連載

自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄

やっぱり「泥道」は楽しい

CCVは前後駆動軸直結がいちばんいい。ジープ・ラングラー。スズキ・ジムニー。昔の三菱パジェロ。ランドクルーザー70系。BMWが資金提供してローバーが作ったレンジローバー。そのあたり。パジェロミニも良かった。

前後軸を直結にすると「回転拘束」状態になる。4つの車輪〜タイヤの接地状態がすべて相互関連になる。4人の連帯だ。どこか1輪が宙に浮いて接地がなくなっても、残る3輪が仕事をする。前右輪と後ろ左輪が同時に浮いてしまっても、残る2輪が仕事をする。相当な岩場でも、凹凸が車体の地上高以下なら走れる。

泥道では車輪が滑る。必ず滑る。前輪が滑ったら後輪で押す。後輪が滑ったら前輪で引っ張る。片輪が滑ったら反対側で前に進む。これが前後軸直結AWD=All Wheel Drive(全輪駆動)だ。ただし、前後軸直結AWDは、滑るときには前後軸同時に滑る。微妙にであっても同時に滑っている時間がある。

このとき、駆動力配分はどうなっているのか。

滑っていてもグリップしていても、つねに前後の駆動力配分は動的分担荷重によって変化し続けている。静止時だと、静止時の分担荷重がたとえば前6:後4なら、たしかにそうなっているが、加速すれば5:5になったり7:3になったりする。前輪が滑りに入ったときには、前輪の垂直荷重が抜ける。すると瞬時に、駆動力は後輪に配分される。

これが自動的に、単純に前後デファレンシャルギヤとトランスファー内で機械的に行なわれる。各輪の垂直荷重依存だから、なんの遅れもなくその荷重変化で駆動力配分が変わる。

つねに全輪が駆動力を持っている。前軸の回転は後軸が拘束し、後軸の回転は前軸が拘束する。そして、前後リジッドサスペンションの場合は、全輪の位置決めが横力に対して揺るがない。車輪同士の位置関係もほとんど変わらない。だから直進は微動だにしない。ビシッとまっすぐ走る。修正舵を入れれば、入れたとおりにクルマが反応する。

……というのが前後軸直結AWDの乗り味だ。そんな知識を持って新型アウトランダーPHEVの「Mudモード」で泥道を走ると、まるで直結AWDである。当然、路面なりに滑る。でも、行きたい方向にステアリングを切ってアクセルペダルを踏めば、とりあえず行きたい方向にクルマのノーズが向く。

フラットダート: シャッタースピード60分の1秒(以下同じ)。ドライバーは、あのパリ・ダカドライバーの増岡氏。前後ホイールの回転は微妙に違うが、この場所は「泥」ではなくフラットダートに近い。4輪で確実にグリップしているような走りだ。

高速道路の直進でも「Mudモード」はいい。前後軸直結AWDのような安心感がある。もちろん「ノーマル」モードでもきちんと真っ直ぐ走るが、「Mudモード」だと、クルマの左右から見えない力がクルマを抑えてくれているような感覚を味わえる。

なんだ、これは!

アウトランダーはエンジン横置きFFベースの前軸駆動系に電気モーターがくっついている。後軸は独立した電気モーターで駆動する。前後輪には機械的な接続がない。電気信号でコントロールされているだけだ。なのに、なんで前後軸直結AWDのような乗り味になるのか。

ランエボのDNAをオフロード走行で確認! 完成度はRAV4 PHVを上回る【三菱アウトランダーPHEV|オフロード試乗】

新型アウトランダーPHEVの武器は、ツインモーター4WDをベースとした車両運動統合制御システム「S-AWC」だ。その進化と真価は、グリップの低いオフロードを走行すると如実に体感できる。国産プラグインハイブリッドSUVのライバルにはトヨタRAV4 PHVがいるが、総合力では新型アウトランダーPHEVが上回るというのが試乗後の本音だ。 TEXT●山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka) PHOTO●Motor-Fan.jp

https://motor-fan.jp/mf/article/41721/

なんで前後軸直結AWDのような乗り味になるのか!

