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全開という生き様
アクセル全開を信条とするスピードスター達が駆け抜けてきた深夜のストリート最高速ステージ。その中で、未だに熱くたぎるオーナーの思いと共に、第一線への復帰を虎視眈々と狙うマシンがある。伝説的な走り屋チーム「ミッドナイト」に所属するBCNR33だ。
サーキット仕様と呼ぶには、あまりにも湾岸の残り香が強すぎる。
「前を開けろ!」。バックミラーに映る強烈な閃光がそう叫んでいるようだ。ほとばしる“本気組”のオーラ、飛び石の傷跡が生々しい。いやはや、このBCNR33は湾岸最高速の残り香が強すぎる。
「子供の頃にやり込んだ、初代グランツーリスモで一番速かったのがR33GT-R。そのうち全盛期の谷田部の映像とかを観るようになり、どんどん惹かれていったんです。免許を取ってすぐ買いましたよ。他のクルマには目もくれませんでしたね」。
以降は、谷田部への憧れを抱きつつ巨大な最高速ステージに入り浸る日々。フルノーマルで購入した車両も、走りの要求度に合わせて姿形を変えていき、気がつけばフルチューンの領域に達していたそうだ。
そんなオーナーが、かの有名な最高速系チーム「Mid Night(ミッドナイト)」に加入したのは比較的最近のことだ。
「全盛期のミッドナイトを知る人にとっては意外かもしれませんが、今、正規メンバーになる条件はサーキットでの速さなんです。当時は湾岸で恐怖の入団テストがありましたけど、もう時代が違いますからね。自分の場合は、筑波で1分フラットをマークしてから正規メンバーになりました。スカウトに近かったです」。
ミッドナイトの看板を背負うようになってからは、チームの方針に則って主戦場をストリートからサーキットへと変更。それに伴い、マシンメイクも見直していったそうだが、高めにセットアップされた車高はバンピーな湾岸を全開で駆け抜けていた頃の名残だったりする。ちなみに、本気で湾岸を走るのであれば、現在の仕様でも低すぎるくらいなのだという。
「正直、クルマって純正で完成されているんです。あとは乗り手の好みに合わせたチューニングを進めていって、本来のバランスを崩さないことが大切だと思っています。要所要所に純正パーツを残しているのも拘りですかね」とはオーナー。
細部を見ていく。エンジンはT.R(テクノスレーシング)にて製作。ブロック割れを機に「近年の外車勢にも負けない速さ」を目指し、ボルグワーナーS300をセットしたビッグシングル仕様だ。腰下は1mmオーバーサイズピストン仕様で、強化品はコンロッドのみ。制御は純正ECU書き換えとし、ローブースト1.5kg/㎠で700ps弱、ハイブースト1.8キロで758psを叩き出す。
「グループAで600馬力だったエンジンです。本当に必要な箇所だけ強化してやれば全然壊れないですよ」とのこと。
足回りはHKSのハイパーマックスをベースにフロント10kg/mm、リヤ9kg/mmのスプリングを組む。バンピーな路面に対応できるよう柔らかめのセットアップではあるが、それだけではロールが抑えられないので強化スタビも組まれている。ホイールはBBSのLM(10J+20)でタイヤはミシュランのパイロットスポーツ(265/35−18)を履く。なお、サーキット走行の際はサーキット走行時はポテンザRE-71RS(265/35-18)に履き替えるそうだ。
購入当初は社外ステアリングだったそうだが、「事故ったら危ないじゃないですか(笑)」という理由からエアバッグ付きの純正ステアリングに変更。ハイチューンスペックには珍しいコクピットメイキングだ。車両情報はテクトムのMDM−100とデフィのブースト計で管理。空気圧センサーも備えているため、そのモニターもセットされている。
傷だらけのボンネットや色落ちしたGT-Rエンブレムが激しいバトルを想起させる。フロントバンパーは大型フォグがトレードマークの「TBKバンパー」とニスモリップを合体させたワンオフ品だ。
時代が急速に変化し、クルマ遊びを取り巻く環境も大きく変わった。毎週のように狂走に明け暮れた湾岸最高速ランナーなどもはや語り草でしかない。しかし男は言う。「僕はまだ引退したとは言ってませんよ(笑)」。
PHOTO:平野陽