過給×ハブセンターステアの異才アドベンチャー

「誰もやらないことを誰よりも美しく」それがビモータというブランドの哲学である。その思想をもっとも象徴するモデルがTESIシリーズだ。最新のTESI H2 TERAは、その伝統にカワサキの最新技術を融合させた、まさに日伊合作の最高峰モデルである。
パワーユニットはカワサキ製998cc水冷DOHC直列4気筒スーパーチャージドエンジンを使用。そう聞いてピンとくる人もいると思うが、ベースは最高出力197psを発揮するH2 SX系ユニットである。クランク直結の遠心式スーパーチャージャーはアクセル操作と完全に同期して過給を開始するため、ターボのようなラグがないのが特徴。低回転から通常のリッタークラスを凌駕する分厚いトルクを生み出し、高回転ではジェット機が離陸するような加速へと変貌する。吸気音とコンプレッサー特有の「ヒューン」というメカニカルサウンドも、このエンジンならではの官能性だ。単に速いだけではない。2輪においては数少ない「過給される快感」を味わわせてエンジンなのである。
もうひとつの主役が、ビモータの代名詞ともいえるハブセンター・ステアリングだ。通常のテレスコピックフォークではサスペンションと操舵をフロントフォークが同時に受け持つ。これに対しTESIは、フロントスイングアーム方式とすることで、ホイールハブを中心に、サスペンションと操舵の役割を完全に分離。ブレーキング時でもフロントはほとんど沈み込まず、ジオメトリーが変化しないため、強烈な減速中でも狙ったラインを正確にトレースできるメリットがある。さらに最新のTERAではリンク機構を刷新し、従来よりも大きな操舵角を確保。独特のメカニズムを維持しながら、低速域での扱いやすさも大きく向上させた。そして驚くのは、只でさえ変わり者なのに、加えて前後サスペンション長まで伸ばして「アドベンチャーツアラー」を名乗っていること。あえて、セオリーの逆を行くような、炎上覚悟の挑戦的なモデルなのだ。


ブレーキを残したまま平然とコーナリングできる
最初の数周は、脳が混乱した。ホームストレートからフルブレーキング。身体は「そろそろ前につんのめるぞ」と身構える。しかし何も起こらない。いや、正確には猛烈に減速しているのに、車体姿勢だけが驚くほど水平を保っているのだ。
これがハブセンター・ステアリングの世界なのか。通常のフロントフォークであれば、前輪への荷重移動を明確に感じながら旋回へと入っていく。しかしTESIではフロントが沈まない。だから車体姿勢も一定で、ライダーの視界までほとんど変わらない。
最初は正直、違和感があるのだが、だが数周も走れば徐々に安心感へ変わっていく。ハブセンター・ステアリングに慣れてくると、実はフロントもけっこう沈み込み、前輪への荷重もちゃんと乗っていることが分かってくる。ただ、通常のバイクに比べてピッチングが少なく、車体姿勢が大きく変化しないため、その感覚がつかみにくいのだ。慣れてしまえば、むしろ姿勢を乱さずにフロントへ荷重をかけられることが、このシステムの強みだと
感じられる。だから、ブレーキングを奥まで引っ張ってもラインは乱れず、旋回途中でさらにブレーキを握り足しても車体は平然としている。普通ならフロントフォークが縮み込み、キャスター角が変化し、ステアリングフィールも変わるので転倒しそうで怖く感じるが、しかしTESIにはそれがない。それでいて、ホイールベースは1455mmとこのクラスとしては短めなので、タイトコーナーもよく曲がっていく。なるほど、ビモータが長年、このシステムにこだわってきた理由が分かる。
スーパーバイクを上回る凄まじい加速力

