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東京モーターショーは2023年より、モビリティ業界を起点とした共創プラットフォームの実現を目指し、従来の「東京モーターショー」から「JAPAN MOBILITY SHOW」に刷新。この催しは、ビジネス向けイベントとショーケースイベントを毎年交互に開催。刷新から2回目となる「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は、ビジネス向けイベントとして実施された。
今回の「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は、メイン開催となった技術・産業の総合展示会「CEATEC(シーテック)2024(※注1)」との併催(両イベントとも入場無料)。展示ホール2~8を使った「CEATEC 2024」に比べ、「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」は展示ホール1のみの小規模開催だったが、ブースでは各社がアイディアと工夫を凝らして開発した、注目のモデルや製品がお披露目された。
※注1:「CEATEC(シーテック)」は2024年で25周年を迎える技術・産業の総合展示会。「Toward Society 5.0」をコンセプトに、経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0」の実現を目指したソリューションなどが集結。2024年はAIを中心とした出展が多く、25周年特別企画「AI for All」も話題を呼んだ。
ホンダ SmaChari(スマチャリ)……「技術ライセンス」を自転車関係各社に提供中
写真は日本のスポーツバイクブランド「KhodaaBloom(コーダーブルーム)」が開発した本格派クロスバイク「RAIL ACTIVE」をベースに、国内バイクメーカーのホンダが開発した「SmaChari(スマチャリ)」を導入した電動アシスト自転車「RAIL ACTIVE-e」。2023年9月より、自転車専門店「ワイズロード」から22万円(税込)でリリース中だ。
ホンダが開発した「SmaChari(スマチャリ)」とは、通常の自転車に、電動アシストユニット(電動モーター・バッテリー・制御装置)を後付けし、電動アシストユニットをスマホのアプリで操作するシステム。
ホンダは電動アシスト自転車本体を販売するのではなく、このSmaChari(スマチャリ)を“技術ライセンス”として、自転車関係各社に提供している。
ホンダはSmaChari(スマチャリ)を事業展開するに当たり、自社で自転車本体の開発製造は行わず、SmaChari(スマチャリ)の“技術ライセンス”を発売。その理由は…
自転車業界は様々な専門の企業が分業することで成立。また現在、電動アシスト用パーツが調達しやすい環境が整っているため。つまり「餅屋は餅屋(その道のことは専門家が一番であるというたとえ)」の論理に則し、自転車本体や電動アシスト用パーツは、自転車メーカーや部品メーカーに任せるのがベストだと判断したためだ。
SmaChari(スマチャリ)は汎用の電動アシスト用モーターやバッテリーも使用可能。このため自転車メーカーや関係各社は低コスト&低価格にて、SmaChari(スマチャリ)を利用した高機能かつ高性能な電動アシスト自転車の製作が可能となる。
SmaChari(スマチャリ)はココがポイント!
スムーズなアシスト制御
パワーレベル4段階、レスポンスレベル4段階のきめ細かいアシスト制御に加え、急発進抑制制御、AIモードも搭載し、快適で安心なアシストを実現。
スマホキー機能
自転車とアカウントでリンクしたスマホからのみ電源ONが可能。これは盗難抑止にもつながる安心機能。
ユーザー間での車両共有
あらかじめお互いに登録したユーザー間で自転車の貸し借りが可能。借りた自転車は自分のスマホからコントロールできる。
ユーザー間での位置共有
あらかじめお互いに登録したユーザー間で現在の位置を共有可能。これは外出中の待ち合わせや、お子様の見守りなどに役立つ便利な機能。
SmaChari(スマチャリ)は昭和27年に登場した「カブF号」の再来か!
ホンダはSmaChari(スマチャリ)を展開するに当たり、自社で自転車本体の開発製造は行わず、技術ライセンスのみを発売。これを聞いて、「何となく、ホンダのカブF号に似ているな」と感じた人もいるはず。
1952年(昭和27年)に発売されたカブF号とは、正確には“自転車用補助エンジン”のこと。市販の自転車に、重量約6kgのカブF号(補助エンジン)を組み合わせるというシンプルな構造で、庶民の生活にもすぐに浸透。2ストロークエンジンならではのサウンドから、カブF号は通称“バタバタ”とも呼ばれ、親しまれた。
別名“自転車オートバイ”とも呼ばれたカブF号は、全国的に爆発的なヒットとなり、スーパーカブC100に先駆けて、ホンダ躍進の礎(いしずえ)を築いた。
カブF号を発売するにあたり、ホンダは全国の自転車店に着目し、全国の約5万5000店の自転車販売店に「カブF号」の販売促進用ダイレクトメールを送付。前金と引き換えに、段ボール箱に詰めた「カブF号」を発送するという、当時としては革新的な方式で販売された。
補助エンジンである「カブF号」の当時の販売価格は、2万5000円。「カブF号」の売れ行きは上々で、約1万3000店の自転車販売店が、ホンダの新たな販売拠点となった。
カブF号の成功で、ホンダは大型設備投資や新工場を建設。6年後に発売される、スーパーカブC100登場の大きな足掛かりにもなった。
電動アシスト自転車は「HY戦争」に敗れた、ヤマハ開発陣による執念の賜物(たまもの)って本当?
