ガソリン車のN-ONEとは似て非なるほぼ別物。どこが違う?

N-ONE e:がガソリン車のN-ONEとは似て非なるほぼ別物だということは、外観を見ただけでも想像できる。
前後バンパー・ランプ類やホイールのデザインを変更し、フロントグリルにバンパーリサイクル材を軽商用BEVのN-VAN e:に続いて採用。そのうえで、電動パワーユニットをフロントセクション内に収めつつ、充電ポートを適切な高さに配置するため、フロントフェンダー・ボンネットをかさ上げし水平基調とした。しかもこれに合わせてバックドアも、曲率を高めて張りを強めた独自の形状を与えるというこだわりようだ。




室内に目を移すと、その思いはさらに強まる。インパネシフトを採用したT字型のインパネ形状という点では共通だが、造形は全くの別物。加飾パネルの面積が広く、随所にレトロテイストが感じられるガソリン車に対し、N-ONE e:はデザイン要素を減らし水平基調を強調したシンプルかつモダンなものへ一新。メーターが異形2眼コンビから、フィットなどと同様の7インチTFT液晶になったのも、そうした印象を与えるのに一役買っている。



それどころか、フロントシートでさえガソリン車とは別物になっている。背もたれはヘッドレストが固定式となり、サイドサポートも拡大されたほか、メイン部の形状やウレタン硬度も変更された。座面は乗降性を重視してサイドサポートが低くされているものの、後端の高さはアップしている。
開発陣によれば、ヘッドレストを固定したのは、「メインターゲットである女性と、同居する男性とが乗り換えたりする場合、その都度調整をする手間を省くため」とのこと。製造コスト低減も当然考えてのことと推察されるが、これによって肩まわりのフィット感が向上しているため、三方良しな変更と言ってよいのではないだろうか。
しかも、ステアリングホイールの搭載位置が37mmドライバー側へ寄せられたため、より自然なドライビングポジションが取りやすくなった。腕が短い筆者としては、N-WGNには全車標準装備されているテレスコピック(前後調節)機構が、ガソリン車のN-ONEのみならずN-ONE e:にも設定されなかったことに不満を覚えるものの、手長猿にならざるを得ないガソリン車に対し少なからず改善されたことは歓迎したい。


リヤシートはほとんど変わりなく、背もたれと座面を一体で前倒しできるダイブダウン機構や、座面のチップアップ機構といった、多彩なアレンジ機能も健在だ。しかし実際に座ってみると、ガソリン車に対しフロア高が高いのは即座に体感できるのだが、にもかかわらずヘッドクリアランスはほぼ変わらない。


なお全高はガソリン車FF車と変わらず1545mm、フロア高はガソリン車に対し「20mmアップしている」(開発陣)が、「ウレタンも表皮も柔らかくすることで沈み込みを増やし、実質的には同等の頭上空間を確保できるようにした」(同)のだそうだ。


荷室については、床下収納が若干狭くなっている程度で、ほとんど間違い探しのレベル。ガソリン車とほぼ変わらない使い勝手を確保している。


スタートダッシュはガソリン車以上の加速感
では、実際に走らせてみるとどうだろうか。今回試乗できたのは、上級グレードの「L」。標準グレードの「G」に対し、急速充電ポート、本革巻きステアリングホイール、オートリトラミラー、アルミホイール、9インチHonda Connectディスプレーが標準装備になるのが主な違いだ。
シンプルになり水平基調が強められたインパネデザインに、かさ上げされたフロントフェンダーとボンネットも相まって、車両感覚のつかみやすさは一段とアップ。最小回転半径は155/65R14 75Sタイヤを装着するガソリンFF車と同じ4.5mながら、ステアリングのロック・トゥ・ロックはガソリン車の3.5回転から2.9回転へとクイック化されているため、狭い場所での取り回しや車庫入れのしやすさは同等以上と言えるだろう。

そして、決定的に異なるのが、発進時の加速だ。ガソリン車の場合、たとえターボエンジンを搭載するスポーティグレード「RS」の6速MT車でも、発進時はアクセルペダルをある程度深く踏み込み、高い回転域まで引っ張らなければ、力強い加速は得られない。だがN-ONE e:ならば、たとえドライブモードを「ECON」にし「シングルペダルコントロール」をONにしても、アクセルペダルを軽く踏み込むだけで滑らかかつ力強い加速が得られる。さらに深く踏み込めば、状況によってはホイールスピンを起こすほどだ。

なお「シングルペダルコントロール」は、他の電動車にありがちな、最後はブレーキペダルを踏まなければならないものにはなっておらず、完全停止までしっかり回生ブレーキをかけてくれる優れもの。それでいながらアクセルオフ直後は一瞬だけ溜めを作り、その後でしっかり回生ブレーキを利かせてくれるため、減速時にギクシャクしにくいのも大きな美点だ。
ただし、「シングルペダルコントロール」をONにすると、自動的に電動パーキングブレーキ(EPB)のオートホールド機能もONになるため、完全停止時に若干カックンブレーキになりやすいのが玉に瑕。これさえなければ同乗者を乗り物酔いさせる心配がほぼなくなるため、さらなる制御の洗練を期待したい。

そして、駆動用バッテリーをフロア下へ搭載した効果はやはり絶大。車検証上の前後重量配分は前軸610kg:後軸420kgと意外にフロントが重く、車重もガソリンFF車より190kg重い1030kgに達しているが、重心高が62mmも下がり、ヨー慣性モーメントも低減されているため、旋回時の安定性は格段にアップしている。
乗り心地や静粛性に関しては、粗粒路ではロードノイズや振動がやや目立ち、大きな凹凸ではBEV相応に強い突き上げ感があるものの、ガソリン車とほぼ遜色ないレベル。295kmという航続距離に不足がなく、ガソリン車に対し1.5倍以上の価格を許容できるならば、迷わずN-ONE e:を選んでよいのではないだろうか。
しかし筆者のように、高速道路で長距離を移動し、峠などアップダウンの激しい道を走る機会が多い場合は、やはりガソリン車、それもターボエンジン&6速MTを搭載する「RS」を選ぶことになる。今回N-ONE e:に投入された数多くの変更点は、ガソリン車にも適用してほしいものばかり。遠くない将来に実施されるであろうマイナーチェンジの際にはそれが実現されることを願ってやまない。
ホンダN-ONE e: 車両スペック
【ホンダN-ONE e: グレード構成・価格】
G(FF):269万9400円
L(FF):319万8800円
■ホンダN-ONE e: L(FF)
全長×全幅×全高:3395×1475×1545mm
ホイールベース:2520mm
最低地上高:140mm
車両重量:1030kg
乗車定員:4名
モーター種類:交流同期電動機
定格出力:39kW
モーター最高出力:47kW(64ps)
モーター最大トルク:162Nm
WLTCモード一充電走行距離:295km
WLTCモード交流電力量消費率:105Wh/km
市街地モード:76Wh/km
郊外モード:96Wh/km
高速道路モード:124Wh/km
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ディスク/ドラム
タイヤサイズ:155/65R14 75S
最小回転半径:4.5m
車両価格:319万8800円
