Eクラッチ以外も魅力あり! ホンダCBR650RとCB650Rの高回転域でのエキサイティングなパワーに脱帽でした。

2019年3月に発売されたホンダのCBR650RとCB650Rは、ミドルクラス唯一の直4エンジンを搭載したロードスポーツモデルであり、世界中で年間3万台(!)も売れている大ヒット商品だ。スタイリングを一新した2024年型は、二輪車初のEクラッチをタイプ設定したことが話題となっているが、あらためてこの2台が持つ魅力について紹介したい。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・CBR650R E-Clutch……115万5000円~

STDモデルは110万円で、車体色はマットバリスティックブラックメタリックのみ。タイプ設定されるEクラッチは5万5000円高となり、STDと共通のブラックのほかにグランプリレッド(118万8000円)を用意する。なお、STDモデルの場合、2023年型からの価格上昇はわずか2万2000円だ。

ホンダ・CB650R E-Clutch……108万9000円

STDモデルは103万4000円で、CBR650Rと同様に車体色はマットバリスティックブラックメタリックのみ。2023年型から3万3000円アップしている。タイプ設定のEクラッチはブラックのほかにパールディープマッドグレーを用意。なお、CBR650R、CB650Rとも発売日については、4月11日の正式発表時には「6月13日」とアナウンスされていたが、これを執筆している6月中旬現在、納期未定に変更されている。
世界初となるクラッチコントロール自動制御システム「ホンダEクラッチ」は、前後輪の車速やエンジン/カウンターシャフトの回転数、スロットル開度、ギヤポジション、シフトペダル荷重などの情報をベースに、二つのモーターでエンジン側のクラッチレバーシャフトを作動させる仕組みだ。そのフィーリングについてはこちらの記事を参照のこと。

官能的な吹け上がり、直4ならではの楽しさを再確認する

CBR650R E-Clutch

かつてホンダのミドルクラスには、CBR600Fという名車が存在した。欧州や北米では1987年から、国内では1992年から販売されており、コスパに優れる直4スポーツバイクとして世界中で人気を博した。2003年にCBR600RRが登場するまではレースシーンでも活躍するなど、文字どおりオールマイティなモデルだったのだ。

そんなCBR600Fは、2014年に新開発の直4エンジンを搭載したCBR650Fへと移行。同時に、ホーネットの愛称で親しまれていたネイキッドのCB600Fも、CB650Fへとモデルチェンジしている。そして、2019年にこの2台はCBR650RとCB650Rへと進化した。スタイリングを一新するとともに、倒立式フロントフォークや新デザインの前後ホイール、ラジアルマウント式のフロントキャリパーを採用するなど、足周りも刷新している。

こうして歴史を振り返ると、このミドルクラスのCBRとCBは、ホンダが1980年代後半から大切に育ててきたマスターピースであることが分かろう。600cc前後という排気量は、若者向けのエントリーモデルとしてだけでなく、ダウンサイジングを求めるベテランライダーのニーズにも応える必要がある。だからこそ幅広いユーザーに体感してもらえるように、Eクラッチの初搭載モデルとして、CBR650RとCB650Rを選んだのだという。

筆者がこの2台をテストするのは、2019年のモデルチェンジ直後に試乗して以来だ。2023年型で令和2年排ガス規制に適合しているが、最高出力95psは変わっていない。今回はクローズドコースでの試乗なので、スロットルを思う存分開けることができるのだが、とはいえ100psに迫ろうかというパワーは伊達ではない。右手の動きに対してエンジンはリニアに反応し、7,000rpm付近から一段と伸びが増す。その勢いはレッドゾーンの始まる12,500rpmまで衰えることはなく、慣れるまではそのはるか手前でスロットルを緩めてしまうほどだ。

そして、何より感心するのは、こうした高回転域でのエキサイティングなパワーを持ちながら、街中で常用する低~中回転域のトルクが潤沢なことだ。特にEクラッチ採用車は、その楽しさゆえ無駄にシフトアップしてしまうことが多いのだが、高めのギヤでも長い上り坂をスルスルと加速してくれる。これなら渋滞路での極低速走行も苦にならないだろう。

