D1GP参戦20年の軌跡が残したもの

20年以上にわたってドリフトの最高峰シリーズ「D1グランプリ(D1GP)」を舞台に戦い続けてきたトーヨータイヤが、2026年をもってワークス体制での参戦に終止符を打つ。しかしこれは撤退ではなく、より大きなステージへの布石だ。次なる挑戦の地として選んだのは、世界中で最も過酷であり、緑の地獄(グリーンヘル)とさえも表現されるサーキット、ドイツが誇るニュルブルクリンクである。

D1GP参戦のためFR化され2014年より投入されたR35GT-R。TRUSTのチューニング技術により、1000馬力オーバーを与えられ、最大級の話題をさらった。

トーヨータイヤがD1グランプリへの参戦を開始したのは、今から20年以上前のこと。当初の目的は明快だった。日本国内でモータースポーツファンを増やし、自社のスポーツタイヤブランド「プロクセス」の認知度を高め、同時にタイヤの技術開発に役立てること。その三つを柱に、長年にわたってシリーズを戦い続けてきた。

その成果は確かだ。「D1グランプリといえばトーヨータイヤ」というブランドイメージは着実に根付き、川畑選手をはじめとするワークスドライバーたちは実力と人柄でファンを獲得してきた。過酷な走行条件の中で磨き上げられたタイヤ技術は、市販タイヤへのフィードバックという形で着実に実を結んできた。

そして今、この20年をもって「目的は一定程度、達成できた」という。

転換点となったのは、同社が先頃発表した2030年に向けた中期経営計画だ。その柱のひとつに掲げられたのが、プロクセスブランドのさらなる技術向上と、その開発拠点をヨーロッパへシフトするという方針である。

セルビアにある自社工場の近隣には、欧州R&Dセンターが新たに設立される予定だ。日本、アメリカ、ヨーロッパの3拠点体制となるこの研究開発網の中核に、欧州センターを据えようというのがトーヨータイヤの描くシナリオだ。タイヤ開発の「本場」であるヨーロッパの材料、環境、知見を最大限に活かし、プロクセスをグローバルブランドとして進化させる。そのためのニュルブルクリンクへの注力である。

トーヨータイヤのプレミアムスポーツブランド「PROXES(プロクセス)」。

なぜニュルブルクリンクなのか

トーヨータイヤはすでに2020年からニュルブルクリンク耐久シリーズ(以下ニュル)へ参戦している。ニュルは年間10戦で構成されるシリーズ戦で、その中には世界的に名高い「ニュル24時間レース」も含まれている。ドリフトとは全く異なるカテゴリーながら、ここには唯一無二の開発環境がある。

全長約25kmに及ぶコースは、1周の中でアップダウン、路面温度、さらには天候までも変化するという極端な環境が凝縮されている。「コースの中で雨が降っているところと晴れているところが同時に存在する」という証言が、その過酷さを物語っている。季節をまたいだシリーズ戦では、春・夏・秋それぞれの環境変化への対応も求められる。まさにタイヤにとって「世界で最も過酷な鍛錬場」だ。ミシュランやファルケン、ダンロップ、横浜ゴムといった世界の強豪と同じフィールドで戦うことそのものが、技術開発の意義でもある。

2026年からはより最上位クラスの「SP9」へとステップアップし、GT300クラスで通算7勝、GT500クラスで通算3勝の実績を持つ中山雄一選手がプロクセスのアンバサダーに就任した。今年でちょうど35周年を迎えるプロクセスブランドと、今年35歳を迎える中山選手——その”縁”も、新たな挑戦のストーリーに彩りを添える。繊細なタイヤフィードバックと世界レベルの経験を持つ中山選手と、地元を知り尽くしたドイツ人ドライバーの組み合わせで、開発スピードのさらなる加速が期待されている。

東京オートサロン2026トーヨータイヤブースにて、ニュル挑戦への意気込みを語る中山雄一選手。

ドリフトが育てた次世代の社員

一方で、D1グランプリの20年が残したもうひとつの遺産が、じわりと注目を集めている。

昨年、新入社員となったばかりの梶谷洸太さんは、実は幼少期にトーヨータイヤのD1参戦映像を見て「かっこいい」と感じ、入社を志したというエピソードが社内で話題になっている。クルマ好きが憧れを抱き、10年以上の時を経てその会社の社員になる…モータースポーツ活動がリクルートブランディングとして機能していたことを示す、印象的な実例だ。D1グランプリへの参戦がタイヤ開発やブランド認知にとどまらず、将来を担う人材の獲得にまで貢献していたことが改めて浮かび上がる。

「入社したばかりでD1ワークスでなくなるのは残念ですが、得意の英語とコミュニケーション力でチームに貢献したい」と語る。

なお、今年でワークス体制は終了となるが、これまで参戦してきた選手たちへのサポートについては、「まだなにも決まっていないながら、タイヤ供給などは検討したい」としており、完全なるD1GPからの撤退とは違うようだ。

日本のドリフトシーンを牽引してきた20年を礎に、トーヨータイヤはヨーロッパの最前線へと歩みを進め、世界に通用するプレミアムスポーツタイヤを育てる意気込みだ。グリーンヘルと呼ばれる緑の地獄で鍛え上げられたタイヤ技術が、いつかあなたの愛車を支える足となるかもしれない。

そして、Team TOYO TIRES DRIFTとしてラストイヤーとなるD1GP2026シーズンは、東京オートサロン2026のキックオフ、そして今回の富士スピードウェイでのRd.0(ラウンド・ゼロ)に続き、第1戦&第2戦がAICHIが「愛知スカイエキスポ」で5月9日(土)〜10日(日)からスタートする。日本初のモータースポーツ「ドリフト」をここまで大きくした立役者「トーヨータイヤ」の有終の美を見るべく、自動車好きとしてみんなで応援しようではないか。