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カワサキ・KLX230 SHERRPA…….638,000円(消費税10%含む)
カラーバリエーション
シェルパと言えば、1997年にデビューしたスーパーシェルパが思い出される。いわゆるオフロード系のデュアルパーパスだが、山を意識させるネーミングからも理解できる通り“トレッキングバイク”として位置付けられるモデルだった。
わかりやすく言うと、既にヒットモデルとして知られ、その後の250も含めてロングセラーモデルとして高い人気を獲得した「ヤマハ・セロー225」の対抗馬としてカワサキが投入したモデルである。
セローは2輪2足で自然の懐へ気軽にアクセスできる万能ツアラーとしての個性を魅せた。それに対してホンダはトライアル車的な高性能とその扱いやすさに優位性を持たせたSL230を投入。一方カワサキはDOHCの250ccエンジンを搭載し高速走行時の快適性に優位性を発揮。ライバル関係の中でもそれぞれに棲み分け、異なる個性を披露していたのである。
さて、今回の新型シェルパはKLX230Sがベースに開発されただけに、アグレッシブでいきいきとした雰囲気が感じられる。掲げられたコンセプトは“GET OUT AND PLAY:フロム・タウン・トゥ・トレイル”。
広報資料から引用すると、「街を爽快に駆け抜け、自然の中でトレッキングを楽しむ。KLX230 SHERPA は、そんな「自由」を思う存分堪能できるマルチアクティブギアです。」と記されていた。
開発リーダーの松下充さんに伺うと「基本はKLX230Sと共通です」と明言。
確かにスペックデータを比較すると、大きく異なっているのは全幅のみ。全高と車重に少しの違いはあるが、あとの諸元はほぼ共通のデータが並んでいる。
見た目で両車の違いを探ると、先ずはハンドルバーが全く異なる。ブリッジの無いワイドなテーパードバー式のアルミアップハンドルが採用され、左右グリップ部にはナックルガードが標準装備されている。
左右グリップの両端には振動抑制の重りを兼ねたバーエンドガードが装備され、そこから前方を頑丈なスチールプレートが回りライダーの手を保護するハンドガードを備えている。そしてもうひとつ、シェルパにはエンジン下部を保護するアルミ製スキッドプレートが装備されていた。
その他、ヘッドランプカバーからタンク及びサイドカバーの外板パーツとカラーリングが専用デザインとなり、キャラクターの異なる別のモデルに仕上げられている。ちなみにフロントのアップフェンダーやリアフェンダー、IRC製装着タイヤも同じである。
高張力鋼を使用したスチール製セミダブルクレードルフレームは、メイン角パイプのレイアウトをワイドにデザインされたペリメター構造を採用。空冷の前傾単気筒エンジンを搭載したそのスタイルは、前後長が詰まったコンパクトな仕上げが印象深い。
ちなみにホイールベースは1365mmで、1360mmだったかつてのスーパーシェルパと同等。ロードクリアランス(最低地上高)は240mmが確保された。スーパーシェルパより25mm低いが、トレイルランも考慮した万能ツアラーとしては十分。少し残念なのは、最小回転半径が初代スーパーシェルパの1.8mに対して新型シェルパは2.1mになったことだろう。
アルミ製アンダーブラケットで固定されるフロントフォークはφ37mmの正立式。ご覧の通りボトムケースはブラックアウトされたリーディングアクスルタイプ。200mmのロングストロークが確保されている。
一方リアは223mmのホイールトラベルを誇るニューユニトラックサスペンションを装備。アルミ角パイプ製スイングアームのピボット直後にモノショックがレイアウトされ、ボトム側にリンク機構を持つ。ショックはプリロード調節式だ。
前後ブレーキにはシングルディスク式を装備。いずれもペタルローターを持ちそのサイズはフロントがφ265mm、リアはφ220mm。油圧キャリパーはフロントがデュアルピストン、リアはシングルピストン式。いずれもピンスライド式で任意にオフできるABSが採用されている。
