初代エスティマはマジ凄かった、そのワケを話そう!

高平:和夫さんの推しグルマは初代エスティマ(1990年発売)だけど、本当凄かったんだって! 80~90年代の名車っていったら、和夫さんだからNSXやGT-R(BNR32)って言うと思ったでしょ?
清水:言わね~よw! NSXはエンジン横にして低重心、シンプル。まぁ他にフェラーリやポルシェがいるんだから。本当にある意味、40年スパンで一番天才的なクルマはエスティマかもね。デザインだったら、セラ! エンジン横にした例で言うと、メルセデス・ベンツ初代Aクラス。コンパティビリティ(互換性)やるために二重フロアの下にエンジンを潜らせるため、水平に13度寝かせたんだよね。
高平:でも、ベタなクルマ好きにはクールすぎるっていうか、美術館的な感じ過ぎてウケなかったんですよ。若いコたちは拒否反応。シャコタンにしたい人たちにとってはスッキリし過ぎて。

清水:エスティマは左側がスライドドア、右側は後席ドア無し。
編集部:5ナンバーサイズのエスティマ・エミーナ/ルシーダを出したじゃないですか。アレはオリジナルと比べて走りなどはどうでしたか?
高平:直進安定性とかはオリジナルの方が良かったような記憶があるけど。エスティマはエンジン2438cc、3ナンバーで幅も広く(全幅1800mm)デカかったから5ナンバーがないと売れないっていうことで出したんだけど、高速での余裕が違ったよね(エミーナ/ルシーダ:全長4690mm/全幅1690mm/2438ccガソリン・2184ccディーゼル)。

清水:でも2代目以降はダメ。だってさ、初代パワートレーンの図見ただろ? 4WDはセリカGT-FOURのトランスアクスル使って、エンジン真ん中で、後ろにトランスファー持ってって!
高平:和夫さんはEVだ自動運転だとか言いながら、元々はなんだかんだって言ってもメカオタクだから、パワートレーンの図とかみるとキュン♪ってなるワケよ。しかもミッドシップって言われただけで、またキュンキュン♪するwww。

清水:スバルが“ミニバンがないから売れない”って言った時にザフィーラ(GM/オペルのOEM/日本名:トラヴィック/2001~2005年)を入れた。でもエスティマみたいなクルマはスバルには水平対向エンジンがあるんだから簡単に作れるんだろう?って。エスティマみたいにフラット4を真ん中に入れればいい。でもスバルはそういう融通が効かない。もっと言えば、後ろにエンジン載せたら911が作れるんだよ。FRなんか作ってる場合じゃね~だろwww! レオーネがバックで走ったらポルシェ911♪ ポルシェをバックで走ったらレオーネ♪ そこには本質があるんだよ。
BNR32スカイラインGT-Rは959じゃなくメルセデス4MATICが大元だって?
高平:32GT-Rも素晴らしいクルマに出来上がっているけど、元を辿ればポルシェ959だし、さらに元を辿ればアウディ・クワトロ。
清水:いや、もっと言えばメルセデス・ベンツW124の4MATIC。フロントエンジン/FRベースの4WDで言えば、メルセデス・ベンツのほうが先人。959はどっちかって言えばリヤエンジンベースだからね。一応日産は959を買ったけど。
編集部:4MATICとBMW最初のXドライブ、どっちが早かったんですか?
清水:メルセデス・ベンツW124の方が早かった。あの頃、BMWは“4WDなんかやらない”って宣言してたから。

