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ワンオフクランクシャフトで排気量を3.2Lから3.7Lに拡大!
ピストンはコンマ5mmオーバーサイズ、VANOSはあえて残す
M3としては3代目、2000年に登場したE46に搭載されたエンジンが直6のS54B32型だ。ボア径φ87.0×ストローク量91.0mmから3246ccの排気量を稼ぎ、カタログスペックで343ps/37.2kgmを発揮する。リッター辺り105.6psという数値を誇るだけでなく、フィーリングや官能性でも多くのファンを魅了してやまない、世界でも屈指のNAエンジンだ。
しかも、ロングストローク型なのに最高出力の発生回転数が7900rpm、レッドゾーンも8000rpmからという超高回転型ユニット。そもそもBMWワークスM社渾身のチューンドエンジンなのだから、当然と言えば確かにその通りだ。
ノーマルでも…いや、M社が手掛けたノーマルだからこそバランスが取れてるエンジンだけに、チューニングと言っても吸排気系を軽く触ってECUマップを最適化するくらいが良いところだと思っていた。
が、コクピット館林は違った。オーナーのリクエストによって排気量アップするという。それも、海外でキットとして販売されている3.5Lでなく、オーバーサイズピストンにワンオフクランクシャフトを組み合わせたM社泣かせ(?)、掟破りの3.7L仕様なのだ! プラス500ccという怒涛の排気量拡大と併せて、可変カムのダブルVANOSを活かしたままというのも実は大きなポイントだったりする。
ワンオフ製作されたピストンのボア径はノーマルφ87.0に対してφ87.5。ストロークアップ量を考慮した冠面形状によって圧縮比も11.5から11.9:1へと向上する。
「とくに高回転を多用して走るとVANOSって油圧が抜けるトラブルが頻発するんで、海外ではそれをキャンセルして固定カムにするのが当たり前なんです。けど、トルクの谷間やトップエンドでのパワーの落ち込みを抑えられるのが可変カムの大きなメリット。だから、ウチではVANOSを活かす方向でいこうと。サーキット仕様では珍しいみたいなんですけどね」とコクピット館林の亀田さん。
このエンジンのハイライトと言えるのが、フルカウンタータイプのワンオフクランクシャフト。ストローク量が91.0mmから102.0mmへと11mmも伸び、ボアアップと合わせて排気量は3762ccまで拡大する。高回転型なのにラダータイプではないクランクキャップから、S54がいかに回転バランスに優れているかということが伺い知れる。
また、ストロークアップに伴って必然的にピストンスピードが上昇。レブリミットはノーマルの8000rpmに対して7000rpm付近になると予想される。それでも500ccもの排気量アップと合わせて低中速トルクがまるで別物になることは間違いないため、サーキットでのタイムアップは確実だ。
さらに、ウィークポイントも抜かりなく強化。チューニングエンジンでは油圧の確保が重要で、ダブルVANOSも作動させるS54ではなおさらだ。しかし、油圧を上げるとオイルポンプのシャフトがねじ切れるトラブルが発生するので強化品で対策する。
ここからは机上の空論ということを承知で書くが、105.6ps/Lで排気量3.7Lということは390ps。ダブルVANOSまで含めてVi-PECでのフルコン制御を予定しているため、見えてくるのは実測400psオーバーの領域だ。
日産L型チューンでは9000rpm以上まで回して400psという仕様もあるが、レブリミット7000rpmで似たようなパワーを狙えるS54チューン。完成が待ち遠しいかぎりだ。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Hiroshima Kentaro)
●取材協力 コクピット館林 群馬県館林市赤生田町2202 TEL:0276-73-5451
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