていることがよく分かる。
エンジンルームの向かって左側に装着されている金色の大きなタンクは、ドライサンプ用のオイルタンク…ではなく、シトロエンの代名詞ともいえる油圧式サスペンション“ハイドロニューマチック”用だ。
50年近く前のモデルとしては駆動系も先進的で、ロータリーエンジンに組み合わされていたミッションは“Cマチック”と呼ばれるセミオートマの3速タイプ。シフトレバー前のセンターコラムに装着されているスイッチは、サスペンション操作用だ。
ベージュ基調のインテリアは、さすがデザインの国フランス車を感じさせる仕上がり。ステアリングはスポークがボスから生えているような独特形状だ。アナログ式を採用したメーターは、ベース車とは異なるビトロール専用のものらしい。ステアリング右側にあるドリンクホルダーのような物体は、ステッキ型パーキングブレーキのハンドルだ。
実はこのシトロエンGSビロトールは悲運のクルマで、第一次石油ショックの影響を受けて生産されたのは約2年で874台。しかも、生産終了後にはメーカーによる回収が行われて、その大半がスクラップと化したという。
当然、日本での販売も行われてはおらず、オーナーの小幡さんは現存していた個体をフランスから個人輸入して維持。実動するものは日本では唯一、世界でもほとんどないという超レア車なのだ。
ちなみに、オーナーの小幡さんはフランス車好きの間では有名な存在で、自宅の庭にはフランス車を中心としたコレクションカーをずらりと並べ、レアなグッズも数多く所持しているそう。取材時に持参していたマツダ車エンブレムもその一部だ。あらゆる意味でマニアなのである。