高平:BMWはその後、325iXを出しました。他で作ってもらったものなんだけど。
清水:ローバーに資本参加して4WDを勉強し、勉強したら1ポンドで売っちまった。
高平:それまで、“クルマは後輪駆動で十分で、それ以上は必要ない”って言っていたのに、いつの間にか。
AWD開発に欠かせない「シュタイアプフ」とは?
清水:でも両方とも作ったのはシュタイアプフだからね。カナダの部品メーカー、マグナ社が買収する前の。ここは元々アウストロ・ダイムラー、フェルディナント・ポルシェが主任技師としていた会社。
高平:シュタイアプフはダイムラーの資本が元で、もっと遡るとボヘミア地方の第一次世界大戦の兵器工場の流れ(1864年)。ゲレンデヴァーゲンも元々は軍用車だから。
清水:ゲレンデもシュタイアプフ。4MATICもBMWの4駆もシュタイアプフ。今はカナダのサプライヤーのマグナ社が買収しマグナ・シュタイア(Magna Steyr Fahrzeugtechnik AG & Co KG)になってる。だから、アメリカの軍用ジープの流れと、イギリスのディフェンダー、ランドローバーの流れと、ゲレンデをルーツにするシュタイアプフっていう世界で3つ(だったかな?)の4駆開発企業。シュタイアプフの車両はもう枚挙にいとまがないくらい。まぁブランドのないOEMだね。ティア0.5(tier=階層/ティア0とティア1の間、完成品メーカーと1次サプライヤーの間、または両方にまたがる形の企業)。技術的には4駆のエキスパート集団。
高平:スープラ(DB型)とかZ4を作っているダケの会社じゃないんだよ!

清水:W210(メルセデス・ベンツ 2代目Eクラス/1995~2002年)のE320 4MATICを持っていたので4MATICを作る工場まで見に行った。とにかくテストがすごいね、乗用車でこんなことまでやるの?っていうようなところを駆け抜けていって、駆動力のある足をしっかり作り込む。グラーツにある工場は建物がいくつかあり、いろんなメーカーの量産を受けてるから工場も大きいんだけど、開発センターは山側にあって本当にすごい山を登ったり下ったり。“オフロードのニュル(ブルクリンク)”みたいなコースがある。
高平:泥系の人たちは“シュタイア”って聞くだけで「わぁ~♪」って興奮する。
清水:ピエヒは自分のお爺ちゃんがシュタイアプフにいたから、アウディの実験部長になった時にアウディをとにかく持ち上げなきゃいけないから、クワトロをシュタイアに頼んで作った。
高平:昔、本田宗一郎さんがクランクのメタルが日本では手に入らなくて、あっち(欧州)から部品を抱えて帰ってきて、それでも日本ではできなかったからニードルローラーにした。銃とかのライフリングと同じ。超硬度鋼を作って精密に削るのは技術が必要なんです。
クルマ好きオタクが好むメカメカ度
高平:和夫さんの4駆好きの話から延々とシュタイアの話になっちゃった!
編集部:私はNSXとかBNR32・GT-Rとか、あと和夫さんの好きなホンダ・グレイスとか出てくるかと…。
清水:グレイスがいいのは、唯一の5ナンバー/4WD(FFもあり)/NAエンジン(ハイブリッドもあり)/DCT(7速)+パドルシフト/4ドアセダン。

■ホンダ グレイス(GRACE)HYBRID DX 4WD:全長4450/全幅1695/全高1500mm/ホイールベース2600mm/トレッド前1480・後1470mm/車両重量1230kg/エンジン1496cc 直4 i-VTEC+i-DCD/価格 2,144,400円/2014年12月01日発売
高平:フィットのセダンか。もう売ってないよね。
清水:長野県木曽の御嶽山へ雪道を走りに行って下りのタイムを測ったら、グレイスぶっちぎり!
編集部:へぇ~そうなんですか?
清水:どんなヤリスも何も関係ないね。操縦性と軽さだよ。まぁさ、こういうメカオタクと遊び心。日産がいまだにクルマ好きから支持があるのは、日産のオタクっぽいニーズがある。トヨタはクソ真面目、章男さんが来るまであんまり面白くはなかったね。
高平:オタク向けって言えばそうかもしれません。もう少し分かりやすい“ターボ4駆のスーパーハッチ”みたいなのはなかったから。

