「ママの愛車は1000馬力のEGシビック!?」400メートルを8秒台で駆け抜けるドラッグ仕様!

K24ベースで1000馬力を達成する技術力に乾杯!

羊の皮を被った狼も逃げ出す“赤ずきんちゃん”のポテンシャル

単純明快で、勝ち負けがすぐに分かるドラッグレースは、元々アメリカ人の気質に合ったモータースポーツだ。だが、イベントごとに煩雑で曖昧なクラス分けやローカルルールがはびこり、ドリフトなどの新興勢力が登場したこともあって、やや下火になっていたことは否めない。

それが最近になって再び脚光を浴び始めている理由は、他の競技よりも「アフォーダブル(手頃な価格で手に入る)」であると再認識されたからだ。

今回紹介するスポーツカーモーションのEGシビックは、「SFWD(スポーツ・フロント・ホイール・ドライブ)」と呼ばれるカテゴリーに収まるドラッグマシン。

SFWDは文字通り、前輪駆動車で競われるクラスだが、事実上は歴代のシビックとインテグラのみが参加するホンダ・オンリーのクラスと言っても過言ではない。それらホンダ車はアメリカでも車体が豊富に存在し、アフターパーツも数多く用意されていることから、チューニング自由度が高く、コストパフォーマンスに優れるからだ。

この1992年式シビックは、まず強化パーツを組み込んだK24型エンジンをスワップ。強化ピストンやマンレーのコンロッド、スーパーテック製強化バルブ、K型エンジンに最適化した特注カムなどが投入される。

この強心臓にギャレットのGTX4294Rタービンを組み合わせ、1000psオーバーを達成している。ボンネットに設けられたタービン用のインレットダクトと、ボンネット貫通でレイアウトされた排気パートが強烈なインパクトを放つ。

足回りはスカンク2のシステムを軸に構築。サス剛性を上げるトラクションバーやキャンバー調整用のロワアームなどを使用して下回りも強化済みだ。

ホイールはSFWDで定番な、エクソスピードの鍛造8スターホイールを装着。フロントが13インチ、リヤが15インチとなっている。タイヤはフロントが極太、リヤが極細という、SFWDならではのサイズ設定。1000psのパワーをトラクションに変換するフロントにはドラッグ専用のスリックタイヤが組み合わされる。ナットは日本のCRUIZE製クロモリレーシングナットが装着されていた。

エクステリアは、外板の一部にカーボン製を使って軽量化。当たり前だが、車体を覆うビニールラップの完成度は、プライベーターと一線を画す仕上がりだ。スポーツカーモーションのモットーは、シンプルでファンクショナルであること。元のクルマが何であるか分かるようにスタイリングを保ちながら、スポンサーのために「いかに目立つか」を追求している。赤やオレンジなどの原色を好んで使うのもそのためだ。

室内はダッシュボード周辺を除いて、内装のほとんどを撤去して軽量化。ドライバーズシートも軽量なスパルココルサを採用する。ワールドレーシング製のクロモリロールケージで剛性をアップし、安全性も確保。

Kチューン製のシフターとゴッドスピード製ハンドブレーキを装備するところがドラッグレーサーならでは。シフターは純正のHパターンのまま取り付けが可能で、ミスシフトを防ぐ機構も備えた優れもの。ドライバーのモーガンがこれらシフターやハンドブレーキを駆使する時が来るのが待ち遠しい。

その他、動力系もコンペティションクラッチのツインディスクやPPGのドグミッション、特注のドライブシャフトなどで大幅に強化。一方で、車重は約1020kgに抑えられ、テスト走行における非公式なものとはいえ、1/4マイルで8.80秒、最高速164mph(約263.9km/h)という途方もないタイムとスピードをマークしている。

SFWDにおける8秒台は全米でもトップクラスのタイムであるため、ぜひ公式記録の樹立を期待したいところだ。

ところで、この赤いシビック。『Little Red Riding Hood』というショーネームが与えられているのだが、実はこれ、童話『赤ずきん』の原題。1000psを超えるモンスターに“赤ずきんちゃん”とは恐れ入るが、実はドライバーが女性だからこそのネーミングなのである。しかも、その女性ドライバー、生後8ヵ月(取材時)の赤ちゃんのママだとか!

子供の頃からオトコ勝りのオテンバとして育ったモーガン・ジェイドは、免許を取得して最初にCR-Xを購入して以来のホンダフリーク。アメリカでも女性ドラッグレーサーは希有な存在だそうで、彼女のライフスタイルは注目に値する。

ただ、現在レースは育休中。取材時に本人に会うことはできなかったが、今後ベイビーの成長を見守りながらレースへの復帰を目指す予定とのことだ。このEGシビックは、そんな奮闘するママさんレーサーの頑張りにも期待したくなる1台だった。

PHOTO:Akio HIRANO  TEXT:Takayoshi SUZUKI

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