ホンダCRF250の脚長のほう、「CRF250L〈s〉」、林道メインならやはりこっちと再確認できました!

2023年モデルで仕様を一部変更し、令和2年排出ガス規制に適合したホンダ・CRF250L/〈s〉とCRF250ラリー/〈s〉。スタンダードモデルのCRF250Lに続き、今回はシート高が50mm高いCRF250L〈s〉に試乗した。この〈s〉について、2023年モデルもカラーリングはエクストリームレッドが継続となり、外観上での新旧の違いはナックルガードが標準装備になったのみ。新排ガス規制による走りへの影響はあったのか、率直なインプレッションをお伝えしたい。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・CRF250L〈s〉……621,500円(2023年1月26日発売)

シート高830mmのCRF250Lと、880mmのCRF250L〈s〉のメーカー希望小売価格は同一で、ともに前年から2万2000円アップした。ナックルガードが標準装備になったことで全幅は820mmから900mmへ。また、車重は140kgから141kgへ1kg増えている。
スタンダードモデルは2023年型で車体色がエクストリームレッドからスウィフトグレーに変更されたが、〈s〉はエクストリームレッドのままで、デカールの部品番号も変更なし。

CRF250シリーズの水冷シングルは非常に完成度が高い

このCRF250シリーズに搭載されているエンジンは、2011年に登場したロードスポーツCBR250Rに端を発する249cc水冷DOHC4バルブ単気筒だ。登場から12年が経過した今もなお、売れに売れているクルーザーのレブル250や、ネイキッドスポーツのCB250R、そして間もなく発売されるスクランブラーのCL250に搭載されるなど、ジャンルの垣根を越えて活躍している名機だ。ちなみに、車種ごとに最高出力や最大トルクは微妙に異なるほか、6段ミッションの変速比はこのCRF250シリーズのみ専用設定となっているのが興味深い(レブル250/CB250R/CL250の変速比は共通)。

実は今回のCRF250L〈s〉に試乗した直後、同じタイミングで令和2年排出ガス規制に適合したレブル250をテストしている。最高出力はCRFよりも2ps多い26psを公称するが、車重はレブルの方が30kgも重いため(結果、パワーウエイトレシオはCRFの方が10.6%小さい)、CRFほどの軽快な加速感はなし。さらに、バランサードリブンギアの仕様をレブル専用とすることで、あえてメカニカル音とパルスフィールを作り出しているのだが、特に疲労が蓄積してきた試乗の後半にはそれらがノイズにしか感じられなかった。一応フォローしておくと、試乗前半は主張が強めのエンジンに好印象を抱いていたのだが……。

このように同一設計でありながら、車種ごとの作り分けの妙に感心してしまうのがこの水冷シングルだ。CRF250L〈s〉のそれは2,000rpm付近から粘り強く、車体の軽さも相まって街中では5,000rpmまでで事足りるほど元気が良い。そして、スロットルを大きく開ければレッドゾーンの始まる10,500rpmまで気持ち良く伸び上がり、微振動やメカノイズが少ないこともあって、高回転域を多用していてもストレスを感じない。

前年モデルとの印象差については、「言及できない程度の微小なもの」というのが正直な感想だ。2021年にフルモデルチェンジした際の、優秀な動力性能やエンジンフィールは2023年モデルも大きく変わってはいない。ゆえに、規制前の年式が買えなかったからといって嘆くことはないだろう。


わずか30mm程度のストローク差が林道で本領を発揮する

CRF250Lと同〈s〉のホイールトラベル量は、前者がフロント235mm/リヤ230mmなのに対し、〈s〉は前後とも260mmとなっている。つまり〈s〉は、スタンダードモデルよりもホイールトラベル量がフロントで25mm、リヤは30mm長く、これにシートの厚みの違いが加わることで、座面高さの差が50mmとなっているのだ。

筆者の身長は175cmで、日本人男性の平均身長171.6cmよりもわずかに高いのだが、それでも〈s〉の足着き性はややつらい。とはいえ車重が141kgと軽いので、片足だけで車体を支えることは余裕だ。

ホイールトラベル量の違いとしてはわずか30mm程度だが、走ってみての印象はスタンダードモデルとは大きく異なる。〈s〉はスロットル開閉時やブレーキングで発生する車体のピッチング、そして旋回時におけるサスの伸縮量が大きいので、特に舗装路ではスタンダードモデルよりも車格が大きく感じられるのだ。デュアルパーパスならではの動きであり、これはこれで楽しいのだが、アスファルトを走ることが多い人なら、よりキビキビと走れるスタンダードモデルの方が扱いやすいと感じるだろう。

一方、林道での走りはまさに水を得た魚のごとくで、ダート走行が不慣れな筆者でも〈s〉の方が余裕を持って走れることが分かる。具体的には、大きなギャップを通過した直後など、スタンダードモデルはサスの動きが奥でグッと止まるような印象があるのに対し、〈s〉は一定の減衰力でスーッと優しく受け止めてくれ、いつまでも接地感が途切れないのだ。結果、バランスを崩しにくいので足を着かずに走り続けられてしまう。なお、何度かUターンを強いられる場面に遭遇したが、林道はたいてい傾斜が付いているので、山側に足を着くという基本さえ守れば、足着き性のネガは軽減できるはずだ。

デュアルパーパスファンのために、スタンダードモデルだけでなく〈s〉をタイプ設定してまで期待の声に応えたホンダ。新排ガス規制適合後もパフォーマンスは全く衰えておらず、林道遊びを楽しみたい方に自信を持ってお勧めできる1台だ。


ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

スタンダードモデルよりもシートのウレタンが厚く、その分だけステップとの距離が開き、さらに相対的にハンドルが低めに。より積極的にオフロードでコントロールしやすいライポジだ。
身長175cmの私で両かかとがこれだけ浮いてしまう。乗車1Gでのサスの沈み込みが大きく、地面に着いた方の足に体重を移すとシートがスーッ上がるので、ビギナーは恐く感じるかも。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…