2022年から展開してきた「ラージ商品群」の戦略とは

マツダのSUVラインアップを見て、「CX-60、CX-70、CX-80、CX-90は何が違うのか?」と疑問に思った人もいるだろう。

マツダ CX-60

車名の数字は10ずつ違い、エクステリアもよく似ている。しかし、日本で販売されているのはCX-60とCX-80で、CX-70とCX-90は主に北米を想定したモデルである。なかでもCX-90は、マツダSUVのフラッグシップに位置する大型3列SUVだ。それほど重要なモデルなら、日本でも販売すればいいように思える。

マツダ CX-90

では、なぜマツダは世界共通のSUVを1台用意せず、よく似た4車種を作り分けたのか。その答えは、2022年から展開してきた「ラージ商品群」の戦略にある。

CX-60/CX-70/CX-80/CX-90は、いずれもエンジン縦置きレイアウトを採用するラージ商品群のSUVだ。マツダは電動化への移行期における内燃機関の環境性能向上に加え、上級志向のユーザーに応える商品力を狙い、この技術群を開発した。

ただし、4車種を同じ市場で競わせるために作ったわけではない。大きく分けると、日本や欧州などを担当するのがCX-60とCX-80。より大きなボディや存在感が求められる北米などを主戦場とするのがCX-70とCX-90である。さらに、CX-60とCX-70は2列シート、CX-80とCX-90は3列シートという構成だ。

つまりマツダは、「市場」と「シート列数」という2つの軸を組み合わせ、4車種を作り分けたのである。

全幅約2mのCX-90、日本にはCX-80がある

日本にCX-90を導入しない理由を考えるうえで、わかりやすい違いがボディサイズだ。日本で販売されるCX-80の全幅は1890mm。一方、北米仕様のCX-90は全長5100mm、全幅1994mm、ホイールベース3120mmという堂々たるサイズを持つ。 全幅はほぼ2m。日本の道路や駐車場で日常的に使うことを考えれば、CX-90より全幅を1890mmに抑えたCX-80のほうが扱いやすい。反対に、道路や駐車スペースに余裕があり、大柄なボディそのものが商品価値になる北米では、CX-90のサイズを生かせる。

つまり3列SUVという同じ役割でも、日本にはCX-80、北米にはCX-90という明確な棲み分けがある。

「CX-70とCX-90」はほぼ同じ大きさ。それでも2台必要な理由

さらに興味深いのがCX-70だ。CX-70は2列シートSUVだが、北米仕様のボディサイズは全長5100mm、全幅1994mm、ホイールベース3120mm。実はCX-90とほぼ同じ大型ボディを使用している。

では、なぜそこまで似た2台を用意する必要があるのか。

北米では「3列目はいらないが、大きなボディと広い荷室は欲しい」というユーザーにCX-70を用意し、3列シートを必要とするファミリー層などをCX-90が担当する。

マツダもCX-70について、北米市場向けに開発した2列SUVであり、アクティブなライフスタイルを送るユーザーを想定して広い荷室空間を持たせたモデルと説明している。

一見すると似すぎている4兄弟だが、マツダは世界各地で同じクルマを売るのではなく、共通する技術を使いながら、市場と用途に合わせて商品を細分化したわけだ。

じつは一番売れているのが「CX-90」

ただし、この4車種戦略が当初の計画通りに進んだわけではない。

マツダは当初、2025年3月期にラージ商品群で約20万台の世界販売を計画していた。その後、CX-80の投入遅れなどから見通しを17万台へ引き下げたものの、実績は15万637台にとどまった。

内訳を見ると興味深い。CX-60が3万9112台、CX-70が2万342台、CX-80が1万7921台、そしてCX-90が7万8422台である。4車種のなかで圧倒的に多いのは、日本では販売されていないCX-90だ。ラージ商品群全体の半分以上を1車種で占めている。これは、マツダが北米向けに大型3列SUVを専用に用意した狙いが、少なくとも販売台数では一定の成果につながっていることを示している。

一方、4車種合計では当初計画の20万台に届かず、途中で修正した17万台も下回った。そこでマツダは、ラージ商品群の商品力をさらに高める方針を示している。

毛籠勝弘社長兼CEOは、CX-60/70/80/90について、エクステリアやインテリア、パワートレーンなどに手を加え、これまでにない規模のアップグレードを行なう考えを明らかにしている。日本でも2026年3月、CX-60とCX-80の商品改良を実施。機能性や快適性、安全性を高めるとともに、グレード体系も刷新した。

CX-60/70/80/90という、一見すれば「なぜ4台も必要なのか」と思えるSUV群。しかし実際には、単純なサイズ違いではない。日本・欧州と北米で異なるボディサイズへの要求に対応し、さらに2列/3列という用途まで分ける。その結果として生まれたのが4車種なのである。

CX-90が日本にないのも、「海外専用だから」で終わる話ではない。日本では同じ3列SUVの役割をCX-80が担い、北米ではより大きなCX-90が担う。

そして販売実績を見る限り、そのCX-90こそが現在のラージ商品群を台数面で支える存在となっている。