「どれだけの人がこのAE85の凄さに気づくだろうか・・・」バイク用ヘッドを流用した3A-U超高回転仕様に感動!

あのハチゴーエンジンでここまでやるか!

エンジン屋が作り上げた超燃焼効率追求仕様

衝撃的…、いや感動的だ。AE85に搭載される1.5L直4の3A-Uに、スズキのリッターバイク“ハヤブサ”(2代目)のシリンダーヘッドを組み合わせたエンジンを搭載した変態仕様である。

製作したのは“オフィストミタク”の富松代表。OS技研でスーパーロックLSDやTC24-B1Zの開発を手掛けてきたエンジニアであり、生粋の職人だ。

「試したかったんは、“燃焼を極めるとどうなるか?”ということ。始めは3Aに4A-Gヘッドを載せようと思っとったんだけど、ハヤブサのヘッドを持ってきたらボアピッチが近くてコレはいけるんじゃないかと。バイクのエンジンはクルマよりも遥かに開発費がかけられていて、昔から勉強になることが多かった。燃焼室の形状を見ても、明らかにクルマより効率が良いのは分かっとったんでね」と、富松代表はこのエンジンの製作に至った経緯を語る。

ハヤブサのヘッドを見ると、まず燃焼室が非常にコンパクト。スキッシュエリアもしっかり確保され、燃焼室内で混合気を必要以上に拡散させない様子が見て取れる。さらに、バルブやリテーナーは全てチタン製と、その内容はクルマで言えば純レース用に匹敵するものだ。

腰下は純正0.5mmオーバーサイズのOS技研製78φ鍛造ピストンを使用。トップ形状は燃焼室に対向する面を凹ませ、スキッシュエリアと接する面をフラットに設計。ハヤブサヘッドとTRD製4A-G用ガスケットとの組み合わせにより、圧縮比は13.0:1に設定される。

富松代表が言う。「ピストントップが盛り上がっとると燃焼に“影”ができて、火炎が綺麗に伝播せんのよ。つまり、燃焼効率が落ちる。それと大事なんが点火系。どれだけ強い火花を飛ばせるかということと、正確な点火タイミングやろな」。

ディストリビューターには、高精度なピックアップセンサーを内蔵し、4気筒なら2万2000rpmまで対応するオリジナルを採用。本体はコンパクトな設計で、バルクヘッドを加工することなくエンジンを搭載できる。

今時のエンジンはダイレクトイグニッションが当たり前だが、コイル容量が小さく火花も弱いと富松代表は考え、より強い火花を飛ばせる昔ながらのディストリビューターを採用する。

また、一般的に点火時期を進めるとパワーが出ると言われるが、それは「燃焼スピードが遅いから点火時期を進めざるを得ない」と表現するのが正しい。点火時期を進めるということは、ピストンが上昇している途中=混合気を圧縮しきっていないところで点火することになり、効率はむしろ悪化する。つまり、燃焼効率の向上を目指すなら、点火時期は遅らせる方向になるのだ。

上死点前(BTDC)何度で示される点火時期はL型で40度、4A-Gで32~30度、OS技研TC24-B1Zで26度とされるが、富松代表が組んだ通称“3A-R”は23度。この数字こそ、燃焼効率に優れたエンジンであることを示す何よりの証と言っていい。

カム駆動は3A-Uがタイミングベルト、ハヤブサヘッドはタイミングチェーンと異なる。そこでスプロケットを製作し、駆動をベルトからチェーンへと変換。タイミングベルトは特注の専用品だ。カムを含めてヘッドはハヤブサ用をそのまま流用するが、「バルブスプリングは指で押せるほどレートが低い。これなら高回転域まで回しても抵抗にならんね」と富松代表。

キャブはウェーバーの45φをセット。AE85に載る3A-R 1号機はファンネルとブレーキマスターシリンダーが微妙に干渉。そのため、2号機以降ではキャブが全体的にもう少し前にオフセットされるよう、インマニ形状が見直されることになった。

助手席の足元にセットされたMSDと回転信号を送るアダプター。現状、1万1000rpm付近から点火が追従しなくなる(失火症状が出る)ため、独自にCDIの開発が進められている。

ストリートで快適に乗れるよう、当然エアコンも装備。コンプレッサーは小型軽量で、これまで富松代表が数々のクルマに流用してきた軽自動車用を使用する。

ステアリングホイールが交換される以外、基本ノーマルのインテリア。フルスケール8000rpmの純正タコメーターでは目盛りが足りないが、いかにもな雰囲気になるのを嫌ってあえて追加タコメーターは装着していない。

今回は公道で試乗する機会に恵まれたが、排気量に対して明らかにサイズが大きいはずのウェーバー45φキャブ仕様だというのに、アイドリングは安定してるし、低回転域でもグズる素振りはまるでなし。

踏めば超絶レスポンスとともにトルクが瞬時に立ち上がり、弾かれたように加速する。ファイナルが3.7であることを考えるとその加速感は異次元で、上まで回せる分、各ギヤでのスピードの伸び方も半端ではない。

点火が追い付かなくなる推定1万1000rpmまで引っ張ると、2速で“キンコンチャイム”が鳴り始めるくらいなのだから。これはS2000と良い勝負するのでは!?と思ったら、富松代表が「なかなか速いんよ」と一言。1.5Lエンジンでも、燃焼効率を究極まで追い込むとこうなるのか!! と、目から鱗が落ちたのだった。

「パワーチェックとはしとらんけど、恐らくリッター100ps…1.5Lだから150psくらいのもんだと思うけどなぁ」と富松代表。燃焼効率の改善はパワーやトルク、レスポンスはもちろん、燃費の向上ももたらす。実際、岡山~横浜間の高速移動では16km/Lをマーク。動力性能面のエンジンパフォーマンスを考えると驚異的な数字だ。

なお、オフィストミタクでは4A-Gベースのハヤブサヘッド仕様も開発を進めており、車両に搭載できる段階まできていることも最後に報告しておく。

これはチューニングエンジンの一言で片付けられるレベルではない。内燃機関の核心と革新に挑んだ超大作だ。

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Hiroshima Kentaro)

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