ぬかるみ: 相当にぬかるんだゆるい下り坂なので、前後輪の回転速度は明らかに違う。前輪は滑っているので後輪で押している状態。増岡氏はアクセルペダルをかなり深く踏み込んでいるだろう。
柔らかめの砂地: トラクションをかけると車輪が埋もれてしまうような場所。カーブを曲がり車両姿勢を立て直す時点なので、後輪には横滑りが発生している。車体は上下にも揺れている。半分乾いた重ための砂だが、クルマは前に進む。

三菱自動車の開発陣に訊かないとわからない。開発陣でこのAWDシステムを担当した澤瀬 薫氏に訊いてみた。以下は筆者・牧野による澤瀬氏へのインタビューである。

澤瀬さん:前後軸直結AWDはクルマのダンピングが増えた感じがいい、ステアリングの中立付近にしっかり感が出る。この感触を、前後無関係のツインモーターを使って制御で出そうと思った。
牧野(=以下M):回転拘束ではない。ということ?
澤瀬さん:そう。2013年にツインモーターAWDを初めて出したときはノーマル/ロックの2モードだった。山道でノーマルからロックにモードを切り替えたとき、前後軸直結AWDっぽい感触が出た。何が違うかというと、前後の駆動力配分だけだ。前後に何のつながりもないのに回転拘束の感触が出た。ということは、直結AWDで感じる安定感は回転拘束が理由ではない。そう考えるしかない。タイヤが滑っているわけではないから「前後駆動力のベース配分の差でこの違いが出る」と考えるしかない。

M:ということは「気のせい」だった?
澤瀬さん:いろいろと計測してみた。直進安定性って、何だろう、と。わかってきたことは、いわゆる直進安定性という現象は、人間が介在しない直進安定性を示すロール振動やヨー振動といったところには何もデータが出てこない。ドライバーがステアリングに手を添えて、路面外乱も含めたいろいろな入力に対してフィードバック系が入った結果として、ドライバーの修正操舵が少なくなる。AWDはこういうところでも効果を発揮している。そいうふうに考えるようになった。

M:ヨーダンピングではない、と?
澤瀬さん:
以前は前後軸間の差動制限の差だと自分でも思っていた。しかし、駆動力配分と操舵感の関係とか、いろいろなデータを取った。その結果、前後軸が繋がっていなくても、前後の駆動力配分を変えると操舵フィールが変わる、ということに気付いた。駆動力・制動力配分も含めて前後力の前後輪間の配分が、前輪と後輪の横力の発生の仕方に及ぼす影響が、我われが「直進安定性」といっているものに寄与する。こう考えるのが正しいだろう、と。

M:その成果が今回の「Mudモード」に入った? つまり、我われが慣れ親しんできた前後軸直結AWDの駆動力配分を電気的に作り出している? バーチャル・ヨー・ダンピング?
澤瀬さん:いままで回転拘束だと思っていた「しっかり感」を出すためには、前軸100%の駆動力ではダメ。前100%だと舵が効かないで手応えが抜ける。後輪100%にするとリヤの横力発生ゲインが下がるので、これも手応えは抜ける。となると、バランス点がどこかにあるはずだ。

M:機械式の前後軸直結AWDは「滑る」「滑らない」の境点で機械が勝手に動いてくれた。つまり限界付近だけ。
澤瀬さん:そこに「余裕しろ」を入れて前後軸の駆動力バランスのちょうどいいところを作り出した。本当に微妙な駆動力配分の差だ。「ノーマル」「グラベル」「スノー」というほかのモードに対して、「Mudモード」はベース配分を微妙に、ほんとに微妙に変えた。それによって直進時の手応えも変わった。

M:接地荷重は測れないから、4輪の車輪速、前後のヨーモーメント、その差分、操舵角、前後軸トルク……そのあたりをセンシングしながら計算してマップと照合する。あるいは随時演算でフィードフォワード/フィードバックを使う?
澤瀬さん:基本はマップ。「Mudモード」は、とにかく前に進むことが目的なので横方向のことは考えない。

M:たしかに「Mudモード」は前後軸の駆動力だけで走っている印象だった。つまり直結AWDの感触。はじめのうちはおそるおそるアクセルペダルを踏んでいたけれど、途中から信頼できるようになり、「これくらい踏めばいいかな」と直感的にアクセルペダルを踏めるようになった。
澤瀬さん:アクセル/ブレーキ/ステアリングの操作はドライバーの意思。これに対しドライバーが思ったようにクルマを動かしてあげたい。それがいちばん乗りやすい。初心者は安心して走れるしベテランは楽しめる。クルマが勝手に「この場面ではこの制御をする」という強制は極力避け、ドライバーの操作に連動して物事すべてを連続的に制御するという作り込みにしている。その意味では、今回は「Mudモード」にいちばんこだわった。

