軽自動車市場の変化とN-Oneの登場

2010年代の日本において、軽自動車市場は「実用車」という枠を超え、ファッション性やライフスタイル性、個性の表現手段としての役割が強まっていた。

そんな時代、ホンダは往年の名車 Honda N360 を彷彿とさせる新型軽自動車として、N-One を2012年11月2日に発売した。「N=新(New)、次(Next)、日本(Nippon)、ノリモノ(Norimono)」というNシリーズの思想を引き継ぎ、「人の最大化・機械の最小化(M/M)」というホンダの理念も体現されたモデルである。

初代 N-One は、丸みを帯びつつも引き締まったフォルム、レトロな印象を帯びたデザインで登場。エンジンは 658 cc を基本とし、軽快な走りを確保しつつ居住性・使い勝手にも配慮した設計だった。また、軽自動車ながら“走る楽しさ”を意識した仕様が特徴で、女性や若年層、都市生活者を中心に「毎日を彩るクルマ」としての支持を集めた。

市場に浸透したN-Oneは、2014年以降の改良・仕様追加を通じて、安全・快適装備を中心に充実が図られた。なお、ターボ車は2012年のデビュー当初から設定されており、登場初期から“走りの軽”としての性格を備えていた。

改良を重ねる中でホンダセンシングの搭載など安全性の向上が進み、“安心・快適・走り”の三拍子を備えたモデルへと成熟していった。

2020年11月20日、ホンダは新型 N-One を国内発売。この世代では、プラットフォームの刷新、室内空間の見直し、そして将来の電動化を見据えた構造が導入された。エンジン+6速マニュアルの「スポーツ」仕様(RS)も並行設定され、走りにこだわる一方で、幅広いユーザーにフィットする都市型プレミアム軽として進化した。

ホンダが示す軽EVの未来「Super-ONE Prototype」が世界初公開

ジャパンモビリティショー2025で発表された「Super-ONE Prototype」

ホンダは「ジャパンモビリティショー2025」において、新たな小型EV「Super-ONE Prototype(スーパーワン プロトタイプ)」を世界初公開した。

「e: Dash BOOSTER(イー・ダッシュ・ブースター)」をグランドコンセプトに掲げ、日常の移動を刺激的で気持ちの高ぶる体験へと変える、新世代の電動モビリティとして注目を集めている。

Super-ONE Prototypeは、Nシリーズで培われた軽量プラットフォームをベースに開発されており、軽快なハンドリングと安定した走行性能を両立している。

張り出したブリスターフェンダーが特徴的なボディはワイド&ローのフォルムを強調し、視覚的にもスポーティな印象を与える。フロントとリアのエアダクトを含む専用エアロデザインは空力性能を高め、同時に冷却効率を確保する実用的な設計となっている。

特筆すべきは、EVでありながらドライバーの五感を刺激する「BOOSTモード」の存在だ。専用開発されたこのモードでは、出力を最大化し、仮想有段シフト制御とアクティブサウンドコントロールが連動。まるでガソリンエンジン車を操るようなリニアな加速感と迫力のあるサウンドを再現している。ホンダが掲げてきた操る喜びを、EVという新しい領域で再構築した意欲的な試みといえる。

外観デザインは「走りの予感」と「高揚感」をテーマに構築されている。ワイドなタイヤを包み込むブリスターフェンダーは力強さと安定感を両立させ、視覚的なインパクトをもたらす。空力効率を考慮したエアロ造形や、ホンダらしい機能美の追求も見逃せないポイントだ。

インテリアはドライバーが運転に集中できる空間を目指してデザインされており、ブルーをアクセントとした専用スポーツシートが高いホールド性を発揮する。水平基調のインストルメントパネルは視界を広く保ち、運転時の没入感を高める設計だ。

さらにBOOSTモード起動時には、メーターやイルミネーションカラーが変化し、視覚的にもドライバーを刺激する演出が施されている。

N-OneからSuper-ONEへ、ホンダが繋ぐ“軽”の哲学

ジャパンモビリティショー2025で発表された「Super-ONE Prototype」

N-Oneで培われた軽量構造と操縦感覚、そしてホンダらしい「走りの愉しさ」を電動時代に再解釈したのが、このSuper-ONE Prototypeである。

当モデルは、単なる次世代の軽EVではない。コンパクトEVとして世界市場に挑む姿勢そのものが、Hondaの「One and Only」という哲学を体現している。

移動のための道具ではなく、心を動かす体験を生み出すモビリティ。ホンダが次の時代に提示するのは、そんな感情を駆動するEVなのだ。

単なるモビリティではなく、ドライバーの感情を動かす新世代のEVとして、ホンダが次に描く未来がここにある。