ラストマイルのクルマ選び

編集部:最近、ある年齢以上になると『最後のクルマは何にしようか…』と迷い悩んでいるという話をよく聞くようになりました。
高平:私らのように自動車業界に身を置く者じゃない普通の方にとって、最後の愛車は何か…、ポルシェ911に乗りたいとか、そういうのはごく普通にあるでしょう。それはそれでわかりますけども、現実問題を考えた場合に悩むことが面白いんじゃないかという話もある。それでもあえて一回、最後の愛車、終のクルマのその前に、程度が悪くてもいいから中古でソレに近いものをちょっと試してみる…そういう方が面白いかもしれませんよ。メルセデス・ベンツAMG E53ハイブリッドスポーツみたいなのを買って「どうじゃ!」って方もいるでしょうけど、でも、そういう極端なクルマ好きのおじいちゃんじゃない方たちへ向けてのアドバイスっていうことですよね。「最後までクルマを楽しみたい」、「生き生き運転したい」と思っている方にとっては、あまり楽なクルマではない。


清水:ケータハムなんかもいいね。まだ発表されてないけど、次は某社のエンジンが載るらしいんだよ。フォードのエンジンだとユーロ7(Euro 7/EU[欧州連合]が定める自動車排ガス規制の最新基準)に通らないって。ああいうケータハムみたいなクルマもひとつだし、あとはちょっと古いクルマにいくっていうのもあるある。
高平:オレだったら、家族用に軽自動車みたいのがあれば、自分用に昔のZとかをモンテカルロ仕様にナッチャッテ改造してクラシックカーラリーに出るとか。


清水:愛知県岡崎市にある『ロッキーオート』って、箱スカやケンメリ、30Z、240Zなどを作っているんだけど、シルビア用のラック&ピニオンの油圧パワステ使ったりしている(※旧車をオリジナルの魅力を保ちつつ現代風の快適仕様に制作、チューニング)。東京オートサロン2021(※コロナ禍により未開催/出展予定車が富士スピードウェイに集結し三栄各媒体にてお披露目した)のときに2000GTをまじまじと見た。2000GTだけど本物じゃなく本物チックで、昔のクルマに現代の新しい技術を詰め込んで作っている。
高平:だいぶ高価な趣味になっちゃいますけどね、2000万円くらいだし。でもオリジナルにはないエアコンやパワステも付いているし、受注は多いだろうね。

清水:今、タテ目のベンツ、280SLとかは結構、値段が下がってきたって。クラシックカーにいくのならジャガーが安いっていう話もあるね。
編集部:そーいえば、OPTIONの親分、稲田“Dai”大二郎さんも終の棲家を軽井沢に構え、古いジャガー(型式はわからず)に乗っていますね。ドリフト用のシルビアや軽トラも持っていますけど。

軽自動車で車中泊しながら全国を回るっていうのはどう?

清水:マツダ・ロードスターで奥さんと一緒にドライブするのもよし、ジムニーみたいなクルマを買って車中泊しながら日本中を回るのもよし。この間行った釧路には、道の駅とかで車中泊している方たちがいっぱいいたね。24時間使えて、停まっているクルマのほとんどが大阪や京都、愛知、長野とか、北海道のナンバーじゃない。別にキャンピングカーじゃなくても軽自動車でも寝ることができるし。石巻の道の駅では冬でもお湯が24時間出るって言ってたし、ローソンも車中泊に対応し始めたって。

高平:キャンピングカーなどを排除するのではなくて、そういう方たちをウェルカム!ってやっている所は地方に行けば行くほどあるしね。オレの友達も一緒に連れて行く犬のためにキャンピングカーは持っているんだけど、キャンピングカーで寝る、食事を作るっていうのは、よほど場所が良くて天気も良くて…という時に限って、じゃない時は無理しないでホテルや旅館に泊ったり。そういう風に自由自在に考えていた方が疲れなくていいよって。へぇ~余裕のある人たちはそうやってるんだって思いましたよ。
一昔前はエンスー的な雑誌に言わせると「終のクルマはマニュアルのスポーツカー!」って。いやいや~、今時まだそんなこと言ってる人いるんですか!?っていう感じじゃないですか。