タイヤ: タイヤ溝には泥が入り込み、トレッドパターンなどわからない。走行中は「泥輪で泥道を駆ける」ようなものだ。こういうタイヤで、刻々と変化する路面をグリップしなければならないから前後軸直結がいいのだと思っていたが。アウトランダーPHEVは擬似直結である。

というのが開発者の弁である。

世の中にはまだ、泥やぬかるみ、砂利にシャーベット状の雪が混ざった悪路が山のようにある。日本の道路舗装率は約80%、欧米はほぼ100%と言われるが、この数字には統計の取り方のマジックが入っている。私道は含まれないし国立州立など公園内や保護区(これが結構広い)の道路の扱いは国ごとに異なる。

欧州をドライブしていると、ノルウェーの北極圏でも、スイスの山岳地帯でも舗装道路ばかりだが(だからBEVでいいのだろうと思う)、アメリカの田舎は脇道にそれると未舗装路が多い。それに国立公園がだだっ広い。ASEAN(東南アジア諸国連合)各国やインド、ブラジルは街中を離れると未舗装路だらけだし、中東ではフラットダートが多い。CCVでなければ生活できない場所は、面積では地球上の大半を占める。

それと高低差やラスト10mのがれき道。自宅の前のたった十数メートルが「普通の乗用車では走れない」ためにSUVが必要な人もけっこういる。SUV=CCVではないが、「普通の乗用車よりはマシだから」と、ボストン在住の筆者の友人はトヨタ・タンドラに乗っている。「旅先でも、けっこうセダンでは行けない場所がある」と彼は言う。

このところAWDの技術動向がおもしろい。だからMotor Fan Illustrated の現在発売号はAWDの進化を取り上げている。その特集で筆者は「泥から舗装路へ」という内容で「一番新しいAWDはオンロードでのスタビリティを狙っている」と書いた。しかし、新しいアウトランダーPHEVをクローズドのオフロードコースで運転してみたら、しばらく忘れていた「泥の魅力」を思い出した。同時に「こういう道はまだ世の中にも結構ある」ことを思い出した。

前後軸に電気モーターを使うと駆動力配分を瞬時に制御できる。うまくやれば機械式直結AWDの「味」を出せる。澤瀬氏に訊くと「左右方法の制御は入れていない」と言う。たぶん、入れようと思えば入れられるのだろう。でも入れなかった。そこに「泥、ぬかるみ」の怖さ(つまり警告)と、「泥に横方向は要らない」という知見を見たように思う。

クルマは前後軸間の荷重移動量よりも左右間の荷重移動量のほうが大きい。だから前後軸の機械的連結を解くことができた。しかし、左右は難しい。デファレンシャルギヤが機械的な噛み合いだけでやっていることを、左右独立電気モーターの制御で代用するのは「極めて難しい」とエンジニアおよび研究者諸氏から聞いた。そこに差動制限も加えるとなると、想定外のケースは出てくるだろう。

たとえば、後軸左右のトルクベクタリングを左右独立電気モーターで行なう場合は、電気モーター同士の機械的連結が必要だろうと筆者は思う。よく、制御系エンジニアの方々から「機械ではできることが限られる」と伺う。そのとおりだと思う。しかし、できることが限られているからこそ、使い方のルールはシンプルになるのでは?

で、最後にこう思った。泥道を走れる自動運転は可能だろうか?

三菱アウトランダーPHEVの4WD性能を雪上で満喫!ツインモーター4WDの実力は想像を超える

三菱自動車のアウトランダーPHEVに乗り、針路を北にとった。 求めたのは“雪”である。雪の上でアウトランダーPHEVの性能を確かめたかったのだ。 TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:小林直樹(KOBAYASHI Naoki)

https://motor-fan.jp/mf/article/44003/

Motor Fan illustrated Vol.185「AWD Paradigm Shift」

新しいAWDが車両姿勢を変える
・AWDエンジニアの主張
前後独立モーター
 トヨタ:E-Four
 三菱:S-AWC
 日産:e-4ORCE
電子制御カップリング
 マツダ:i-ACTIV AWD
 レクサス:電子制御フルタイムAWD

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