アグレッシブな見た目だが……、サーキット指向が強いRRやRR-Rとは別物。|ホンダCBR650R E-Clutch・1000kmガチ試乗【3/3】

快適性や親しみやすさを徹底追及したモデルかと言うと、必ずしもそうではない。とはいえ、ロングランを過不足なく楽しめるスポーツツアラーとして、CBR650Rは十分以上の資質を備えていたのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダCBR650R E-Clutch……1,188,000円

アンダーカウルは4本のエキパイを見せることを意識したデザイン。ショートテールとショートマフラーは、市場でライバルとなるスズキGSX-8Rやカワサキ・ニンジャ650、トライアンフ・デイトナ660などに通じる要素だ。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg) ★★★★☆

同じホンダのミドル並列4気筒車、スーパースポーツのCBR600RRほど戦闘的ではないものの、ライポジは安楽という雰囲気ではない。近年のスポーツツアラーの基準で考えると、ハンドルは低くて遠く、ステップはやや後方/上方。とはいえ全体のバランスはきっちり取れているから、試乗期間中に出かけた2度のロングランで、身体のどこかに痛みを感じることはなかった。

足つき性はCBR600RRより格段に良好で、身長170cm前後のライダーなら両足がベッタリ接地するようだ。なお現在のアフターマーケット市場ではCBR650R用のローダウンキットが数多く販売されていて、それらを投入すれば、足つき性がさらに良好になるだけではなく、リアの車高だけを下げれば上半身の前傾度を緩やかにできる。とはいえ、前後を下げた場合もリアだけを下げた場合も、ハンドリングは安定性が強くなるだろう。

タンデムライディング ★★★☆☆

ギアチェンジがスムーズに行えるEクラッチのおかげで、運転手の気分は楽々。ただし、タンデムライダー役の富樫カメラマン(身長172cm・体重52kg)が、内膝を使って運転手の腰の左右を挟むニーグリップは普段より妙に強かった。不思議に思って理由を聞いてみたら、以下の答えが返ってきた。「タンデムベルトは握りやすいけど、ステップ位置が高くて加減速に対する踏ん張りが利かないから、ニーグリップに頼らざるを得ないんだよ。個人的には、前席より明らかに硬い座面も気になったかな」

取り回し ★★★☆☆

近年のミドルクラスのフルカウルスポーツの基準で考えると、車重がやや重く、軸間距離がやや長く、ハンドルが低く、エンジン幅が広いので、取り回しは決してイージーではない。もっとも、一般的な成人男性が苦労するレベルではないと思う。バックミラーは適正位置にクリックが存在しないので、駐車場でいったん折り畳んだ後で元に戻す際は、その都度微調整を行う必要があった。

ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

セパハンのクランプ位置はトップブリッジ下だが、ハンドル基部は上部にオフセット。第2回目で述べたように、フェアリング+スクリーンの防風性能は万全とは言い難いものの、日本の法定速度内では十分に快適。スマホとの連携が可能で、レイアウトが3種から選択できる5インチフルカラーTFTメーターは、CBR400RやNX400などと共通。ただしCBR650R/CB650R用は、Eクラッチに特化したメニューと表示(走行中のギア段数が適正でないときは、矢印付きのギアポジションインジケーターが点滅してシフトダウン&アップを促す)が存在する。

左右スイッチ/レバー ★★★☆☆

メーターの表示内容を変更する十字キーとトラコン用オンオフボタンが備わる左スイッチボックスも、CBR400RやNX400と共通。右スイッチボックスは、昨今では珍しい薄型で、スロットルホルダーは別体式。

ブレーキレバーの基部には6段階の位置調整ダイヤルを設置。グリップラバーはホンダのロードスポーツの定番品。バーエンドにはウェイトが備わるが、加速時にハンドルに伝わる振動は意外に大きかった。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★★

最近の当記事では単気筒車と並列2気筒車を取り上げることが多かったので、乗り始めた直後はガソリンタンクに太め?という印象を抱いたものの、30分くらいで違和感は消失。富樫カメラマンの印象がいまひとつだったタンデム用はさておき、メインシートのウレタンはロングランに適した程よい硬さで、着座位置の自由度も適度に確保されている。

ステップはスポーツとツーリングの両方が楽しめる絶妙な位置で、相当に長いバンクセンサーは、今回の試乗では2回しか摺らなかった。もっともワインデイングロードをメインと考えるなら、装着位置はさらに後方/上方のほうがいいのかもしれない。

積載性 ★★★☆☆

タンデムシート裏に格納式のループ、タンデムステップブラケットにフックポイントが備わっていても、積載性はあまり考慮されていない模様。ただしタンデムシートの座面が広いので、筆者の私物であるタナックスのダブルデッキシートバッグを装着した際の安定感は良好だった(前述のフックポイントを使用するとテールカウルにキズが付くので、前側はタンデムシートに巻き付けるベルトを用いて固定)。タンデムシート下には、ETCユニットが余裕で収まるスペースが存在。

ブレーキ ★★★★☆

フロントφ310mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパー、リアφ240mmディスク+片押し1ピストンキャリパーのブレーキは、歩くようなスピードで移動しているときも、目を三角にしてワインディングを激走しているときも、非常に扱いやすかった。個人的には制動力と姿勢制御の両方で活躍してくれたリアが好感触。

サスペンション ★★★☆☆

φ41mm倒立式フロントフォークはショーワのSFF-BP(摺動抵抗の低減と軽量化を意識して、右側のみに減衰力発生機構を装備)で、同じショーワのショックユニットを用いるリアサスペンションは直押し式。峠道でスポーツライディングに没頭しているときや高速巡航時の印象は良好だったのだが、常用域では路面の凹凸吸収性がいまひとつ。調整機構は10段階のリアのプリロードのみで、ホイールトラベルはフロント122/リア125mm。

車載工具 ★★★☆☆

車載工具袋に収まっていたのは、リアショック用フックレンチ+エクステンションバー、差し替え式ドライバー、10×14mmの両口スパナ、5mmのL型六角棒レンチ、ヘルメットホルダー用ワイヤの5点(わかりづらい並べ方でスミマセン…)。充実した内容ではないけれど、リアショック用フックレンチが入っているのは良心的。

実測燃費 ★★★☆☆

インターネットで調べると、25km/ℓ前後の数値を公表するCBR650Rオーナーが少なからず存在するけれど、僕の乗り方ではそこまでの好結果は実現できなかった。指定ガソリンはレギュラーで、平均燃費から割り出せる航続可能距離は21.7×15=322.5km。なおガソリン残量が約3ℓになると、メーター内には橙色を背景とする走行可能距離が表示されるのだが、今回の試乗では給油タイミングが早かったため、その表示は1度も見ていない。

2023年型以前のタイヤがダンロップ・ロードスポーツのOEM仕様となるD214だったのに対して、2024年型はロードスポーツ2を採用。ただしダンロップ自身はロードスポーツ2の後継として、すでにアフターマーケット市場にはQ5Aを投入している。

主要諸元

車名:CBR650R E-Clutch
型式:8BL-RH17
全長×全幅×全高:2120mm×750mm×1145mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:130mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°30′/101mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:648cc
内径×行程:57.0mm×46.0mm
圧縮比:11.6
最高出力:70kW(95ps)/12000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/9500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.071
 2速:2.352
 3速:1.888
 4速:1.560
 5速:1.370
 6速:1.214
1・2次減速比:1.690・2.800
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55R17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:211kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:15L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値・定地燃費:31.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:21.5km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…