清水:この前、ポルシェのGTS(992.2)乗ったんだけど、3.6Lのe-Turboのヤツ。過給圧の立ち上がりが速いから2000rpmくらいのトルクはGT3より多い。GT3は4L NAエンジンだから回転上げないとトルクが上がってこないんだけど、GTSはポンとアクセルを踏んだ瞬間に最大トルクがドカーン!とくるからGT3よりヤンチャ。しかも上でトルクが出るんだったらいいけど、アクセル踏んだ瞬間に最大トルク出ちゃうから“コントロールできるのかオマエら!?”みたいな。
高平:危ないでしょアレ。冷たい雨のターンパイクなんか、もう…。
清水:若い経験のないコはバカ踏みして全損! オレが思うに、これはシングルターボなんだけど、次のポルシェターボはこれをツインターボにする。フェラーリ296スペチアーレが0-100km/h=2.8秒だから、GTSは負けてるんだよ(GTS 0-100km/h=3.0秒)。これをツインターボにしたら多分0-100km/h=2.6秒くらい出ると思うんだよ。ウン、やるよ。フェラーリより遅いクルマであってはいけない。しかもコレ、熱回収もやっている。回生ブレーキだけじゃなくてF1とかLMP1(WEC)でやっているモーター・ジェネレーター・ユニット・ヒート(MGU-H/熱エネルギー回生システム)、タービンはモータータービンで排ガスがきてるので、タービンで回さない時は熱のエネルギーでタービンを回してモーターで電気を作る。

高平:ポルシェが918を開発している時…。ニュルをタイムアタックするときに若いジュニアチームみたいなドライバーを競わせる。その人たちが“回生をうまくやり、いかに電気を残さずにタイム出すか?みたいなデータを取ってるよ!”って和夫さんが昔教えてくれた。ル・マンカーなどにももちろん使われている。速くなかったら全然ダメだけど、電気残して帰ってきたら“バーカ”って言われちゃうって和夫さんが言っていた。どこで回収して、どこでその電気を使って…というテストを、あの20.8kmの中で計算しながら毎日速く走れって言われて。
清水:だからワルター・ロール(Walter Röhrl/ドイツのWRCラリードライバー/ヴァルター・ロールとも表記される)が“オレには無理だ!”って言ってたよ。若い連中は練習をシミュレーターでやってるしね。来年(2026年)、F1のレギュレーションはエンジンの出力を下げてモーターの出力を上げて55対45くらいの比率でやるのね。大体1周で9メガジュール(MJ)くらいの回生量があるけど、それをフェルスタッペン、ノリス、ピアストリたちがどこで使うか。
高平:ポルシェのヤングチームたちは、そういうことを“常に考えながら走れ”とエンジニアから言われて、そのデータを開発に使っているから、いきなりそんな走り方が出来るよね。
清水:それは918の時だからもう10年くらい前?(販売は2013年~)。だから日本のGTドライバーたちも頭を使う時代になったね。鬼ブレーキのことしか考えてない昔のドライバーは時代についていけないだろう。ドライバーは“スーパー・インテリジェント・レーシングドライバー”じゃないとこの先、生きていけない。ピアストリ(Oscar Jack Piastri/オーストラリア出身/マクラーレンのF1ドライバー)が速いっていうのは多分すごく頭がいいんだろうね。レーシングドライバーの技量とか頭脳はとてつもなく高いと思う。だから素人じゃ無理。
昭和だったら「スバル1300G」が黄金のハンドリングカー(清水説)

