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美観にも拘る最先端サーキット仕様
心臓部は800馬力の3.4Lフルチューン仕様の2JZを搭載!
Attack筑波2015の参戦経験もあるなど、日米にその名を轟かせている“イベイシブ・モータースポーツ”。地元アメリカでは国内にある複数のサーキットを転戦するグローバル・タイム・アタック、そしてその最終戦にあたるスーパーラップバトルで、常に好成績を収めている。
独創的なクルマ作りでも注目を集めるイベイシブが、サーキット以外に大きなターゲットとしているのが、年に一度コロラド州で開催されている『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム』だ。
普段は有料の観光道路である全長約20kmのワインディングが舞台となり、ゴール地点の標高は4300mと富士山よりも高い。登るほどに酸素が薄くなるためエンジンの出力が下がり、天候や路面状況も刻一刻と変化するなど、人にもクルマにも厳しい大会として有名だ。
そんな大舞台で暴れ回ったサイオンFR-Sが今回の主役だ。2016年9月でサイオンブランドが消滅したこともあり、以降、イベイシブはトヨタ86として出場登録を行っている。
心臓部は、2016年にFA20から2JZ-GTEのフルチューンスペックへとスイッチ。2019年の大会直前に新調されたものの、それまで信頼性を積み重ねてきた基本セットアップは踏襲。腰下はBCのストローカークランクを使用して排気量を3.4Lまで拡大している。ヘッドも徹底的に手が入れられている。
オーストラリアにあるDavies Craigの電動ウォーターポンプ、適正な油圧を保つアキュサンプなど、潤滑と冷却対策も徹底。
タービンは以前より小径のギャレットGTX3598Rに変更され、最高出力は811ps、最大トルクは103.5kgmを発揮。エキゾーストは、カスタムメイドの4インチダウンパイプをフェンダーサイドへ、ウエストゲートバルブと直結したダンプチューブは車体下側へとアウトレットする。
トランスミッションはサムソナスの6速シーケンシャルを使用し、ファイナルギヤは加速性重視の3.785という設定だ。
156ものコーナーが連続するパイクスピークでは、ロードホールディング性能を高めることも重要。サスペンションはKWの3ウェイ車高調とワイズファブのアームキットでリファインし、各種エアロパーツも装着。下回りはAPR製の軽量ハニカムボードで全面的に覆われ、フラットボトム形状とすることで強力なダウンフォースを獲得している。
ホイール&タイヤは、金型鍛造ワンピースのアドバンレーシングGTに、ヨコハマのレーシングスリックを装着。フロントはロケバニのワイドフェンダーからさらに30mmワイド化されており、前11.0J×18+15、後12J×18+20のワイドトレッドを実現。
ブレーキはアメリカンブランドのSTOPTECH製ビッグキャリパーを採用。ドリフトシーンで名を馳せるワイズファブがグリップ走行用に展開する前後アームキットを備え、イベイシブ独自のアライメントとコーナーウェイトバランス調整も行っている。
エクステリアは、ロケットバニーをベースにしたオリジナルのカスタムワイドボディで武装。フロントワイドフェンダーにベントを設けてブレーキの冷却性を高めている。APRパフォーマンスのフロントバンパーやリヤウイングなどのエアロパーツを備える他、すべてドライカーボンで作られたSEIBONのボンネット、ルーフ、ドアパネル、トランクフードも装備し、空力効果と軽量化を両立。
スタートとゴールの標高差が1440mにも達するパイクスピークにアジャストするため、オリジナルのウォータークーリングスプレーシステムも構築。Vマウントされたインタークーラーやラジエターの他、オイルクーラー、デフクーラー、フロントブレーキキャリパーに水を噴霧して冷却する。吸気系統にはDevilsOwnのメタノールウォーターインジェクションも備わり、酸素が薄い状況でも充填効率を高める工夫が盛り込まれている。
オリジナルのカスタムロールケージとリヤバルクヘッドパネルが備わるスパルタンな室内。吸気にメタノールを噴射するDeviisOwnのウォーターインジェクションタンクも室内に備わる。エンジン制御はモーテックM130で行い、ダッシュディスプレイとPDMも装備する。
トランクにはE85用の燃料タンクを備え、確実な燃料供給を実現するためホーリーのハイドラマットやラディウムのコレクタータンクも設置。燃料タンクの近くにレギュレーターを設け、早めにリターンするセットアップも採用。燃料がエンジンに届く前に加熱されることで起きるベーパーロック現象のリスクを抑制している。
2019年のパイクスピークでは夢の10分切りを目標に掲げ、フォーミュラドリフトでチャンピオン経験のある日本人ドライバー、Dai Yoshihara(吉原大二郎)を迎えた。4日間に渡る練習走行は好調そのもので、予選は7位を獲得。だが、残念ながら決勝ではデビルズ・プレイグラウンドと呼ばれる名物エリアを目前に駆動系と思われるマシントラブルが発生。無念のリタイアを喫してしまった。
ほろ苦い結果に終わったパイクスピークだが、極限のチャレンジを通して持ち帰ったものも多い。そう遠くない将来、雲の向こうに見える10分切りを実現することだろう。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI