「日産名車再生クラブ」とは?

「日産名車再生クラブ」は、2006年4月に日産テクニカルセンター内の開発部門従業員を中心に活動を開始した社内クラブ。関連会社からの参加も含めて年平均80名、コアメンバー13名を数え、設立以来、日産の歴史的な車両を当時の状態で動態保存すること、古いクルマを再生する過程で日産の先達のクルマ作り、技術的な工夫や考え方を学ぶことを目的に活動を続けている。

この日の完了式に集まった日産名車クラブのメンバー。基本的にはクラブ活動であり、その活動は終業時間外、主に土曜日に行われる、今回の完了式も土曜日だった。

昨年のパルサーGTi-R(グループA)に続くラリーカーの再生となったZ31型フェアレディZ300ZXだが、全日本ラリー選手権(以下、JRC)のチャンピオンマシンとはいえ国内ラリー用の車両は今回が初となった。

再生車仕様
2006240RS(グループB)1983年モンテカルロラリー仕様
2007スカイライン2000GT-R(KPGC110)1972年東京モーターショー出品車
2008サニーエクセレントクーペ1400GX(KPB110)1973年日本GP優勝車
2009DATSUN2000GT(バイオレットGT/PA10)1982年サファリラリー優勝車
2010たま電気自動車(E4S-47I)1947年モデル
2011DATSUN富士号・桜号(ダットサン1000セダン)1958年モービルガス・トライアル仕様
2012プリンス・スカイラインGT(S54A-1)1964年日本GP仕様
2013DATSUN240Z(フェアレディ240Z/HS30)1971年サファリラリー優勝車
2014ダットサン・ベビイ(AF8N)1965年こどもの国
2015NISMO GT-R LM(BCNR33)1995年ル・マン24時間仕様
2016チェリーF-IIクーペGX- Twin(PF10)1974年TSレース仕様
2017スカイライン2000GTS-R(HR31)1988年スパ・フランコルシャン24時間仕様
2018サニー1200クーペGX-5(KB110)1972年東京モーターショー出品車(TS仕様)
2019プリンス・グロリアスーパー6(S41D)1964年日本GP仕様
2020マーチスーパーターボ(K10)1987年リトルダイナマイトカップ仕様
2021-スカイラインGT-R(BNR32)1990年N1耐久仕様
2022
2023パルサーGTI-R(RNN14)1992年RACラリー仕様
2024フェアレディZ300ZX(HZ31)1985年全日本ラリー総合優勝車
日産名車再生クラブの再生車一覧
【画像50枚】日産最後のワークスラリーマシン・パルサーGTI-RグループAのレストアが完了! 1992年WRC最終戦RACラリーを走った姿が甦る!!

日産は国産自動車メーカーの中でも古くから"ヘリテージ"に力を入れてきた方だ。「日産ヘリテージコレクション」(神奈川県座間市)には市販車からコンペティションマシンまで、実に様々なクルマが数多く収蔵されている。いずれも素晴らしいコンディションを維持しているが、その陰には「日産名車再生クラブ」の活動がある。その最新成果が、日産がワークスチームとして最後にWRCに投入したラリーマシン・パルサーGTI-R(グループA)である。2024年6月22日、日産テクニカルセンターで、その完了式が行われ完成車が披露された。

https://motor-fan.jp/mf/article/240341
2024年の完了式でお披露目された2023年の再生車、パルサーGTi-R。

2023年再生車の完了式は同時に2024年車のキックオフ式でもあり、2024年再生車としてZ31型フェアレディZ300ZXの1985年全日本ラリー総合優勝車が発表されていた。

Z31型フェアレディZ1985年全日本ラリー総合優勝車

2024年の再生車として選ばれたZ31型フェアレディZは1985年のJRCに投入され、ドライバー:神岡政夫/コドライバー:中原祥雅が見事総合優勝=チャンピオンに輝いたマシン。この車両が選ばれたのは、1984年9月に設立されたニスモが40周年を迎えることから、ニスモが手がけた初のワークスマシンであるこのフェアレディZに白羽の矢が立ったわけだ。

レストアが完了したZ31型フェアレディZ。
Z31型フェアレディZは最後のFRチャンピオンマシンだった!? 全日本ラリー選手権での活躍を振り返る! 4WDマシンも存在した!?

スカイラインと並ぶ日産スポーツカーの一方の主役であるフェアレディZは初代のS30型から現行のRZ34型に至るまでサーキットレースで活躍しており、フェアレディZのレーシングイメージを形作っている。しかし、フェアレディZはサーキットだけなく、未舗装路……ラリーでも活躍しているのをご存知だろうか? しかも、最もモータースポーツイメージのないZ31型で……。そんなZ31型フェアレディZの栄光を振り返る。

https://motor-fan.jp/mf/article/191324
このZ31型フェアレディZ300ZXの活躍と当時の全日本ラリーの状況についてはこちらの記事もご覧ください。

そして、そのニスモ40周年にあたる2024年12月に開催される『ニスモフェスティバル2024』で展示・走行するために急ピッチでレストアが開始された。

40周年記念! Z31型フェアレディZ300ZXの全日本ラリー選手権チャンピオンマシンはニスモ初の競技車両? ニスモフェスティバルに向けてレストア開始!!

市販車からコンペティションマシンまで、日産のさまざまなな歴史的名車を収蔵する「日産へリテージコレクション」(神奈川県座間市)。その車両をレストアする日産社内の有志クラブが「日産名車再生クラブ」だ。2006年の発足以来、2023年まで16台の名車をレストアしてきたが、その2024年のレストア車として選んだのがZ31型フェアレディZ300ZX。その、1985年全日本ラリー選手権チャンピオンマシンだ。2024年6月22日(土)、日産テクニカルセンターでそのキックオフ式が行われた。

https://motor-fan.jp/mf/article/240806
Z31型フェアレディZ300ZXのレストアキックオフ時の様子とクルマの詳細はこちら。

エクステリア

外観は当時の実戦仕様に復元された。というのも、レストア前まではあちこちで展示された関係で当時の仕様とは異なる形になっていたからだ。その仕様は1985年JRC最終戦「M.C.S.Cラリーハイランドマスターズ」参戦仕様とされた。

レストア前のゼッケンは展示用に日産ワークスの23番を付けていたが、当時の仕様に合わせて21番になった。

当時の資料など(主に『プレイドライブ』や『オートスポーツ』、ニスモの広報誌)を調べてステッカーなどを再現していくのだが、参戦当時は毎戦ステッカーなども異なっており、資料の少なさから再現にはかなりの苦労があったという。

特に右後方を写した写真が少なく、三菱石油のステッカーが貼ってあることを確かめるのは苦労したという。
ドアより前は左右で同じなのだが、リヤフェンダーは左右でステッカーが異なっている。「日産ワークスのラリーカーになぜ三菱(三菱石油とラリーアート)が?」と思うが、ラリーのオフィシャルスポンサーである。

また、ミュージアムコンディションに直すのではなく、当時の実戦の空気感を残した形にレストアするため、ボディには傷やヤレを残したままにしているという。

フロントバンパーの塗装は剥げて曲がっている。ボディ下にはアンダーガードが見える。
フロントバンパーからフロントフェンダー下部にかけても傷や塗装の剥がれがある。
石が跳ねるボディサイドにも細かい傷が多い。
フロントのマッドフラップはホイールハウスではなくその後方アンダーパネルに装着。
リヤのマッドフラップも同様にホイールハウスより後方に装着される。
ダンロップのラリータイヤ、ディレッツァ88Rを装着。サイズは195/65R15。
機能は生きていないが、無線用にアンテナステーも再現。
当時モノのJAF公認ステッカーが残る。
ボディアンダーは錆と砂土埃との格闘。
リヤのタンクガード(手前)とデフガード。
ガード類にはたくさんの傷が残る。

日産ヘリテージコレクションの収蔵車で、たびたび展示こそされてきたものの、ほとんど40年前から手付かずの状態だったため、錆と当時の砂土埃がひどく、錆落とし部品磨きがレストア作業の大きなウエイトを占めたそうだ。

エンジン&ドライブトレイン

当時のJRCはレギュレーションが今よりも格段に厳しく、一部を除けばほとんどノーマルで争われており、当然エンジンも基本的にノーマル。このZ31型フェアレディZ300ZXのエンジンもレストアにあたりオーバーホールが行われているが、錆の対応が大変だったそうだ。

VG30ET型3.0L V型6気筒SOHCターボエンジン。カタログ値で230ps/5200rpm・34.0kgm/3600rpmのパワーとトルクを発揮する、当時国内トップレベルの出力を誇った。

エンジニア的にはオーバーホールのついでにポート加工をしたくなるところをグッとこらえてオリジナルに忠実に再生したという。意外と純正部品の確保は容易だったとのことだ。

エンジン自体もノーマルだが、エンジンルームもノーマル然としており、ストラットタワーバーが装着されているくらい。

トランスミッションも同様にオーバーホールしているが、このZ31型フェアレディZ300ZXのトランスミッションは大トルクに対応するべくボルグワーナー製のT5型を搭載。このミッションのオイルシールは日産社内には在庫がなく、横浜のアバンテオートサービスから新品を調達している。

