安全運転の鍵を握る「前頭前野」
運転技術と脳機能にはどのような関係があるのだろうか。
この講演の中心は、安全運転に関わる脳の中枢として「前頭前野」を位置づけ、その働きと運転技能との関連を整理する点にあった。前頭前野とは、額のすぐ後ろのエリアを示すが、この部分は記憶、注意、理解、予測、判断、抑制といった高度な精神活動のための機能を担っている。とりわけ危険予知能力の高いドライバーほど前頭前野の活動が高まる傾向が明瞭であるという。
前頭前野の機能は20歳前後を頂点として加齢に伴い低下する。昨今はクルマに安全装備が標準化され、交通事故数そのものは減少傾向にある。しかしその中でも運転に慣れていない若年層に次いで、高齢層における事故の比率は高い。高齢者の事故の背景には、加齢変化が影響している可能性が高い。ただし、加齢が必ずしも運転不能を意味するわけではなく、適切な介入により機能低下を改善することが可能であるという点が、研究の重要なポイントである。



脳機能は鍛えることができる
川島教授らは「脳機能は訓練により改善可能である」という研究成果を蓄積してきた。これまでの一般的な脳トレは「遊び」でしかないと言われるが、前頭前野の動きを確認していない脳トレでは意味がないという。脳をコンピューターになぞらえるのならば機能は、情報処理速度(CPU)と計算をするメモリー領域(RAM)がある。この機能のそれぞれに特化したトレーニングを実施することによって、脳の機能が改善される。その結果、前頭前野の一部に体積増加が見られることもあるという。
この知見を応用した取り組みとして、東北大学と仙台放送が共同開発したスマートフォンアプリ「BTOC」が紹介された。これは、前頭前野がしっかりと働くことを確認しながら開発されたアプリであることはいうまでもない。2019年の実証実験では、BTOCと効果のないアプリを使用する群によって効果を比較。その結果、6週間の使用によって、複数項目でBTOCを使用した被験者に運転技能の向上が確認された。企業導入例でも事故・違反件数の減少が報告されている。
現在、高齢者は免許の返納という流れが一般的になっているが、多くの方が「泣く泣く返納した」という言葉を残す。それだけクルマが生活に必要なのだ。そんな中、「危険だから返す」ということだけが、行政の行なうことなのだろうか。日頃から脳を鍛えることが当たり前となり、いくつになっても安全運転ができる、そんな世の中の実現はもはや夢ではなくなってきている。