編集部:今回は80~90年代のクルマをテーマにしましたけど、「昭和」をテーマとしたらまたちょっと話が広がり過ぎますよね、おふたりだったら。
高平:80年代しかも後半が多過ぎるから、もっと古くするとわからなくなっちゃう。
清水:70年代入れちゃったら、当時の黄金のハンドリングカーは「スバル1300G」だろうな(1971年発売)。ブレーキはインボード・ブレーキだろ? パワーステアリングがないからハンドルを軽くするためキングピンをちゃんと設計した。
高平:あれは“スバルのランチア”って言われている。でもアンダーステアが課題。
清水:アンダーは是としていたからね。オレがチーム・スバルに入った時に“アンダーステアは収束、オーバーステアは発散”、飛行機屋の理論なんだよ。
高平:メカニズム的に先進的なものを、よくもまぁあの時代に詰め込んだなと。割高だったり(70~85万円前後か?)整備性が悪かったり欠点はあったんだけど、わかっているオタクたちにはすごい人気でしたよね。ポール・フレール(Paul Frère/フランス生まれのベルギー人/レーシングドライバー/自動車ジャーナリスト)がわざわざ乗りに来たっていう話があるくらい。


清水:左右対称で、FFで、デフが真ん中にあって、その前側に4気筒フラット4があって。ステアリングを切った時のキングピンをタイヤのセンターに持っていきたいけど、ブレーキが邪魔なのでF1みたいにブレーキをエンジンルーム側に入れた。パッド交換は大変だったって。
高平:タイヤ外してもブレーキがない。でも和夫さん、コレが出ていた時代はまだ学生?
清水:いやいや、チーム・スバルに入って“こんなのあるからオマエ乗れ!”って言われて乗った。スバル1000の後だよね、スバル1000、スバルff-1、スバルff-1 1300G、スバル1300G、からレオーネへ。そういう流れ。
オレがチーム・スバルに入って小沼(群馬県・赤城山)の氷上に行って特訓受けた時、アウト・イン・アウトやったら“オマエには100年早いわ!”って小関の親分さん(小関典幸/元スバルの社員ドライバー、スバルチーム監督)に言われた。“雪はインから入るんだ!”みたいな。でも最近のF1見ているとアウト・イン・アウトやっていないね、距離が遠くなるから。アウト・イン・アウトってのはひとつの考え方。

高平:今はライン取りのセオリーがちょっと変わってきていますね。
編集部:マツダのメディア対抗ロードスターレースでも予選上位の若いコたちはラインが全然違う。
清水:コボ(桂伸一)とか木下(木下隆之)とか中谷(中谷明彦)が“アウト・イン・アウトで入って…”みたいに言うけど、結局いつも予選で負けてる。だからみんな、もう若いのには勝てないって。
これからは“F1×重機のコマツ”みたいな協業を!

清水:話はまたF1に行っちゃうけど、以前、草加浩平さん(東京大学 大学院 工学系研究科 機械工学専攻 特任教授/元小松製作所エンジニア)が言っていたけど、”コマツにやらせれば頑丈なものが作れる”って! コマツは1980~1990年代と2024年~のウィリアムズ・レーシングにスポンサーしているじゃない。昔、ウィリアムズのトランスミッションがトラブって全然勝てない時にウィリアムズから“コマツで設計してくれ”って頼まれた。見てみたら、ウィリアムズが作ったトランスミッションは『ガラス細工』みたいだったって。これじゃダメだってコマツが作ったら、重量は重くなったけど1回も壊れなくてチャンピオンを獲った。それでコマツはフランク・ウィリアムズ(Sir Frank Williams)から賞をもらった。その時に草加耕平さんが担当していたんだって。
連携していれば日本にはそういう技術がいっぱいあるんだけど、自動車メーカーはそのサプライチェーンのことしか考えていないから、そこに重機の技術を入れるとか、いろんなことやっていけば、もっともっと強い骨太のクルマっていうのはできると思うんだけどね。業界で囲っちゃうじゃない、軽は軽、重機は重機。三菱重工もあるしさ、だって戦車や潜水艦も作っているんだから。

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その1.~4.と全4回に渡りお届けした【80~90年代の名車・迷車 清水和夫×高平高輝クロストーク】。しかし、ふたりともが「時代範囲が広すぎて濃すぎて話足りん!」とのこと…。ってことで、80~90年代の名車・迷車は次回もあるカモ。もちろんそれ以前、それ以降の話も興味シンシンなので、続編をお待ちください!
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