搭載エンジンは2019年10月にデビューしたKLX230から使用されてきた物の熟成版。ボア・ストロークは67×66mmのショートストロークタイプ。排気量は232cc、SOHC単気筒2バルブの空冷エンジンだ。広報資料によれば「ゆったりとしたペースでの走行と、高回転域を使った快活な走りを両立。」とある。
吸気ポートデザインが一新されて小径化。吸気バルブはφ33mm。燃料噴射のスロットルボディはφ32mm。前方からながめるとU字状に長く取り回されたエキゾーストパイプ等、特に実用域となる中低速の回転域で扱いやすいフラットな出力特性が追及された。またクランクマスも熟慮されて高速域まで快活に吹き上がる新型シェルパに相応しい出力特性が実現されたそう。
よりショートストロークで排気量が勝っていたかつてのスーパーシェルパとは異なる仕上がりのエンジンだが、果たしてどのような乗り味を発揮してくれるのだろうか。
高速クルーズも快適。
千葉県木更津市の一般公道で開催された試乗会。試乗車はほぼおろしたてのド新車。早速シートに跨がると少しシートが高過ぎないかと感じられた直後、しっかりと腰を落とすと軽量な記者の体重でもふわりとサスペンションが沈み込み足つき性は次の写真の通り。
ワイドなハンドルやアグレッシブな雰囲気を醸すフロントアップフェンダーのせいか、やや大きく見えた車体もそのスマートなデザインがしっくりと身体に馴染んでくる。
不安感を覚えない取り回しのしやすさに親しみが感じられた。250ccのフルサイズを追及せず、中間排気量に止められた戦略に改めて好印象を覚えたのである。
エンジンを始動し早速スタートすると、オフ車を街乗りで使うごく普通の感覚。この排気量で空冷エンジンなだけに、特別なハイパワーは期待していないが、低速域から不足の無いトルクが発揮されており、発進操作もスムーズ。
エンストしにくい扱いやすさも考慮されたと聞いていたが、そのせいなのかアイドリングが少し高め。通常の舗装路走行では何も問題無いが、滑りやすいオフロードで極低速走行したい場面では、ギヤ比を落としてでももう少しスローに走らせたいと思う事があるだろうなあ、という感じだった。
低速域からでもスロットルレスポンスはなかなか強力。渋滞路のノロノロ運転や登坂路、追越しなどの立ち上がり加速力は侮れない。実用上は不足を感じることのない十分なパフォーマンスが備わっていると思えた。特に中速域で魅せる柔軟な特性は扱いやすさに大きく貢献している。
また高速域まで素直に吹き上がる性格も心地よい。短時間の試乗ではツーリング時の疲労度までは計り知れなかったが、高速クルーズの安定性や音と振動面を含めた快適性は優秀な仕上がり。その部分では旧スーパーシェルパの優位性をしっかりと継承しているように感じられた。
旧スーパーシェルパよりキャスターが立てられたフロントフォークは、ワイドハンドルと相まって、操舵フィールが素直で軽快になったように感じられたものの、標準装備されたハンドガードの重さが災いし、操舵マスに重さを伴う感覚がある。もし記者が新型シェルパを購入したら、真っ先にこのハンドガードを軽量な物に換装したいと思えたのが正直なところ。
さらに言うと試乗車はステアリングヘッドを締め過ぎているような、操舵時の動きに渋さが感じられた。そのため大きく操舵する時、動きにギクシャクした違和感を覚えた。試乗車特有のものなのか、ブロックパターンの新品タイヤを含め慣らし運転で解決するものなのか、改めて試乗チェックしてみたいと思えたのが正直な感想である。
それにしてもフレンドリーな操縦性。どんな場面でも扱いやすく、気楽に乗れる点は魅力的である。サスペンションのストロークも十分に長く、凹凸の激しいダートを行くにもシッカリと衝撃を吸収してくれ、素直な操縦性も含めて快適だった。
鋭くはないが、不足の無い扱いやすい制動力とのバランスも良く、必要に応じてABSの作動をOFFすることも可能な点が親切である。
外観デザインもKLX230Sとは差別化され、そのカラーリングは少し大人びて見える。
シェルパらしい雰囲気としては、フロントフェンダーがダウンタイプでも良いのではないかと思え(個人的見解)たが、高速クルージングの快適性に秀でたスーパーシェルパのキャラクターと価値ある乗り味は、新型シェルパにもきちんと継承されていると思えた。