直接のライバルは、価格的にもパワー的にもトライアンフのデイトナ660ということになるだろう。並列3気筒エンジンを搭載するデイトナ660は、スポーツ/ロード/レインという3種類のライディングモードを備えており、それに連動してトラコンとABSの設定が最適化される。これに対してCBR650RとCB650Rはトラコンのオンオフのみだが、とはいえ発進から停止までクラッチ操作が不要なEクラッチのアドバンテージは圧倒的であり、何を優先するかで選ぶべきバイクが変わってくるだろう。

トライアンフ・デイトナ660。108万5000円、最高出力95ps/12,650rpm、車重201kgというスペックからも、CBR650Rを研究し尽くしたことがうかがえる。インプレはこちら

バンク角主体の扱いやすいハンドリング、乗り心地も良し

CB650R E-Clutch

フルカウルのCBR650RとネイキッドのCB650R。異なるのは外装とライディングポジションぐらいで、車重差も4kgしかない。とはいえ、ハンドリングには大きな違いがある。

CBR650Rは、カウリングの整流効果もあってかスタビリティ成分が強めで、速度が増すほどにピタッと安定してくる。旋回力がそれなりだと感じるのは、ホイールベースが長いからだろうか。事実、CBR600RRより80mmも長く、これも安定性を高める要因になっているのは間違いない。

よって、スタイリングこそスーパースポーツ的だが、ハンドリングはスポーツツアラーに近く、マシンなりに寝かし込むとバンク角主体でスムーズに向きを変える。旋回中、リヤサスが奥で突っ張っているように感じるが、フロントフォークの動きはスムーズで、これによる安心感は大きい。また、サス自体の動きは良質で、巡航時の乗り心地がいいのも気に入った。

これに対してネイキッドのCB650Rは、とにかくロール方向の動きが軽快で、CBR650Rに対して10kg以上は軽いようなイメージだ。ライディングポジションはアップライトで、なおかつハンドルバーの幅が広く、積極的にマシンをコントロールできる。また、カウリングがない分だけ車体のピッチングが分かりやすく、これも扱いやすさの源になっている。二次旋回の印象はCBR650Rと大差ないが、そこに至るまでの倒し込みが素早く、また車体姿勢をコントロールしやすい分だけ、ネイキッドのCB650Rの方がワインディングロードは楽しいと言えるだろう。

ブレーキキャリパーは前後ともニッシンで、フロントにはラジアルマウント対向式4ピストンを採用。初期からガツンと利くタイプではなく、あくまでも入力に対して従順に制動力が発生する。峠道でペースを上げるともう少し利いてもいいかなと思うが、街乗りやツーリングユースを考慮すると、これが最適かもしれない。

昨年、401cc以上のバイクで国内第4位の販売台数を記録したというCBR650RとCB650R。今年はEクラッチがタイプ設定されたことで台風の目になる可能性は大きいのだが、これを執筆している6月中旬現在、残念ながら発売時期は未定となっている。とはいえ、欲しい人は早めにオーダーしておいた方がいいだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

2019年3月にCBR600Fから650Rへとモデルチェンジした際、セパレートハンドルのクランプ位置がトップブリッジの上から下へと移動したが、上半身の前傾角は極端に深くはなっておらず、2024年型もそれを継続する。シート高は810mmで2019年型から変更はなく、幅の広い直4エンジンを搭載しながらも足着き性は良好だ。
燃料タンクから後方のコンポーネントはCBR650Rとほぼ共通であり、シートとステップとの位置関係も同じ。ゆえに下半身の収まり具合に違いはない。ハンドルグリップの高さは、オーソドックスなネイキッドとストリートファイターの中間といった雰囲気で、最小回転半径がCBR650Rより小さいのも街乗り向きと言える。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…