そしてコーナー出口。ここからが、このマシンの最大の見せ場だ。スロットルを開けると、4000rpmを越えたあたりからコンプレッサーが息を吹き返し、「ヒューン」という吸気音とともに強烈なトルクが立ち上がる。7000rpmを越えれば、さらに別世界。ぶ厚いトルク壁に押し出されるようにレッドゾーンまで吹け上がり、袖ケ浦の短いホームストレートでもメーター読みで軽く200km/hを超えていく。当日同時に試乗したスーパーバイク、「KB998リミニ」を超えるトップスピードだ。さすがはカワサキが誇るスーパーチャージド・パワーである。強大な加速力によってフロントが持ち上がろうとする気配はあるものの、ジオメトリー変化が少ないため接地感は安定。一方、前後サスペンションはストローク量が豊富なため、常にどこかフワフワとした感触もある。サーキットをかなり攻め込んでいるのに、妙に乗り心地が良いのだ。「そうだ、これはアドベンチャーバイクだった」と、ふと思い出す。さらにセミブロックタイヤも、見た目からは想像できないほどサーキットでしっかりとグリップしてくれた。
切り返しも興味深い。一見するとフロントスイングアームは重そうに見えるが、実際にはステアリングは極めてニュートラル。ハブセンター・ステアリングの場合、ハンドル操作から実際に転舵して前輪が向きを変えるまでには、機械的に幾つかのリンクを介する。ということもあって、もっとタイムラグがあると思ったが、倒し込みや切り返しでの体感的な遅れは感じなかった。ちなみにセルフステアもちゃんと効いている。車体を寝かし込めば、自然と舵角が付く。ただし、通常のフォーク車が車体と一体になって曲がっていく感じだとすれば、TESIはやはり前輪が独立して切れていく感じはある。ピッチングが少ないことも含め、どこか4輪っぽいと感じる独特のハンドリングが面白い。
バイクの既成概念を覆す乗り物
もうひとつ、特筆すべきはコーナリングでの安定感。旋回中でもフロントのサスペンションが独立して仕事をするため、路面のギャップや縁石を踏んでもハンドルへ余計なキックバックがほとんど返ってこない。そこも通常の2輪とは違うフィーリングだ。
今回はサーキット試乗ということで、実際の公道における「アドベンチャーツアラー」としての実力まで確かめることはできなかった。ただ、スーパーチャージドエンジンの圧倒的な余裕と快適な乗り心地を考えれば、長距離かつ高速になるほど、その真価はいかんなく発揮されるはずだ。
なるほど。30年以上にわたってビモータがハブセンターにこだわり続けた理由がようやく理解できた。もちろん万能ではない。荷重移動を積極的に利用してフロントを押し込みながら旋回するライダーには、最初こそ情報量の少なさを感じるかもしれない。しかし、それはフォーク車の常識で走ろうとするからだ。
慣れてしまえば、ブレーキングは深く、旋回は正確で、立ち上がりはより大胆になる。ハブセンターには、ライダーの恐怖心を和らげてくれる効果もあるようだ。スーパーチャージャーが生み出す圧倒的な加速と、それを受け止める独創のシャシー。この2つが融合したTESI H2 TERAは、単なる高性能車ではない。バイクの既成概念そのものを覆す実験機であり、ビモータというメーカーが半世紀以上追い求めてきた「他の誰にも真似できないモーターサイクル」を、現代の技術で完成形へ近づけた一台と言っていい。
速さを求めるなら、他にも選択肢はある。だが、走るたびに「バイクとは何か」という常識を揺さぶる存在は貴重だと思う。
スタイリング




一見して普通ではない、メカニカルかつアグレッシブなスタイリング。最大の特徴はフロントフォークを持たず、前後スイングアームで構成されるビモータ独自の「TESI」システムだ。そこにアップライトなポジションと長いサスペンションストロークを組み合わせ、唯一無二のクロスオーバースタイルを作り上げている。
パワーユニットはカワサキ製998cc水冷並列4気筒DOHC4バルブ・スーパーチャージドエンジン。最高出力200PS/11,000rpm、最大トルク137N・m/8,500rpmを発揮する。アルミ合金とカーボンファイバーを多用した独創的な車体に、前後Öhlins製TTX36を組み合わせるなど、贅を尽くした構成だ。
ライディングポジション
ライポジはアドベンチャーらしいアップライトな設定。幅広のハンドルで上体が起きた自然な姿勢が取れる。シート高は820mmで車格のわりには足着き性も悪くない。前後17インチながら、長めのサスペンションと最低地上高174mmを確保し、ゆったりした乗車姿勢とスポーツライディングでの操作性を両立。ライダー身長179cm、体重73kg。
ディテール解説













主要諸元
ボディサイズ: 全長×全幅×全高=2,125×910×1,390mm
ホイールベース: 1,455mm
最低地上高: 174mm
シート高: 820mm車両重量: 244kg
エンジン: 水冷4ストローク並列4気筒スーパーチャージド DOHC4バルブ 998cc
トランスミッション: 常時噛合式6速リターン
最高出力: 200PS(147.1kW)/11,000rpm
最大トルク: 137N・m/8,500rpm
燃料タンク容量: 19L
フレーム: アルミニウム合金ビレット製プレート
キャスター/トレール: 21.3度/117mm
サスペンション(ホイールトラベル):
フロント=鋳造アルミ合金製スイングアーム+Öhlins TTX36(105mm)
リア=鋳造アルミ合金製スイングアーム+Öhlins TTX36(135mm)
ブレーキ:
フロント=ブレンボ製Stylemaラジアルマウント対向4ピストン+φ330mmセミフローティ
ングダブルディスク
リア=ブレンボ製対向2ピストン+φ260mmシングルディスク
タイヤ:
フロント=120/70ZR17 M/C(58W)
リア=190/55ZR17 M/C(75W)
価格: 638万円(消費税込み)