趣味を活かして世界を見るのもテ

編集部:和夫さんは以前、終のクルマはポルシェかフェラーリか…って聞いたことがあるような…。
清水:まぁ死ぬまでにフェラーリの12気筒に乗りたいっていうのはあるけど、でもそれはひとつの夢。フェラーリ12気筒のお金があるんだったら、ラリーをガンガンやった方が楽しいなって今は思うよ。だから、自分を楽しむ才能を開拓した方がいいよね。運転テクニックじゃなくて、自分の感性を開拓していろんなものを楽しむ。
だからオレ今、山中湖の別荘で庭づくりにハマってて超楽しい!…腰は大丈夫じゃないけどw。DIYでものを作ったり庭いじりしたり、そうするといろんなものが分かってくる。地中にはいろんな種があるから、今年黄色い花が咲いたからって来年も咲くとも限らない。
植物って本当に難しい。それでね、地面の中をやっつけちゃうのが“藤”なんだって。“藤棚”ってみんな憧れるけど、実は生命力がものすごく強くて、地面の中で全部根を張って他の木を殺しちゃう害虫みたいなもの。庭いじりに慣れてくると藤はやりたくないってみんな言う。
高平:ソレって“鬼滅の刃”の元ネタです。魔除けの力があるっていうね。
清水:庭は完成しない。雨が降れば土が流れるし。
本田宗一郎が抱いた壮大で型破りな夢とは?

高平:最高の最後の道楽は家と庭だね。ホンダの本田宗一郎さんが新宿区下落合の自宅でいろんなチャレンジをしたんだけど、結局すべてどれも上手くいかなかったって。
清水:庭に池を作ったんだよね。
高平:有名なのが、鮎の話。みんなと庭で鮎釣りして鮎BBQパーティーをしたい。でも庭の池で鮎を生かすには、ちゃんと計算した微妙で自然な水の流れが必要。しかも庭で大量の水を流すには循環させなくちゃいけないから、代々木のプール(国立代々木競技場・インドアプール)と同じ浄化器を地下に入れたんだって。同時に庭で蛍も育てようとしたんだけど、でもどっちも大雨が降って下水などが溢れ、除草剤とかが池に流れてきて鮎も蛍も全部死んじゃった。で、結局諦めた。しかしさ、庭で鮎釣りするって、発想そのものがおかしいでしょ!

清水:高齢ドライバーたちが終のクルマにどんな車種を選ぶかっていうことも大事だけど、自分の楽しみを見つけるためにいろんな物に興味を持って、とりあえずやってみないと楽しいかどうかも分からない。食わず嫌いってあるじゃない? オレ、カラオケとお新香って嫌いだったんだけど、歌って食べてみたら意外に面白いし旨いっていうのが分かったし。
THE MAGARIGAWA CLUBで乗ったラディカル、アレは面白い!


清水:この間、THE MAGARIGAWA CLUB(千葉県南房総市)でラディカルに乗ってきた。以前もGENROQ誌でナンバー付きに乗ったことあるんだけど、今回乗ったのはナンバー取らずに世界14カ国でワンメイクレースやるんだって(日本では2026年から開催予定)。で、イニシャルコストは2000万円くらいだけど、ランニングコストがめっちゃ安い。ポルシェのカップカーに参戦したら大変な値段でタイヤ代やブレーキパッド代も大変だけど、ラディカルSR3 XXRは重量620kg、オートバイ用の1万2000rpmくらい回るエンジンで1500cc/232psしかないんだけど、タイヤ代もブレーキ代も安いから維持費が安い。
このラディカルがメチャクチャ面白い! 1人乗りと2人乗りがあるからジェントルマンとプロドライバーが一緒に乗ってドライビングレッスンも出来る。
高平:MAGARIGAWAって危なそうなコースですよねぇ。
清水:ニュルブルクリンクみたいな、後半はアップダウンがあってニュルより難しいかも。で、ここの会員権が2000万円だったのが今は4000万円! まぁ会員権を持っている人たちはランボルギーニとかフェラーリ乗っているんだけど、ソレではビビりすぎて全開で走れない。そこで、GRヤリスやGR86のカップカーを買って走る。海外の会員なんかはプライベートジェットで成田に来て、成田に近いMAGARIGAWAで遊んで、美味しいものを食べて、温泉に入って帰る、みたいな。
高平:まぁそれはクルマ選びに悩まなくて済む人たちの話。

レースよりラリーのほうがみんなで楽しめるね
編集部:終のクルマは500万円、300万円くらいだったら買えるかな?って思いますけど、でもいまや300万円じゃ新車はなかなか買いづらいから、中古を買うしかないです。
清水:レジェンドの方達っていうのは人生のラストマイルだから、あと10年、15年、身体が元気であれば何を楽むか?って話だよね。これまで長年頑張って働いてきたから、知らない世界にいった方がいいと思うんだよね。意外とレースもラリーも初級があるし、ワンメイクレースであればホンダのN-ONEとかヤリス、ロードスターなどもあるので、仲間と一緒にやるのもいい。
でも、やるんだったらレースよりもラリーの方がみんなで楽しめるよ。レースだとドライバーだけだけど、ラリーなら2人で乗るし、周りにメカニックやマネージャーとかが必要。

