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最先端の技術を詰め込んだスーパーチューンド
世界一の栄冠を勝ち取るべく進化を続ける
タイムアタックの世界選手権とも言えるWTAC(ワールドタイムアタックチャレンジ)に遠征し、2014年には表彰台の頂点まであと僅か100分の4秒に迫る世界2位を獲得。2015年〜2017年は3位入賞と、活躍を続けているアンダー鈴木。
シルビア乗りであれば、彼の名前を一度くらいは聞いたことがあるだろう。なにせ、タイムアタックの聖地として知られる筑波サーキットでも並み居る強豪ショップのデモカーを抑え、2021年末まで箱車のレコードタイムを保持し続けたのだから。
ベストタイムは2017年末に記録した50秒366。もはや、GTマシンやワークスデモカーすら凌ぐ速さだ。
そのバイタリティたるや感心を通り越して、呆れてしまうほどだ。アンダー鈴木は、クルマに関係のない普通のサラリーマン。仕事が終わってからクルマイジリに情熱を注ぐ。休みの日も当然、マシンのアップデートをするための貴重な時間だ。まさに365日、コンマ1秒のタイムを削るためにシルビアと向き合い続けている。
今回は、そんなアンダー鈴木が筑波50秒366を記録した際のマシンメイキング(2017年スペック)を見ていく。
心臓部はSR20ベースだ。VR38や2JZなど、世界の強豪を相手にするにはもっと有利なベースエンジンが山ほどある。しかし、アンダー鈴木は頑なにSRに拘り続けている。
「正直なところ、絶対SRじゃなきゃ駄目ということはない。VR38なんかは興味がありますし。ただ、俺の中ではシルビアにはSRなんじゃないかなって。仕様変更をしている時間もないし」。
年次変更の度に進化を続けるSRユニットは、2017年スペックでついにアルミビレットブロックを投入。腰下の耐久性を大幅に引き上げた。
なお、ムービングパーツはBCのストローカーキットで2.2L化、そこにVEヘッドを組むという構成は変わらないが、タービンはGT4088Rへと大風量化。800psオーバーを常用発揮させている。
サージタンクはハイパーチューン製の大容量タイプを使用し、スロットルはこの撮影後にワイヤー式からビレットの電子制御式へと変更。モーテックM1シリーズによる綿密なマネージメントと組み合わせて、パドルシフト化を可能としている。
オイル供給は2012年までは通常のウエットサンプだったが、800psの負荷に耐えきれずオイルポンプが砕けてエンジンブロー。2度と純正オイルポンプを使わないと誓ったアンダー鈴木は、ナプレックの協力を得てオリジナルのドライサンプシステムを開発した。
意外にも、クーリングに関してはそれほど苛酷ではないという。それよりも各コアに当てたフレッシュエアを綺麗に抜くことを重視し、スーパーGTマシンさながらのドライカーボン製エアガイドを構築している。
クーリング関係で唯一厳しいのがパワステ。ポンプブローを幾度となく経験しているため、専用のオイルクーラーを装備している。
後席部分は隔壁で覆って独立させ、そこに燃料系パーツを集中配置。2013年スペックまではノーマルの燃料タンクを使用していたのだが、2014年スペックからは安全タンクに変更。左側には安定した燃料供給のためのコレクタータンクが設置されている。
トランクルーム内もドライカーボンでフルリメイク。中央に見えるのは、ドライサンプ用のオイルタンクだ。
リヤのエアトンネル内の気流を乱さないよう、デフオイルクーラーもトランク内に設置し、電動ファンで冷却している。
サスペンションも凄まじい。まずフロントは、ストラット形式を保つがアームやアップライトは完全なカスタムメイドとし、メカニカルグリップを高めつつスクラブ半径を適正化。エナペタル製ダンパーにはストロークセンサーも装備し、常にロガーによる走行状況の解析を行っている。
各アーム類は寸法だけでなく、強烈な負荷にも耐えられるように強度・剛性はしっかり確保。スタビマウントなど、削り出しパーツの形状や仕上げの美しさは特筆ものだ。
一方のリヤサスペンションは、空力とトラクション性能を追求した結果、マルチリンク形式からフォーミュラカーのようなロングスパン型のダブルウィッシュボーン形式へと大改造。リヤサスメンバーを廃止してアーム取り付け部は新設、デフケースはチューブパイプフレームに固定している。
こうしたメイキングは、エアトンネル内の空気の流れを乱さないようにしたいという思いも絡み合っているが、当然ながらサスペンションの肝となるジオメトリーは完全にオリジナルだ。
基本的に連続周回は考えていないワンラップスペシャルのため、ブレーキは熱容量よりも軽さに拘って特注したガーランド製ローターに、エンドレス製のモノブロックキャリパーを組み合わせる。
室内は完全なレーシング仕様だ。ダッシュボードは自作のドライカーボン製で、レースパック製のマルチメーターIQ3を使って各種情報を表示。電動ファンや燃料ポンプ等は全てECUでスイッチング管理を行っている。
シートはブリッド製のマキシスIIIをチョイス。安全性とホールド製の高さには絶対の信頼を置いているそうだ。
バッテリーはドライ式を助手席スペースに固定している。
ミッションは初期段階からホリンジャーの6速シーケンシャルを愛用。撮影時はIパターンシフトだが、現在はパドルシフト化されている。
意外にもペダル類はノーマル。ちなみに、ウインカーレバーもノーマルのままだったりする。
ホイールは高剛性を誇るボルクレーシングZE40で、タイヤにはアドバンA050(295/35-18)を組み合わせる。コンパウンドは最もソフトなG/Sを使う。
そしてエクステリア。2013年のWTACで世界のレベルをまざまざと見せつけられ、エアロダイナミクスの刷新を決意。
シャーシを取り巻く外板は、全てセルフプロデュースのオリジナルドライカーボンパーツで武装している。なお、巨大なウイングやアンダーボードが生み出すダウンフォースは、2トンを超えるというから尋常ではない。
フェンダーは295/35-18サイズを収めることを前提に製作。ホイールアーチ内のエアをスムーズに排出させることも狙い、レーシングカーのようなスプリッターやダクトが設けられている。全幅は2000mmだ。
今やタイムアタックマシンでは珍しくなくなったドライカーボンルーフだが、その先駆けはアンダー鈴木だった。もちろんオリジナル品だ。
リヤウイングは3枚羽タイプで全幅1960mm。以前の2枚羽に比べ、同じダウンフォース量ならウイングを立てずに済むため、ドラッグを減らせるという。3D形状の翼端板もドライカーボン製だ。
2001年、街の中古車屋で購入したS15シルビアが、ここまで進化するなど誰が予想できたであろうか。世界が認める最強プライベーター、アンダー鈴木。現在は、2020年のWTACで大クラッシュしたボディの修復作業を続けているが、プロクラス完全制覇、そして筑波サーキット49秒台突入を目指した孤高の戦いは、まだまだ終わらない。