GRセリカという名称が商標登録されていたことから、久しく途絶えていたトヨタの懐かしいスペシャルティカーが復活するかもしれないというニュースが飛び交った。セリカは1970年に初代が発売された後、1999年発売の7代目まで続いたスポーティさを売りにする看板車種だった。だが2006年に生産を終了すると、後継モデルのないまま現在に至っている。かつて多くのユーザーに支持されたモデルだけに、復活を待ち遠しく思っている人も多いことだろう。

復活待たれるセリカだが、ここでは懐かしい初代モデルを紹介しよう。9月13日に長野県上田市で開催された「アリオ上田特別な3Day’s 昭和平成名車展示会」に参加されていた白いセリカ1600GTだ。会場へ到着してすぐ目につく位置に置かれていたので大変目立っていた。ひとまず会場をひと回りして、後ほど取材を申し出ようと思うほど程度が良かった。しばらく会場を回ってからセリカの場所へ戻ってくると、こちらからではなくオーナーから声をかけられてしまった。

というのも、この白いセリカ1600GTのオーナーである西澤優幸さんを20数年ほど前に取材させてもらったことがあるため。その後も何度かセリカを取材させてもらい、いわば長いお付き合いなのだが10年ほどはご無沙汰してしまっていた。だからセリカを見てもすぐに西澤さんと結びつかず失礼してしまったというわけ。

久しぶりの対面だったのでしばらくは世間話に花が咲いてしまったが、肝心のセリカについて改めてお話を聞きながら撮影させていただいた。西澤さんは現在49歳なので、初見の時は20代の若者だった。その当時すでに国産旧車がブームであり、とはいえ現在のような高値高騰ではなかったため若者が入手することも難しくはなかった。だが、その当時はハイパワー車が人気であり若い層があえて旧車を選ぶケースは少なかった。

そこで素朴な疑問として、なぜ20代の西澤さんが初代セリカを選んだのかということになる。その理由は国産旧車オーナーにとって多数派とも言えるもので、親族が乗っていたから。西澤さんが幼き日、大好きだったお爺さんが乗っていたのが白いセリカだったのだ。その姿が印象に強く残っていたため、後々になっても思い出は薄まることなく、むしろ強く働きかけるようになったのだろう。いつしか大人になったらセリカに乗りたいと思うようになったのだ。

初代セリカでも西澤さんが所有しているのは初期の1600GT。発売時は1.4リッターや同じ1.6リッターのOHVエンジンがラインナップされ、内外装を自由に組み合わせることができる「フルチョイスシステム」と呼ばれる販売方法が採用された。ところが1.6リッターDOHCエンジンを搭載する最上級グレードのGTでは、フルチョイスシステムが適用されず、内外装の組み合わせはカタログ通りでしかなかった。

当時としては高額なモデルだった1600GTだから、人気のあるボディカラーはソリッドよりメタリック。特にイメージカラーでもあるターコイズブルーの人気が高く、ソリッドにしてもイエローの人気が高かったように思える。ホワイトカラーが人気になるのは’73年に追加された3ドアのLB(リフトバック)以降という印象が強いが、西澤さんはあえてホワイトのボディであり、初期型のワンテールに絞ってセリカ探しをされた。

それもこれもお爺さんの乗っていたセリカの影響だったためで、ある意味念願の仕様を手に入れることに成功されたのだ。だから購入後にカスタムしたりエンジンをチューニングしたりすることなく、ノーマルを極力維持するように心がけている。カスタムにお金をかけるなら程度の良さを維持するための費用にされてきたのだ。

だから今見てもピカピカなコンディションを維持できている。おまけに購入時に装着されていたものの使えなかった当時モノのクーラーが使えるようにコンプレッサーやコンデンサーをオーバーホールして、酷暑が続いた今年の夏でもしっかり乗ることができるようにしている。言葉にすると簡単なことだが、実際にクーラーが使えるようにするのは結構な労力が必要で使えないままベルトを外してしまうケースも多い。それだけセリカ愛が強いという現れなのだ。

20数年も所有していると時に飽きたり乗らなくなる時期もあったことだろうと思うのだが、西澤さんにはそうした時期がまるでなかった。最初の取材から10年ほど経った頃、とある取材のため複数台の旧車に集まっていただいた。撮影場所は茨城県だったので予想もしていなかったが、当時集合してみるとその場に西澤さんがセリカとともに来られていて驚いた記憶がある。西澤さんが住んでいるのは長野県なので、その日の取材のために300キロ近くも自走して来られたことに感謝したものだ。

感謝すると同時に遠くまで自走できるコンディションに感心してしまった。旧車でそれだけの距離を往復するためには愛車へ相応の自信がなくてはできることではない。話を聞けば購入時からコンディションは悪くなかったものの、今から10年ほど前にエンジンのオーバーホールを含むレストアを実施されたとのこと。

とはいえフルノーマルにこだわっているわけでもない。サスペンションはTRD製ショック&コイルに変更しているし、アルミホイールは当時モノのATS製だ。またどうしても経年でサビが発生して穴が開いてしまうマフラーはワンオフで製作したステンレス製にしている。それもこれも現代の路上で安心して乗れるようにする対処であり、抜けたり劣化したサスペンションでは安心して走れないし細い純正ホイールでは選べるタイヤが限られてしまう。

西澤さんのセリカ愛は年月とともに重みを増しているようだ。というのもこの1600GTの次にはLB2000GTを、さらにLBと同時期の1600GTV、さらにはST202、ST205GT-FOURと次々にセリカを買い足してしまった。まだまだセリカ熱が冷めることはないようだ。