「打倒・ホンダ!」の元に生まれた電動アシスト自転車
電動アシスト自転車の誕生には、実は上記「SmaChari(スマチャリ)」や「カブF号」を開発したホンダにも大きな関りがある。
ソフトバイク(原付の小型スクーター)ブームやバイクブーム(主にカウル付きのレーサーレプリカモデル)に沸いた1970年代終盤~1980年代。ホンダとヤマハは国内のバイク市場において、激しい覇権争い(販売台数争い)を展開。この戦いはHY(エイチワイ)戦争と呼ばれ、社会現象にもなった。
その後ヤマハは敗北を宣言。HY戦争に敗れたヤマハは「打倒・ホンダ!」をスローガンに、1989年、新たなモビリティの開発に成功。これが自転車にモーターとバッテリーを取り付け、アシスト機能を導入した世界初の電動アシスト自転車だ。
ヤマハが世界で初めて開発・実用化に成功した電動アシスト自転車は、HY戦争に敗れたヤマハの技術者や開発者たちが「打倒・ホンダ!」を目標に製作した、執念の賜物(たまもの)ともいえる。
発案者でもある技術者(後に電動アシスト車椅子の開発・実用化も実現)は、停車時のハンドリングを軽くする自動車のパワーステアリング(パワステ)に着眼。市販の自転車とパワステ用パーツ等を使い、電動アシスト自転車の試作車を製作した。
試作車に初めて試乗した発案者の上司は、「ペダル漕ぎ始めが重いはずのスタート時、背中を押されるような感覚に驚愕。スーパーマンになった感じがした」と衝撃を受け、「これは絶対に売れる!」と確信したという。
しかし一部の幹部からは、「乗車には原付免許が必要だろ? しかも見積もったところ発売時は原付とほぼ同価格になる。こんなもの売れるはずがない」と市販化に反対。
これに対し、発案者からバトンタッチを受けた開発担当者は、警察庁及び運輸省に「これは自転車です」と根気強く交渉。後に警察庁や運輸省の要人を招き、走行会を実施。坂道になった途端、“アシスト機能による絶妙な感覚”に笑顔を浮かべた警察庁や運輸省の要人たちに、「確かに便利だが決して原付ではない。これは自転車です」と言わしめた。
社内のプロトタイプ(上記写真左)試乗会では跨りにくさから(バッテリーをメインフレームに沿わせた斜め横置きに設置)、一部の女性社員から「タダでも要らない」とダメ押し。その結果、設計をイチから見直し、バッテリーの配置をシート下の斜め縦置きに変更(上記写真右)。
電動アシスト自転車の市販車第一号は1993年、自転車メーカーでもあるブリヂストンとヤマハが共同開発したヤマハPAS(上記写真右)。ヤマハは独自開発した電動アシスト機能に対し、一社独占となる特許を取得せず、自転車関係各社に技術提供。ヤマハにおいて電動アシスト自転車は「打倒・ホンダ!」から、いつしか「多くの人たちに届けたい」に変わっていったのだ。
ヤマハが自転車関係各社に技術提供した理由は、
・電動アシスト自転車普及のため
・市場価格を下げるため
言い換えれば、「餅屋は餅屋(その道のことは専門家が一番であるというたとえ)」の論理に則し、自転車本体は自転車メーカーに任せるのがベストだと判断したから。この点は、上記のSmaChari(スマチャリ)やカブF号に似ている。
ヤマハではPAS発売の1993年から10年間、電動アシスト自転車事業は赤字。しかしその後は黒字に転化。経済産業省の調査によれば、2018年上半期に国内で製造された自転車(約45.6万台)のうち、電動アシストは67%(約30.6万台)、金額ベースでは86%まで成長した。まさに「継続は力なり」と言えよう。
電動アシスト自転車は2024年現在、世界30か国以上に普及。国内では一般用だけでなく、首都圏や観光地でのシェアサイクル用、営業などのビジネス用、宅配用、警察車両用等々、多方面に活用されている。
参照サイト:https://global.yamaha-motor.com/business/e-bike-systems/30th/jp.html#section-1989