エンジンはほぼ前輪車軸上に位置し、その前に巨大はファンやエアクリーナー、ラジエーターが配置されるためフェアレディZならではロングノーズフォルムは継承された。
錆で穴が開くなどボロボロだったというマフラーも再生された。

インテリア

インテリアも土埃まみれだったため、そのクリーニングが中心となった。しかし、内装パーツの多くがリベット留めだったために取り外しには苦労があったという。また、破れていた内装を補修したり、失われていた部品や機材を調達して当時の状態を再現することができたそうだ。

ダッシュボードやセンターコンソールなどはノーマル状態ながら、ボディ側の内装は剥がされている。
ステアリングは当時モノのニスモ製。右側のレザーパッドは神岡選手が所有していたストック品を譲り受けて装着している。
アクセルペダルの手前に踵を置く部品が追加されている。
助手席側。ドアの内張は残されているが、幅広の収納スペースが増設されている。
運転席側。増設された収納が助手席より小ぶりで、膝当てパッドは運転席側のみ。
ダッシュボードにはラリーコンピュータとトリップメーターが、センタートンネルには収納スペースが増設された助手席側。足元にはジャッキが固定されている。
ラリーコンピュータ、RP80A。
トリップメーターと無線機。シフトノブもニスモ。
助手席側Aピラーには可動式のマップランプ。
クリーニングされたシート。シートベルトはサベルトの4点式だが、現在のカムロックではなくバックルタイプだ。
ロールバーは現在の感覚からすると細く少ない。リヤまわりのみでフロント側には来ていない。
極めてシンプルなロールバー。
トランクはスペアタイヤのスペースが大半を占めていたようだが、今は搭載されていない。ステーと固定用のベルトとゴムがある。トランク左後方にクロスレンチを収納。

名車再生クラブのステッカーを貼り完了式終了

名車再生クラブがレストアした車両にはその証のステッカーが貼られる。今回もリヤウインドウにステッカーを貼り、完了が宣言された。

完了ステッカーを貼るクラブ代表の木賀新一氏。
完了ステッカーは右リヤウインドウに貼られた。
日産名車再生クラブのレストア完了ステッカー。

また、出席こそ叶わなかったものの、当時このZ31型フェアレディZ300ZXをドライブしてJRCの1985年王者となった神岡政夫氏から寄せられたコメントが披露された。

「1985年、40年前のHZ31が日産自動車株式会社様にて保存されていることは以前から知っていましたが、昨年(2024年)にレストアされることをネット上で知りました。その後、(日産名車再生)クラブメンバーの方よりご連絡いただきました。
私が40年前にドライブしていた全日本ラリー選手権のチャンピオンを獲得したHZ31が存在していること、さらに昨年レストアされて当時の状態に戻ったことを画像で拝見させて頂き、日産自動車株式会社様に感謝感謝です。
日産名車再生クラブの皆様ありがとうございました。また、当時のNISMOメカニック関係者の方々ありがとうございました。
私は現在富山県高岡市で自動車販売/自動車用品販売店PROJECT Kにて頑張っていますので、皆様、富山県にお越しの際はお立ち寄り願います」

(有)カミオカ・モータースポーツ PROJECT K
神岡政夫

他にも、レストアにあたって参考にされた当時の資料や、日産の有志モデラー「日産オートモーティブテクノロジー モデラーズクラブ」のプラモデルも展示され、完了式に花を添えた。

レストアの資料となった当時のモータースポーツ誌に加え、フェアレディZとそのスポーツパーツカタログも。
『NISMO MOTOR SPORTS DIGEST』はニスモの広報誌。
「日産オートモーティブテクノロジー モデラーズクラブ」の作品。
レストア車両のフェアレディZもあり、
エンジンルームまで再現されている。

2024年は2023年レストア車の完了式と2024年レストア車のキックオフ式が同時だったが、今回は完了式のみで2025年レストア車の発表はなかった。2024年が6月だったことを考えると、そろそろ2025年のレストア車も決定されるのではないだろうか。大いに気になるところだ。

日産のヘリテージコレクションは非常に価値のあるコレクションだけに、その収蔵車をレストアする名車再生クラブの活動は大いに意義があると言える。今後とも、末長く継続してほしい。

協力企業再生部位/部品
大場板金部品要求
住友ゴム工業株式会社ダンロップタイヤ
トミークラフトステッカー
日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社
NISMO Racing事業部
部品要求、再生サポート
バラクーダ部品要求
BILSショックアブソーバーオーバーホール
ロックペイント株式会社車体塗料
レストア協力会社

フォトギャラリー:
Z31型フェアレディZ300ZX1985年全日本ラリー選手権総合優勝車