必ずしも万人向けではないけれど……林道ツーリング好きライダーの愛車には良さそう。|カワサキKLX230シェルパ 1000kmガチ試乗【1/3】

2024年末~2025年初頭のカワサキは、基本設計を共有する4種類の兄弟車として、注釈ナシのKLX230、S、シェルパ、SMを矢継ぎ早に発売。その中から当記事で取り上げるのは、充実装備が魅力のシェルパだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキ KLX230シェルパ……638.000円

KLX250シェルパの基本構成は、同時開発された兄弟車の一員であるKLX230Sとほぼ同じ。ただし、ヘッドライト下部のスタックパイプ、ナックルガード、アルミ製テーパーハンドル、エンジン下部のスキッドプレート、分割式でシンプルなデザインのシュラウド+タンクカバーなどは、シェルパならではの装備だ。

現代のライバル勢とは一線を画する資質

2020年から1~2ヵ月に1回ペースで掲載している当記事、『1000kmガチ試乗』を過去に読んだことがある人ならご存じかもしれないが、最近の僕の中では十数年ぶりにオフロード熱が再燃し、林道ツーリングに定期的に出かけている。そんな僕は、これまでに当記事で取り上げたホンダCRF250L/〈S〉やスズキVストローム250SXで未舗装路を走った際に、各車各様の資質に好感を抱いたものの、だからと言って、それらがヤレが進んでボチボチ寿命を迎えそうな自身の愛車、1997年型ホンダSL230の代替機としてベストは思えなかった。

先代に対してかなりのコンパクトが図られたヘッドライトは、光源をH4バルブ→LEDに変更。分割式のヘッドライトカバーは、かつてのカワサキが販売したスーパーシェルパに通じる雰囲気だ。

その主な理由は車格である。1997年型SL230の装備重量・軸間距離が116kg・1340mmだったのに対して、CRF250L/〈S〉は141kg・1440/1455mmで、Vストローム250SXは164kg・1440mm。常日頃から極悪路でSL230の軽さと小ささの恩恵を享受している身としては、ホンダのトレールバイクとスズキのアドベンチャーツアラーの車格には、何となく抵抗を感じてしまうのだ。

OHC2バルブ空冷単気筒エンジンは、もともとはKLX230シリーズ専用だったものの、現在は主要部品を最適化したうえで、ネオクラシック系オンロードバイクのW230/メグロS1も搭載。

などということを考えていた僕が、未舗装路を含めたさまざまな場面を走って、“次の愛車はコレか?”と感じたのが、カワサキが2024年末から発売を開始したKLX230シェルパ(134kg・1365mm)である。もっともこのモデルには基本設計を共有するKLX230Sが存在し、2台の乗り味にはほとんど差異が無いようだから、おそらくKLX230Sに乗っても、僕は同様の印象を抱いただろう。

なおKLX230Sとシェルパに関しては、世の中にはもっと明確な差別化を図るべきという異論もあるらしい。でも今現在の僕は、魅力的な軽二輪トレールバイクを発売してくれたカワサキに対して、とにかくもう、“ありがとうございます‼”と、感謝の意を述べたい気分なのだ。

開けてナンボ、飛ばしてナンボ、ではない?

さて、初っ端から個人的な熱い思いを記してしまったが、実は当初の僕は新世代のKLX230シリーズに、大きな期待はしていなかった。その背景には、2020年に体験した初代KLX230がいまひとつピンと来なかったという事情があって、アクセルを開けてナンボ、飛ばしてナンボと言いたくなる硬派なキャラクターが(そういった資質を緩和するためか、2022年には前後サスストロークを短縮した先代KLX230Sが登場したが、僕は未体験)、自分の使い勝手にはマッチしなかったのである。

