気持ちイイ大トルクディーゼルか静かな大トルクBEVか?

清水:オレが最近、テストで毎日のように乗っているのがマツダCX-60、550Nmのディーゼル。オレが欲しいクルマっていうのは、トルキーで400Nm以上、そして静かであること。そのCX-60に乗った後で乗れるクルマってEVくらいなんだよね。
高平:ほう~。アレ、そんなに静かで良くなってます?
清水:タイヤもダンロップの「スポーツマックスラックス(SPORT MAXX LUX)」のスポンジ付きを履いてるからロードノイズも下がっている。
でさ、トヨタのTHSはエンジンがかかっちゃうからうるさいし、そんなにトルクもない。それだったら第3世代の日産e-POWER、ある車種に載るのは550Nmもあるらしく、モーターだから電圧を上げればいくらでもトルクが出せるんだよ。単純に電圧を2倍にしたら出力も2倍になるからね。エンジンで200psを400psにするのはえらい大変だけど、モーターはインバーターで電圧変えちゃえばいい。

高平:そんなに上げられるくらいちゃんと充電できます?
清水:問題はバッテリーの容量次第だけど、一般道で一発加速するくらいだったら500Nmは出る。でもずっと500Nmで走るわけではないし、120km/h(一部高速道路)くらい出たら今度はクルーズするじゃない、すると充電に回っていく。
で、何が言いたいかっていうと、気持ちいいクルマは静かでトルクのあるクルマ。っていう風に思うと、意外とEVも悪くない。この前乗ったアウディのe-tron GT、Q6 e-tron、あとキャデラックのリリック、改良したトヨタのbZ4Xもメッチャいいね!
高平:アウデイは今、現時点でEVの最高到達点じゃないですか?
清水:テスラのModel Yもいいでしょ? 例のドイツメーカーがやっている充電システム(ドイツ自動車メーカーが参画する超急速充電ネットワーク「IONITY」)は150kW。15分も充電すればそこそこの距離は走っていけちゃうんだよね。だから日本でもああいうインフラが整ってきたらEVもありだな!と。
そう思い始めたのはこの前、群馬サイクルスポーツセンターでスバル・ソルテラ改良版に乗ったんだけど悪くないんだよ、足とかいろいろ直しているから。そうしたら帰りに乗ったフォレスターは普通のハイブリッドだから物足りなかった。みんな燃費だけで見ているんだけど、乗り味でみたらディーゼルかEVかな?と思うようになった。
カーボンニュートラル燃料=ICE生き残りOK!じゃない!!

高平:EVの性能が進んできたっていうこともあるんじゃないですか?
清水:そう。だから「カーボンニュートラル燃料できたからエンジンでいいよね!」なんて言ったって、例えばトヨタの2.0LのTHSにカーボンニュートラル燃料だったら確かにCO₂は減るよ。でも燃料を変えても乗り味は変わらないじゃない。やっぱり何ニュートンの出力を出せるか?が気持ち良さを決めるから、オレは最低限でも400Nm無いとダメかなって思っている。300Nmくらいはもう普通。まぁ贅沢といえば贅沢だけど。
編集部:ディーゼルも生き残る可能性がありますか?
清水:絶対あるね。
高平:というか、先進国で販売禁止になっても「ウチの国では全然平気」っていうところが世界の半分以上あると思いますよ。和夫さんが言ったように、2050年にはアフリカの人口が25億人とかになったら、「ウチの国においで!」ってなるところがいっぱいあるはずです。