高平:それのちょっと延長線上じゃないけど、オレはアドベンチャードライブみたいなのもおススメしますよ。今は世界中でやっているクラブがいっぱいあるし、今ロシアは難しいけどアフリカとか南米とか、そういう凄くハードなコースもあれば、半島をグルっと回るようなもソフトなものもあって、しかも古いクルマオンリーとか。ランドローバーは “ランドローバーエクスペリエンス”っていう冒険ドライブを全国各地で必ず募集している。アフリカの砂漠、中南米、中央アフリカ、東南アジアとかいろんなところでやっています。それは普通に応募できるけど、英語ができないと楽しめないので、最低限それを身に付ければいろんなものに参加できる。費用だってMAGARIGAWAに入会するのに比べたら全然安いし、奥さんと2人、ランドローバーでアフリカの動物公園の中を走る…やってみたいじゃないですか!?
砂原茂雄さん(1948年生まれの現77歳/自動車ジャーナリスト、ラリースト、各種イベント企画等)と一緒に2018年、ボルボの企画でオランダから北京までのシルクロードを1万5000km走った時の砂原さんは70歳くらいだったけど、参加者の中にはもっと年上の方が何人もいた。高齢者が多いからドクター同行で、しかも酸素ボンベも常備されている。
そういうアドベンチャーラリーみたいな楽しいことは検索すればいくつもあるけど、日本のクルマ好きは興味が無いのか全くチェックしない。日本からクルマを持っていくのは個人では物凄く大変でほぼ不可能だけど、現地主催のイベントなら可能性がグンと上がる。

ユンボ買って庭いじりして!

高平:でもさ、マニュアルのスポーツカー…そういうものダケに目を向けないで、小型特殊免許取って重機買って庭を作る!でもいいかもしれない。
清水:そうそう、ユンボやりたいんだよ。ちっちゃいのは中古で40万円くらいからあるから買おうかなって何度もチェックしてる。

高平:公道も走るなら運転免許(3.5t未満=普通自動車免許/3.5t以上7.5t未満=準中型自動車免許/7.5t以上11t未満=中型自動車免許/11t以上=大型自動車免許)と建設機械の操縦資格が必要(ユンボの車両総重量3t未満は小型車両系建設機械の運転特別教育の講習のみ、3t以上なら車両系建設機械運転技能講習と修了試験)だけど、私有地の中で使う場合は運転免許や操縦資格は要らない。
まぁ、木登りもアーボリスト(業務)なら講習受けて資格を取らないとダメだし、チェーンソーだって業務は伐木等の業務に係る特別教育の受講・修了が義務付けられている(個人のDIYなら不要)。趣味としても人気のダイビングだって医師の証明書がないとだしね(※医師署名入りダイバーメディカル/参加者チェックシート[病歴/診断書]、家族署名入り「危険の告知書及び書家族の同意書」、「危険の告知書及び書家族の同意書」など。各証明書は年齢により異なる場合もある)

清水:運転免許だって75歳以上からは後期高齢者免許は講習だけじゃなくて検定もあるから落ちる人もいるんだよ。オ・レ・は・マ・ダ・だ・け・ど・な!!(70歳以上=高齢者講習/75歳以上=高齢者講習+認知機能検査の受検/75歳以上で過去5年以内に一定の違反歴がある場合は運転技能検査も義務付け)
まぁ、自分が今ソコに到達したから分かるけど、昔以上に時間とお金に余裕があれば、チャレンジ!
【清水和夫プロフィール】
1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツーリングカー選手権、ル・マン、スパ24時間など国内外のレースに参戦する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。自身のYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」では試乗他、様々な発信をしている。2025年も引き続き全日本ラリー選手権JN-Xクラスに「SYE YARIS HEV」にて参戦、シリーズクラス2位を獲得した。
【高平高輝プロフィール】
大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させていただきました。1980年代末から2000年ぐらいの間はWRCを取材していたので、世界の僻地はだいたい走ったことあり。コロナ禍直前にはオランダから北京まで旧いボルボでシルクロードの天山南路を辿りました。西欧からイラン、トルクメニスタン、ウズベク、キルギス、そして中国カシュガルへ、個人では入国すら難しい地域の道を自分で走ると、北京や上海のモーターショー会場では見えないことも見えてきます。モータージャーナリスト清水和夫さんをサーキットとフェアウェイ上で抜くのが見果てぬ野望。
・・・・・・・・・・・
ラストマイルの楽しみ方は人それぞれ、かかる費用も無理せず、仲間と一緒に、家族・夫婦と一緒に、趣味も生かした楽しい時間を過ごす。なんだか老後も楽しみになってきませんか?
[オマケ!]RADICAL SR3 XXR【サーキット試乗】ワンメイクレース開催を視野に入れ日本上陸を果たした最新のラディカル








