大人になった今だから楽しめる!
L型キャブターボを積む異色のR30
R30スカイラインと聞いて、真っ先に思い浮かべるのはFJ20エンジンを搭載したRS、なかでも“鉄仮面”という人は多いことだろう。しかし、オヤビンさんの愛車は、そんなイメージとは対極にある存在。L型6気筒エンジンを搭載した4ドアセダン、2000ターボGT-E・Xパサージュだ。

高級モケットシートやパワーウインドウなどを備えた上級グレードのパサージュ。そんな高級志向のセダンでありながら、ボンネットの下にはOERキャブレターとギャレットタービンを組み合わせたL28改3.1Lエンジンが収まっている。

そもそもオヤビンさんが探していたのはR30ではなく、L型エンジンを搭載したクルマだった。そんな中、偶然見つけたのがL20ETを搭載するこのパサージュ。現状販売ながら手の届く価格だったこともあり、2021年頃に購入したという。
L型ターボにこだわった背景には、若かりし頃に体験した強烈な記憶がある。高校時代、初めて連れて行ってもらった夜のゼロヨン会場。その独特の世界に衝撃を受け、やがて自身もS30フェアレディZを手に入れ、ストリートゼロヨンにのめり込んでいった。
当時、憧れの存在だったのがキャブターボだ。
「2速くらいまでは付いていけても、3速に入ったあたりから一気に離されるんですよ。“キャブターボってこんなに速いのか”って衝撃でしたね。いつか自分でもやってみたいと思っていました」。
その後、結婚や子育てを機にクルマ遊びから約20年間離れていたが、再び趣味のクルマを楽しめるようになったことで、かねてから胸に秘めていた構想を実行に移すことになる。

手に入れたパサージュは、L20ETを搭載するフルノーマルのインジェクション仕様。まずは、以前所有していたS130に搭載していたL28改3.1Lエンジンへと換装した。
エンジン内部には89.5φの亀有製ピストンやクロモリコンロッド、LD28クランクを投入。クランクにはフルバランス取りを施し、シリンダーヘッドにもビッグバルブや柿本製強化バルブスプリング、78度カムなどを組み込んでいる。圧縮比は9.5という、本格的なフルチューン仕様だ。


そして、ネットオークションでHKS初期型と思われるS130用サージタンクやギャレットタービン、エキゾーストマニホールド、追加インジェクターホルダーなどを入手。OER47φキャブレターを新調し、必要な配管類を製作しながらキャブターボ仕様へと仕立てていった。

燃料の増量には、追加インジェクター3本とレビックによる制御を採用。現代的なフルコン制御に置き換えるのではなく、あえて往年のキャブターボらしいシステムにこだわっている点も興味深い。

過給による吸気温度の上昇に対応するため、トラスト製の前置きインタークーラーも追加。グリルとの干渉を避け、コアをバンパーの奥に収めるなど、プライベート製作ならではの工夫も盛り込まれている。ラジエターにはS130用の3層タイプを流用した。
かつてメカニックとして働き、L型エンジンを何度も組んできた経験を活かし、エンジン換装からセッティングまでを自ら手がけている。しかも、その作業を自宅前で進めたというから驚かされる。
気難しいとされるキャブターボと向き合い、試行錯誤を重ねながら、実際に走れる仕様へと仕上げてきた。しかし、今のオヤビンさんが求めているのは、必ずしも絶対的な速さではない。
「昔だったら、とにかく負けたくないのでパワーありきでしたが、今は乗りやすくて、踏んだときに楽しかったらそれでいいんです」。

その考え方は、エクステリアにも表れている。ホワイトとグレーのツートンカラーやボディストライプ、リヤウイングは純正のまま。フロントにはスポイラーとPIAAのフォグランプを装着しているものの、派手なエアロパーツで武装することはない。

むしろ、前期型グリルと廉価グレードのTI用角型テールを組み合わせることで、あえて普通のセダンらしい雰囲気を強調している。
R30といえば丸型テールの印象が強いが、オヤビンさんが目指したのは「普通のオッサンのクルマに見せたい」というスタイル。刺激的なL型キャブターボを搭載しながら、その実力を外観からは感じさせないのがオヤビン流なのだ。

足元には、旧車の定番とも言えるRSワタナベのエイトスポークを装着。タイヤは前後とも185/55R15のトーヨー・プロクセスR1Rを組み合わせ、程よく落とした車高が往年のチューニングセダンらしい佇まいを演出する。

ブレーキはフロントにR32用4ポットキャリパー&ローター、リヤにDR30ターボ用キャリパー&ローターを流用。足まわりにはメーカー不明のフルタップ式車高調を組み込み、ルックスだけでなく走行性能にも手を加えている。

インテリアは、ダッシュボードに目立った割れもなく、良好なコンディションを維持。高級グレードらしい雰囲気を残しつつ、オートゲージ製の3連メーターや亀有製燃圧計を追加し、エンジンのコンディションを把握できるようにしている。

運転席には当時もののブリッド製シートを採用。ここにも、若い頃から親しんできたチューニング文化への思いが感じられる。

若い頃はS130などでストリートゼロヨンを楽しみ、その後はドリフトやサーキット走行も経験してきたオヤビンさん。現在は息子のコブンさんとともに、R30ライフを満喫している。

かつて夜のゼロヨン会場で目の当たりにしたキャブターボの速さ。その強烈な記憶を、約20年のブランクを経て、自らの手で形にしたのがこのHR30なのだ。
速さを競うためではなく、アクセルを踏み込んだときの楽しさを味わうために。普通のオヤジセダンを装ったこのパサージュには、走り屋時代の情熱と、大人になった今だからこそ楽しめる余裕が同居している。
PHOTO:近藤浩之(Hiroyuki KONDO)/REPORT:石川大輔(Daisuke ISHIKAWA)