ところが新しいKLX230シェルパは、アクセルをワイドオープンして飛ばしたときの走破性をしっかり維持しながらも、低回転低速域がムチャクチャ優しくて従順になっているのだ。誤解を恐れずに表現するなら、SL230やヤマハ・セローなどのように、林道では景色を眺めながらのトコトコ走行が堪能できるし、市街地はミズスマシのようにスイスイ走れる。そういった事実を考えると、第二世代のKLX230シリーズの守備範囲は、初代と比較すると格段に広がったと言っていいと思う。

必ずしも、万人向けではないけれど……

ただしKLX230シェルパは、必ずしも万人に自信を持ってオススメできるバイクではない。あら、この表現だとまたしても誤解を招くかもしれないが、世の中には何らかの不満を抱く人もいるはず。以下にその事例を記すと、小柄なライダーやエントリーユーザーは845mmのシート高に不安を感じそうだし、舗装された快適なワインディングロードでは、オン&オフ指向のタイヤのグリップ力に物足りなさを感じる人がいるかもしれない。

また、ツーリング指向のライダーは7.6ℓのガソリンタンク容量や積載性に対する配慮の無さが気になるだろうし、本気で林道やオフロードコースを攻めたい人は、いろいろな面で不足を感じる可能性があると思う。

でもそういった要素は、トレールバイクでは珍しくないことで、このモデル特有の欠点ではないのだ。それどころか、カワサキはいろいろなライダーを想定して、前後17インチのオンロードタイヤを履くKLX250SMと、前後サスストロークが240/250mmのKLX250(Sとシェルパは200/233mm)を準備しているし、積載性の問題を解消する純正アクサリーとして2種のリアキャリアを設定しているのだから、現状のシェルパの構成にアレコレ文句を言うのは野暮ではないだろうか。

そしてシート高と舗装路でのグリップ力については、アフターマーケット市場で販売されているローダウン系アイテム/オンロード重視のタイヤを導入すれば、好みの高さ・特性を実現することが可能だし、1回の給油で200km以上は確実に走れることが周知の事実になれば(今回の平均燃費は34.1kmだったから、航続可能距離は34.1×7.6=259.16km)、ガソリンタンク容量に異論を述べる人は少なくなるに違いない。

というわけだから、万人へのオススメが難しくても、僕と同様にKLX230シェルパに好感を抱くライダーは大勢いるはずだ。何と言っても最近のトレールバイク市場に、かつてのSL230やセローを彷彿とさせるモデルは存在しなかったのだから。ただしKLX230シェルパは過去の名車を再現したモデルではなく(開発陣にそういった意識はなかったらしい)、現代のカワサキならではの主張が盛り込まれているのだが、その詳細をここから記すと文字量がとんでもないことになってしまうので、詳細は近日中に公開予定の第2回目で紹介したい。

845mmのシート高は、軽二輪トレールバイクの世界ではやや高め。今回の文章で車名が出てきた他機種の数値は、CRF250L/〈S〉:830/880mm、Vストローム250SX:835mm、セロー250:830mm、SL230:825mm。ちなみに、前後サスストロークが長いKLX230は880mmで、スーパーモタードのKLX230SMは840mm。

主要諸元

車名:KLX230シェルパ
型式:8BK-LX232A
全長×全幅×全高:2080mm×920mm×1150mm
軸間距離:1365mm
最低地上高:240mm
シート高:845mm
キャスター/トレール:24.6°/96mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:232cc
内径×行程:67.0mm×66.0mm
圧縮比:9.4
最高出力:13kW(18ps)/8000rpm
最大トルク:19N・m(1.9kgf・m)/6000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.000
 2速:2.066
 3速:1.555
 4速:1.260
 5速:1.040
 6速:0.851
1・2次減速比:2.870・3.214
フレーム形式:セミダブルクレードル(ペリメター)
懸架方式前:テレスコピック正立式φ37mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック(ニューユニトラック)
タイヤサイズ前:2.75-21
タイヤサイズ後:4.10-18
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:134kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:7.6L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:45.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス2-1:34.7km/L(1名乗車時)

キーワードで検索する

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…