清水:ユーロ7(Euro 7/EU[欧州連合]が定める自動車排ガス規制の最新基準)の、ヨーロッパベースのルールメイキングのやり方が、これからどこまで合意されるかっていうのは分からないじゃない。オマエら自分たちのためだけにルールを厳しくして自分たちは到達できるけど、結局F1のハイブリッドもそうなんだけど、ハイブリッドが得意なOEMはできるけど、そうじゃないメーカーはついていけないもんね。だからみんながBOPじゃないけど、バランス・オブ・パフォーマンスみたいにみんなが参入できるように技術レベルを下げておかないと。
高平:WRCはもう止めちゃいましたしね。散々大騒ぎしていたのに、ハイブリッドはもうないんですよ。
清水:バッテリー燃えるし大変だし。燃料も供給元のP1レーシング(P1 Fuels GmbH/ドイツ)が倒産したり。
高平:看板だけ掛け替えて別の会社がやっているみたいですけど。決してFIAがやる事が上手くいっているかっていうと、そうじゃないところがいっぱいありますよ。
清水:トヨタのハイブリッドは素晴らしいし、乗り味も悪くないし、どんな走り方しても燃費がいい、ロバスト性が高いじゃない。でも、静かでトルキー…というところを見たら日産のe-POWERやホンダのe:HEVの方がなんかEVチックでいいじゃない。そういったシリーズハイブリッドとディーゼルエンジンとEVみたいなものは、これから乗り味ではもっと評価されるのかなと思う。
だから、「カーボンニュートラル燃料ができるから単純にエンジンは生き残れるね!」なんてそんな話じゃなくて、今度はエンジンを主じゃなくて“従”にして、モーターを“主”にする。日産やホンダのやり方のほうに理があるような気がするよね。エンジンはあくまでもアシストに回ってあげる。
PHEVのエンジンは重たいスペアタイヤ?
清水:レクサスNXやトヨタRAV4のPHEVに乗っている人たちが言い出したのは、乗っていても1カ月くらいはほとんどエンジンが掛からない。なので心配だからたまにアクセル全開にしてエンジンを回すって。ソレってスペアタイヤみたいなもんじゃない。しかもリヤブレーキをほとんど使わないから、リヤブレーキもスペアタイヤみたいなもん。
だったらリヤブレーキ要らないんじゃないか?となる。リヤブレーキは回生だけやって止めるブレーキはフロントだけにするとか、エンジンもなくしてEVでいいんじゃないか?みたいな話が進むと、どこかでターニングポイントがあるんじゃないかな?っていう気がしている。そうであればPHEVというスペアタイヤが無駄になっているんだよね。DOHCでミラーサイクルですごいエンジン、その使わないエンジンにもみんなお金を払っているんだよ!と。それに気付いたらどうなるんだろうか?
高平:天秤が傾く時、きますよね。上り調子で足して足して天秤を釣り合わせていたのに、フッと気付いてみたら電池がこんなにあってモーターでこんなに走れるんだったらエンジン要らないな、と。だったら2気筒くらいの超安いエンジンを他から買ってくればいいんじゃないか? そうした方が釣り合うようになり始めているんですよね。
清水:それを究極にすると、マツダのレンジエクステンダー・ロータリーEVなんだけど、でもレンジエクステンダーはそこまでいったら、4気筒を2気筒に、いやいや0気筒でもいいんじゃないの?みたいな。だってそのためダケに燃料タンクも用意しなきゃいけない。エンジンのシステム、トランスミッション…それらが全部なくなったら価格も車両重量も抑えられる。
高平:とんでもない高いスペアタイヤじゃないですか!
清水:それを中国がやっているとしたら日本はヤバいワケよ。
高平:BYDのエンジン(BYDの高級ブランド、仰望[ヤンワン]のU7に搭載されるPHEV用水平対向エンジン)なんか、気になりますよね~。

清水:バッテリーEVがホールディングバックしたから、エンジンはもう一回イケる、みたいに安易に考えるのは危なくて、やっぱり日本もちゃんとEVを作らなきゃいけないのかな!?って、このオレが思うようになったんだけどね。コレってすごいナーバスな問題なんだけど、そういう話をちゃんとしないといけない。
編集部:“カーボンニュートラルの燃料できたからエンジンでいいじゃん!”と思う人がいっぱいいます。
清水:そうなんだよ。そうじゃないだろう!と思っている。生き残りをかけた差別化作戦を実行しないとね。
GT-R開発スタッフが関わったルークスの出来がヤバい♪

高平:いまだにEV嫌いというか、EVはヨーロッパと中国の陰謀だ! オレたち大日本帝国はトヨタと一緒にエンジンで戦う!みたいなことを言う人、いまだにいっぱいいますよね。
清水:カーボンニュートラル燃料ができたら、恩恵を受けるのはデカいエンジンか軽のエンジンだと思うけどね、軽は燃費取れないから。で、燃料でCO₂を下げてあげればいい。そうそう、日産のルークスがヤバい! ハイブリッドをやめ、燃費競争もやめ、乗り味で勝負に出た。N-BOXがライバルで、作っているのが元GT-Rをやっていた方。
高平:エクストレイルもだけど、最近出てきた日産のマイナーチェンジ版とかの足回りなどの開発は、みんな聞いたことある方ばっかり。

清水:栃木に別会社を作って、そこにホットなエンジニアを集め、横浜のお偉いさんたちには見えないようにしておいてちゃんと開発をやっていたんだよね。シャシーもメチャクチャいい。
高平:日産でビックリしたのは、知らんぷりしてボンボン値段上がっている。割高で売れないなどのお客様の評価がいっぱいあるのに、エクストレイルは50万円くらい上がっていたんじゃないかな。
清水:ルークスを追浜で試乗したとき、80km/h以上出すな!って言われたけどオレ、全開で走っちゃった。でも140km/hで急ハンドル切っても全然OKだったよ。で、その試乗会へ行くときにホンダの軽自動車を借りて行ったから何となく比較しちゃったんだけど、ルークスのほうが全然いい。エンジンは三菱じゃなくて、ルノーの800ccエンジンのボアを小さくして、その分エンジンの肉が厚いから、音・振動が少ない。燃費とか値段ではなくて、プレミアムで攻めている。なんだ、やるじゃん日産!って。
高平:最近の日産車は乗ると意外に良いんですよ。リソースがない中でここまでよくやったなっていうのが多い。
トヨタ、日産、ホンダそれぞれの考え

