BMWモータースポーツが産んだ真珠のV8ユニット
2001年に発表されたE46型BMW M3 GTRにのみ搭載され、当時物議を醸しながらもその強さと迫力から今も話題に上がる強心臓がある。4L V型8気筒自然吸気エンジン、その名は『P60B40』という。
市販車としては搭載されたのはわずか10台限りという、歴代M3のなかでも非常に希少かつ唯一公道走行が可能な「P型」エンジンである。

この型式を見て「んん?」と感じた人がいたら、その人はディープなBMWファンかもしれない。すでにご存知のかたもいるかもしれないが、BMWが開発したエンジンの型式表記には一定の規則がある。例えば、E46 M3に搭載された直6エンジン「S54」の場合、頭につくSは「BMW M社が手がけたエンジン」という意味であり、S54のベースエンジンとなった「M54」ならば、Mは「2001年以前に設計されたエンジン群」となる。
では、『P60』のPは一体どういう意味になるか? ずばり「BMWモータースポーツ社がレース用に設計・製造したエンジン」という意味である。
P型エンジンは他にも、BMWがF1にエンジンサプライヤーとして参戦していた頃、BMWザウバーF1.06に搭載された2.4L V型8気筒自然吸気『P86』や、SUPER GTとDTMで(当時)共通規定だったクラス1用の2L 直列4気筒ターボ『P48』などがある。このように、BMWのエンジンにとって『P』とはモータースポーツ専用エンジンにだけ与えられる特別な意味を持つ記号なのだ。
エンジン諸元を見ていく。排気量は3997cc、V型8気筒DOHC 32バルブ自然吸気。ボア・ストロークは94.0×72.0mm、圧縮比は12.0:0、潤滑方式はドライサンプ、クランクシャフトはV型では一般的なクロスプレーンではなくフラットプレーンを採用した。最高出力は市販仕様でも385ps、レース仕様車ならば450ps、リストリクターレスならば650ps超を発生させる。オイル潤滑方式にドライサンプを取り入れているところが、いかにレース・ユースを第一に考慮したエンジンであるかが垣間見える。



キッカケはレースでポルシェ911に負けたことから始まった
誕生のキッカケは2000年に遡る。
当時のBMWワークスチームは、北米が主戦場となるアメリカン・ル・マン・シリーズ(通称:ALMS)にE46型M3のレース仕様車をALMSのGTクラスに送り出した。目下のライバルであるポルシェ911GT3-R(996型)に挑むものの、S54型3.2L直列6気筒エンジンを積んだM3はポルシェ911に歯が立たず、2000年シーズンはほぼすべてのレースで後塵を拝することとなった。
2000年シーズンの雪辱を果たすべく、2001年シーズンに向けてBMWが開発・送り出した秘密兵器こそが「P60B40」であった。量販モデルのM3にはない、BMWモータースポーツに設計・開発をさせたV型8気筒エンジンを搭載し、市販仕様はわずか10台限定で作ったそれは『M3 GTR』と名付けられ、2001年ALMSにGTクラスで再びエントリーする。
V8を載せた新生・M3は見違えるような活躍を見せ、遂にはライバルのポルシェ911GT3-RSを打ち負かし、GTクラスのシーズンチャンピオンを奪取するにまでいたった。



しかし、本来プロダクションモデルのスポーツカーが主役のGTクラスに市販ラインナップに存在しないM3 GTRが参戦したことは議論を巻き起こした。また、最初から量産を考慮していないエンジンゆえ、M3 GTRは市販用としてたった10台だけが製造されるに留まった。結果、翌年からALMSの参戦車両の規則が変更され、M3 GTRは事実上の締め出しという形でALMSから撤退することになった。
だが、2003年には戦いの場を北米からドイツのニュルブルクリンク24時間耐久レースに移して参戦を再開。2004年と2005年には優勝を果たすなど、デビューから数年経った後でも圧倒的な強さを誇った。
BMWがこれまで生み出してきた数多くのモデルのなかで、ただひとつ公道走行が許された純レーシングエンジン。BMW M3 GTRにだけ載せられた強心臓、それがP60B40である。
BMW・P60B40 主要スペック
排気量:3997cc
内径×口径:94.0×72.0mm
圧縮比:12.0:0
バンク角:90度
最高出力:331kW(450ps)/7500rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgf/m)/5500rpm
吸気方式:自然吸気
カム配置:DOHC
ブロック材:アルミ合金
吸気弁/排気弁数:2/2
バルブ駆動方式:-
燃料噴射方式:PFI
VVT /VVL:In-Ex/×
(M3 GTR/2001 ALMS Spec.)
