目次
飲酒は確実にドライバーの集中力をジワジワと奪っていく
未だ呆れるくらいにニュースで見聞きする飲酒運転事故。2007年からの飲酒運転厳罰化、2009年からの行政処分強化により、飲酒死亡事故は年々減少傾向にはあるものの、2015年以降は下げ止まり、ほぼ150〜200件で推移している。
しかも、飲酒無しに比べ飲酒運転による死亡事故は約8倍、酒酔い運転死亡事故に至っては約17倍との統計も出ている(警察庁交通局の資料より)。
「飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!!」は、なぜ100%厳守されないのだろうか…。
そこで、今回紹介するのはOPTION誌1984年1月号の“飲酒したら運転はどう変わるのか?”というテスト記事。テスターは当時OPTION編集部で働いていた、現在はレーサー→自動車評論家として大活躍の“コボちゃん”こと桂伸一氏。コボちゃんは昔も今も、1滴の酒も飲めず、飲み屋の前を通っただけで顔が赤くなるというくらいのお方だ。
飲酒運転テスト:短時間なら意外なニトロ効果、だけど持久力が・・・
お酒を飲むと運転にどんな影響が出るのか? テスターをDaiにすると編集費を使い切るまで飲んでもシラッとしているので、今回は1滴も飲めないコボに無理やり飲ませてみた。
テストコースは谷田部の高速周回路。結論から言えば、短時間であれば“酒を飲んでいたほうがキビキビ走るし反射神経も研ぎ澄まされる”。これは、パイロンスラロームのタイムや、ブレーキングテストの記録にもハッキリと表れている。酔って思い切りが良くなる点も大きく影響しているのだろうが、飲んで運転する罪悪感が「しっかり運転しなくては!」という意思を強く働かせているのかもしれない。
ところが、時間の経過とともに覚醒要素は消えていき徐々に集中力が低下。緊張が持続しなくなって、諦めも早くなっていった。パイロンスラロームでは最初の2~3本こそクリアするが、1本タッチするとその後は全てのパイロンを倒してしまうのだ。
ブレーキングも、ラインをオーバーしたり2メートル前で止まったりと安定せず。この時の酒量は、ビール:コップ2杯&日本酒:少々といったところだが、飲めないコボにとっては完全に未知の領域だ。その証拠に、片足ではまるで立っていられず、真っ直ぐ歩くことすらできなくなっていた。
さすがにここまでの酩酊状態で運転する人はいないだろうが、怖いのは“チョイ飲み”段階だ。自分では飲んでいるという気持ちが小さく、短時間であれば運転への影響も少ない。いや、場合によってはテストのようにアルコールがプラスに作用することもある(警察の研究でもこれに近い実験結果が出ている)。
とはいえ、法律は絶対だ。とにかく「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」の精神が最低条件であることを決して忘れないでほしい。
「やってみました飲酒運転トライアル!」テスター:桂伸一
当日は、大雨の谷田部高速周回路。こんな雨の中で飲めない酒を飲む俺…。とにかく頑張って飲む。テスト方法はスラロームからゴール地点でのブレーキテストまでの約200m。ブレーキテストは決められたラインにいかに近く停止させられるか、だ。
飲む前のテストではスラロームが23秒50がベスト。ブレーキングはライン手前50cmがベスト。脈拍74という数値だった。
ところが、飲んだ後のテストではスラロームのベストが22秒21! 平均でも22秒台、脈拍101とグッとタイムアップ。ブレーキングもベスト20cmまで詰めることができた(ライン超えも増えたが…)。とにかく、飲んだ後のほうが速いし思い切りが良くなったのだ。
もしかして飲酒にはニトロ効果が…などと思っていたのも束の間、4回目のトライ辺りから調子が…。というのも、目の前の作業は考えられても、トータルの流れが分からなくなってくるのだ。ブレーキングも変に手前で止まったり、大幅にオーバーしてしまう。それでも走ることだけに神経を集中させていると、徐々に吐き気が! 歯を食いしばりながら走ったものの6回目でついにお手上げ。雨の中、草むらに走って…までは覚えているのだが…。
終わりに
飲んだ直後は思いきりが良くなりタイムアップし、ブレーキングも冴えていたが、時間経過とともにグダグダになっていった…という結果を生んだOPTION誌の飲酒運転テスト。
単独事故で済むのなら自己責任。しかし、人を巻き込んで飲酒事故を起こした時には“終わり”だ。罰則が厳しいから飲酒運転はしないではなく、人として飲酒運転はしない!という考えが広まることを願って。