清水:アメリカでRAV4がいいビジネスになっていて、今全米ではトップがF150(フォードのピックアップトラック)だけど、トヨタRAV4とホンダCR-Vが2位、3位。だけど、日産車が入っていなかったからローグ(クロスオーバーSUV)に第3世代のe-POWERを搭載して、さらにトーイングするようなニーズに対しては、もしかしたら有段ギヤをつけるかも、とか。それはホンダもそういうことを言っている。CR-Vのe:HEV、今は高速側だけ直接タイヤとクラッチでいくけど、低速側もトーイングのためにもう1個クラッチをつけて有段ギヤをつける。

高平:日産はVCターボをやめちゃうんでしょう?
清水:やめて今度はシリーズでやる。エンジンは一定回転なので、もうそんなややこしいヤツは要らないと。シンプルに行ける。
高平:今まで世界で展開していたエンジンオンリーの地域のクルマはどうするんですか?
清水:ラムダワン(λ=空気過剰率/理論空燃比/A/F=14.7:1)で燃やさなきゃいけないからターボはきつい。シリーズだったらラムダワンでターボはもういいんだよね、一定回転でやるから。話を聞いていると、ホンダと日産の方が“打倒トヨタ!”で何年も苦しめられてきているから、トヨタは逆に言えばもっとモーターが大きい次のTHSをやらなきゃいけないと思う。でもあまりにもTHSが成功していて、どの国に行ってもベスト燃費が出ちゃうじゃない。なのでその牙城を崩すっていうのはトヨタはすごくツライだろうなと思う。むしろチャレンジャーの日産とかホンダの方がいろんな面白いコンテンツを持っているような気がするけどね。


高平:2.0L 4気筒のVCターボエンジンとか、インフィニティとかの大きいクルマ用に作っていた、あれも全部e-POWERにしちゃうんですかね? クルマそのものをやめちゃう?
清水:あれは多分、生き残れないね。あのエンジン、値段高すぎだもん。だからあれはもう博物館入りだな。よくやりました!って。
高平:部品もらっときましょうよ! いい部品ですよ、あんな良いシリンダーコーティングやコンロッドとか、もうないですよ。
清水:VCターボは技術として確立されたから、それが違う形で違うコンセプトの、カーボンニュートラル燃料と合わせた何か次のエンジン技術へいく。GT-Rも終わったんだけど、でもあれだけのクルマが黙って終わるとは思えない。なので、カーボンニュートラル燃料とVCエンジンみたいなものがあれば、もう一度GT-Rも生まれ変わる事ができるんじゃないかなと思っている。
高平:日本で唯一、プラズマコーティングの設備があるのは日産横浜工場だけで、GT-RもなくなってVCターボもなくなったら、あのコーティング設備はどうすんだ?っていう話になりますもんね。ホンダのエンジンをコーティングしてやろうか?って。だから日産とホンダはくっついて、NSXのエンジンをコーティングしてやった方が良かったのに。
【清水和夫プロフィール】
1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツーリングカー選手権、ル・マン、スパ24時間など国内外のレースに参戦する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。自身のYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」では試乗他、様々な発信をしている。2025年も引き続き全日本ラリー選手権JN-Xクラスに「SYE YARIS HEV」にて参戦、シリーズクラス2位を獲得した。
【高平高輝プロフィール】
大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させていただきました。1980年代末から2000年ぐらいの間はWRCを取材していたので、世界の僻地はだいたい走ったことあり。コロナ禍直前にはオランダから北京まで旧いボルボでシルクロードの天山南路を辿りました。西欧からイラン、トルクメニスタン、ウズベク、キルギス、そして中国カシュガルへ、個人では入国すら難しい地域の道を自分で走ると、北京や上海のモーターショー会場では見えないことも見えてきます。モータージャーナリスト清水和夫さんをサーキットとフェアウェイ上で抜くのが見果てぬ野望。
【オマケ動画】清水和夫が日産新型ルークスに乗ったら感動した!
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PHEVの回らない(使わない)エンジンは重たいスペアタイヤみたいなもん! 確かにです。さて、この続きはその3.へと進みます。

















