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現在でも通用する最高水準のマシンメイク!
世界三大ラリーの一つで優勝を飾ったメモリアルマシン
世界3大ラリーのひとつに数えられる“サファリラリー”。初開催は1953年で、1960年代初頭には石原裕次郎を主演の映画化されたことから日本でも大きな注目を浴びた。当時、伸び盛りであった日本の自動車メーカーもこぞって参戦したカテゴリーだ。
この中で、1980年代から強さを見せつけたのがトヨタのセリカ。FRのグループB時代に3連覇、トップカテゴリーがグループAへと代わり、4WD全盛期となったST165時代にも連覇を重ねた。
1993年当時、それまでトヨタのトップチームは全て外国人ドライバーを雇い入れて戦っていた。そんな中、シーズン終盤からTTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)に加わった日本人ドライバーが、テイン創業者メンバーの一人であり、現専務取締役を務める藤本吉郎氏だ。
藤本氏は1994年&1995年と、連続でサファリラリーに参戦。1994年はリタイヤに終わったものの、その経験を活かして1995年には日本人初の総合優勝という快挙を成し遂げる。
現役引退後、車両は優勝時の姿のまま日本に空輸され、いくつかの場所で展示保存されてきた。しかし、20年以上の月日が流れ、各部の劣化が進行。それを見かねた藤本氏がトヨタと交渉を重ねて車両を譲り受け、ヨーロッパの元TTEのエンジニアやスタッフに依頼してレストアしたのが、このST185セリカGT-FOURなのだ。
修復にあたって、まずは元TTEのスタッフが運営するドイツの工場に持ち込まれ、作業がスタート。その後、フランスのファクトリーでシャーシの再生が行われるなど大掛かりな作業を重ねたマシンは、機関系まで完全にリフレッシュされ、すぐにでも競技に挑めるほどのコンディションに復活。そして完成のお披露目として、東京オートサロン2023のテインブースに展示。多くの注目を集めた。
3S-GTEエンジンは市販車に近い仕様ながら、専用セッティングを施すことで295ps/6000rpm、42kgm/4000rpmという出力が引き出された。ストレートで極太のマフラーはインコネル製、オーバーハング部より後方が楕円径にされているのは、悪路で少しでもロードクリアランスを保つためと思われる。1990年代に製作されたマシンだが、随所にドライカーボンやカーボンケブラー製のアイテムが使われている。
ラリーシーンでは重要な役割を果たす駆動系。ミッションはX-TRAC製のHパターン6速ドグミッション。プロペラシャフトは当初カーボン製だったが、トラブルが多かったことからパンクル社製のチタン製へとシフト。ドライブシャフトも同社のチタン製、カスタムメイドで強度的に優れたアップライトやアーム類が使用された。
悪路の走破性を高めるべく、このST185型からトラクションコントロールなど最新のシステムが採用されたのもトピックだ。
取り付け剛性まで高めてセットされたサスペンションは、TTE製の別タンク式。サブフレームは鋼管で製作されている。また、過酷なステージでのショップアブソーバー発熱対策として、ラジエターやオイルクーラーばかりでなく、サスペンション冷却用のウォータースプレーも装備された。
ブレーキキャリパーは前後ともアルコン製。クイックコネクターなどを多用しメンテナンス性も高く作られている。使われたタイヤはミシュランのLTX91(FR215/65R15)、ホイールはOZラリーレーシングが装着されている。
ラリーという特殊なステージを戦い抜くため、コクピットも強固に作り上げられる。乗り込む感覚はまさにシャングルジムだ。ドライバーシート周辺の操作系は意外にもシンプルで、メーターパネルにはタコメーターとインジケーターのみが配置される。
ナビゲーターシートの前にはラリーコンピュータや、インジケーター付きのヒューズボックスがセットされコドライバーが管理しつつ競技を進める。ちなみに、各種情報はデータロガーに記録されている。
気密性を保ちながらルーフ上まで取り入れ口を伸ばしたインテークシステム、通称“シュノーケル”はドライカーボン製。ボンネット面までの水深の河川を横断することができる。左右のサイドミラー前に付けられたライトはウイングライトと呼ばれ、自車の視認性を高めるもの。レギュレーションで設置が義務づけされているアイテムだ。
リヤゲートの中には140Lという大きな燃料タンクがセットされるが、それでも距離の長いSS(1995年のサファリラリーでは約200km)では燃料が不足する。
当時、そのようなステージでは随行するヘリから燃料補給を受けたという。搭載するスペアタイヤはリヤゲート上にセットされたものと合わせて2本が積み込まれている。ちなみに、1995年のサファリラリーではサービスカー約100台(スタッフ約200名)が競技車両に随行したというから、トップラリーの規模の大きさに驚かされる。
このレストアプロジェクトを推進した藤本氏にとっては、単に日本のモータースポーツ史に刻まれる名機というばかりでない。より良いサスペンションパーツを作るために設立したテインのルーツを思い、情熱を新たにする温故知新の一台にもなっていることは間違いないだろう。
PHOTO:堤晋一
●取材協力:テイン TEL:045-810-5501
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