800馬力より重要なのは壊れないこと!
周回レースが育てたAGY流RB26
筑波サーキットの周回レースで、ポルシェをはじめとする強豪マシンと激しいバトルを繰り広げてきたBNR32。第二世代GT-Rを得意とする“オートギャラリー横浜(以下AGY)”が長年走らせてきたデモカーは、富士1分42秒台、筑波56秒台という俊足ぶりだ。

約1300kgの車重に800ps級のパワーを与えた本気のサーキット仕様だが、このクルマが追い求めてきたのは1周だけの突出した速さではない。決勝のスタートからゴールまで安定したペースで走り続けられる“周回の強さ”である。

AGYがアイドラーズへ本格的に参戦するようになって約10年。このR32は幾度となく優勝を経験し、現在も第一線で活躍を続けている。近年はポルシェGT3など強力なライバルも増えているが、GT-Rならではの加速力を武器に一歩も引かない。その速さと信頼性を支えるのが、実戦で積み重ねてきた膨大なノウハウだ。

心臓部はHKS 2.8Lキット・ステップ3を軸に仕立てた2771ccのRB26改。ヘッドは燃焼室容積を揃えてポートを整える程度に留め、バルブも純正を使用する。カムはJUNのIN292度/EX272度で、点火系にはR35純正コイルを投入。RB20用タペットカバーを流用した渋いルックスもAGYらしいこだわりだ。

組み合わせるタービンはHKS T51R SPL Kai。BOSCH製1050ccインジェクターを組み合わせ、LINKプラグインで制御することで、最大ブースト圧1.5キロ時に800psオーバーを発揮する。
圧縮比は若干高めに設定し、耐ノック性に優れるドラガスを使用することでレスポンスと力強さを両立。予選アタックではアンチラグも使用するが、決勝ではエンジンや駆動系への負担を考えて使わない。あくまで長時間アクセルを踏み続けられることが大前提なのだ。
だからこそ、ピークパワー以上に重視したのが潤滑と冷却だった。

エンジンはニュージーランド製の削り出しオイルパンとARE製ポンプを使ってドライサンプ化。高い旋回Gが掛かってもオイルの偏りを防ぎ、安定した油圧を確保する。同時にクランクケース内を負圧に保つことで、RB26で問題となりやすいブローバイの発生も抑えている。

トランクには専用オイルタンクと2基の燃料ポンプ、オートスタッフ製コレクタータンクを集約。激しい加減速やコーナリングが連続する状況でも、油圧だけでなく燃圧まで安定させる周回レース仕様ならではのレイアウトだ。

冷却系も徹底している。大型ラジエーターに加え、フロント左右へオイルクーラーを1基ずつ配置。さらに油温が設定値へ達すると、助手席に設置したタンクからオイルクーラーへ水を自動噴射するシステムまで構築した。走行風と気化熱を利用して冷却効率を高める仕組みだ。
目標とする油温は135℃以内、水温は105~110℃付近。夏場の厳しいコンディションでも熱による出力低下を防ぎ、レース終盤まで800ps級のパフォーマンスを維持する。

排気系も高出力を安定して引き出すことを優先。助手席下からテールを出したワンオフのフルチタンマフラーは、100φから70φ×2へ分岐する構造とし、高ブースト時の排気を素早く抜いて排圧を抑えている。

そして、周回ペースを安定させるうえでAGYがエンジンと同じほど重視したのがブレーキフィールだ。
レースでブレーキを酷使すると純正ハブが動き、ローターが振れることで十分な制動力を引き出せなくなる。そこでフロントには、大径ベアリングを内蔵した超々ジュラルミン製のAGYオリジナルナックルを投入した。
ハブとそれを支えるナックルの剛性を高めることで、ローターとパッドの当たりを安定させ、踏み始めから狙った制動力を引き出せるようにする。それによってローター温度の過度な上昇やクラックも抑えられ、レース終盤まで変わらないペダルタッチを維持できるという。

ブレーキそのものはAP製で、フロント6ポット+390φ、リヤ4ポット+332φという構成。コクピットにはチルトン製ペダルボックスも備え、ドライバーが繊細に制動力をコントロールできるようにしている。

足まわりにはナイトロン製1WAYダンパーとフルピロ化したリンク類を組み合わせる。オリジナルナックルは剛性アップだけでなくジオメトリーも見直され、高速コーナーでの安定性と正確な操舵応答を追求してきた。

さらに今シーズン投入したのが、RSワタナベの鍛造マグネシウムホイール、フォージングRだ。
バネ下重量の軽減による効果は明確で、ステアリングを切り込んだ瞬間の反応が向上。高速S字の切り返しで生じていたわずかな“待ち”も減り、加速の立ち上がりにも違いが現れたという。ヨコハマ製スリックタイヤとの組み合わせで、800ps級のパワーを路面へ伝えている。


駆動系にはBNR34純正ゲトラグをベースとしたAGYオリジナル強化クロスミッションを投入。AGYではスーパーシフトミッション690をはじめ、ゲトラグのリビルトやクロス化にも豊富なノウハウを持つが、このデモカーでは今後、アルビンズ製ドグミッションへの変更とパドルシフト化も計画されている。
ボディはフルスポット増しを施し、ロールケージを溶接留めして剛性を確保。電動パワーステアリングも装備するなど、長時間のレースで速さを維持するためのアップデートが随所に盛り込まれている。
一方で、本気のサーキット仕様だからといって、軽さだけを追い求めてはいない。


富士スピードウェイでは最高速が300km/hに達するため、信頼性を優先してガラスやボンネットは純正のまま。トランクやサイドステップ、フェンダーなどをFRP化することで約1300kgに仕上げ、フロントアンダースポイラーやサード製GTウイングによって空力性能も高めている。

そして、このR32の速さを支えているもうひとつの重要な要素が、地道なメンテナンスだ。
ドライバーを務める小川さんは、AGYで長年メカニックとして第2世代GT-Rに携わってきた人物。エンジンは年に一度を目安に分解し、メタルをはじめ各部の状態をチェックする。壊れてから直すのではなく、その前に手を入れる予防整備の積み重ねが、長期間にわたる速さと信頼性を支えている。

800psを出すだけなら、現在では決して珍しいRB26ではない。しかし、その800psを高い旋回Gの中で使い、強烈なブレーキングを繰り返し、真夏でも温度を管理しながら決勝の最後まで踏み続けるとなれば話は別だ。
シェイクダウンから15年以上。時代に合わせて仕様変更を重ねながら、大きなトラブルに見舞われることなく第一線で戦い続けてきたAGYのBNR32。一発の速さではなく、何周しても変わらない速さを追い求める。その“周回の強さ”こそ、草レースという実戦の場で磨き上げられたこのGT-R最大の武器なのだ。
●取材協力:オートギャラリー横浜 神奈川県横浜市旭区南本宿町121-5 TEL:045-351-0421
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