インドから来た刺客!? スズキVストロームSX試乗記|セロー250現オーナーが買い換えを検討するほど!

2022年4月にインドで発表され、同年11月、スズキ本社(静岡県浜松市)で開催されたVストロームミーティングでは日本発売を前提とした車両が展示されるなど、軽二輪アドベンチャーの話題を総ナメにしているのが、スズキのVストロームSXだ。ベースとなっているのは、249ccの油冷シングルを搭載するジクサー250で、フロントには19インチホイールを採用。日本正式発売を前に、インド本国仕様をバイク館のメディア向け試乗会で乗ることができたので、まずはファーストインプレッションをお届けしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●バイク館イエローハット、三共自動車教習所

スズキ VストロームSX(インド仕様)……529,000円

DR-Zレーサーから続くスズキ伝統の「クチバシ」デザインをVストロームSXも踏襲。フレームはジクサー250/SF250のダイヤモンドタイプをベースに、シートレールをSX専用に刷新。ホイール径はフロント19インチ/リヤ17インチ。前後のホイールトラベル量(フロント120mmなど)はジクサーシリーズから変更はないが、セッティングを大幅に変更しているという。スイングアームの延長などにより、ホイールベースはジクサー比で95mm長い。
令和2年排出ガス規制に適合して継続販売される見込みのVストローム250。GSX250R系の248cc水冷SOHC2バルブ並列2気筒エンジンは、VストロームSXよりも2.5ps低い24psを発生。車重は189kgで、SX比で22kg重い。現行モデルの車両価格は61万3800円だ。
2020年に生産終了となったものの、未だ人気が衰えないヤマハ・セロー250。ホイール径はフロント21インチ/リヤ18インチで、ホイールトラベル量はフロント225mm/リヤ180mm。249cc空冷シングルの最高出力は最終型で20psだが、SX比で34kgも軽いことが大きなアドバンテージに。なお、最終型ファイナルエディションの車両価格は58万8500円だ。

高圧縮比&ショートストロークならではの、弾けるようなエンジンフィール

バイク館が取り扱うカラーリングはオレンジ、イエロー、ブラックの3種類だ。

2021年1月、長期在庫で余っていたセロー250のファイナルエディション(しかもツーリングセローだ)を勢いで購入し、北海道ツーリングに2度行くほど気に入っている筆者にとって、今回のVストロームSXの試乗はあまりにも酷だった。というのも、私の使い方において感じているセロー250の欠点を、ほぼ全てクリアする秀作だったからだ。

順を追って説明しよう。まずはエンジンから。VストロームSXに搭載されているのはジクサーシリーズと共通の249cc油冷シングルで、インド仕様同士のスペックが同一であることからも、ジクサーからセッティングや仕様などは変えていないと思われる。ちなみに、インド仕様のジクサー250の最高出力は26.5ps/9,300rpm、最大トルクは22.2Nm/7,300rpmで、日本仕様の26ps/9,000rpm、22Nm/7,300rpmをわずかに上回る。

スタートしてすぐに感じるのは、この油冷シングル、こんなにも張りのあるいいレスポンスを持っていたのかということ。ジクサーとは2次減速比が異なる可能性があるが(異なるとすればローギヤード化)、低回転域からの加速が力強いだけでなく、燃焼1発ごとの蹴り出し感が瑞々しいのだ。それでいて、エンジンに急かされるような雰囲気は微塵もなく、スロットルを開けた分以上の悪さは絶対にしない。トラクションコントロールは非採用だが、これだけ制御しやすければ多くのライダーは不満に感じないだろう。

一番長いストレートでスロットルを全開にしてみると、10,000rpmから始まるレッドゾーンまで真っ直ぐに伸び上がる。外連味のないエンジンフィールとも言えるが、裏を返せばどの回転域からでも扱いやすいと表現できよう。トラクション感が明瞭なので、ペースを上げて頑張っているときも、トコトコと景色を眺めながら流しているときも、エンジンに対して飽きることがない。これはロングツーリングを楽しむうえで非常に重要だと思っている。

なお、パワー感に関しては、筆者のセロー250の20psに対してSXは26.5psなので、それなりに違いを感じるかと思ったが、少なくとも今回の教習所というタイトなコースにおいては大差ではなかった。これはSXの方が34kgも重いからで、パワーウェイトレシオを計算したところ、セロー250:6.65kg/psに対してVストロームSX:6.30kg/psと、データはかなり近しかった。これに2次減速比の違い(加速重視なのか、それとも最高速重視なのか)や、車体のピッチング(傾きが大きいほどライダーは加速力が大きいと錯覚する)などが加わるので、これが一般道におけるテストであれば感じ方が変わる可能性大だ。

付け加えると、ジクサー系の油冷シングルは実燃費が抜群に優れているので、ツーリングライダーにとってこれは大きなプラス要素だろう。ちなみにセロー250は、下道を流している分には40km/ℓをオーバーするが、高速燃費がかなり悪く、キャンプ道具フル積載で100km/h巡航すると26km/ℓ付近まで低下する。ミッションが5段しかないのが不利に働いているようで、その点でも6段ミッションのSXの燃費には期待しかない。


ハードなオフ走行は苦手だが、穏やかなハンドリングはツーリング向き

波状路でのテスト。サスストロークは短いが、フロント19インチがさりげなくフォロー。

セローとの一番の違いを感じたのは車体剛性だ。セローはフレームも足回りもしなやかで接地感が高く、1,360mmというホイールベースの短さもあって、舗装された峠道では高い旋回力を発揮する。一方、このしなやかさゆえに、GPS計測で100km/h付近(メーター読みでは110km/hあたり)になるとステアリングヘッド付近が左右に揺れはじめ、真っ直ぐ走ることすら困難になる。リヤキャリアにキャンプ道具を満載するとそれが顕著になるので、リヤショックのプリロード調整で何とか対策しようとするも、ショックユニットを外さないとバネを押さえているダブルナットが回せないという実に困った設計となっているのだ。

これに対してVストロームSXは、せいぜいメーター読みで70~80km/hまでしか試せなかったが、ベースがジクサーシリーズゆえにコーナーへ進入する際のシャシー剛性感はオンロードモデルそのもの。特にフロントフォークがしっかりしており、あえてジクサーからサスストロークを伸ばさなかったことで、それが顕著になったと言えるだろう。また、リヤショックのバネレートが調整しやすいのも大きな美点だ。

なお、波状路で擬似的な悪路走破性を試してみたが、フロント19インチゆえに17インチ車よりも障害物を乗り越えやすいことを確認できた。加えてホイールベースもジクサーシリーズより95mm長いので、少々バランスを崩したとしてもフラつきにくい。前後サスの作動性はそれなりだが、フラットダートであれば十分に楽しめそうだ。

ハンドリング自体は、フロント19インチらしく大らかに旋回する特性で、身を任せられる安心感はまさにアドベンチャーモデルのそれ。MRF製の標準装着タイヤも、冷えた舗装路で十分以上にグリップしてくれ、さすがはインド最大のタイヤメーカーだと感じた。

ブレーキは前後ともオンロードでの制動力が高く、ヘッドライトはLEDなので夜間走行時の安心感はセローよりも格段に上だろう。さらに、メーターにはバーグラフ式のタコメーターや燃料計、ギヤポジションインジケーター、燃費計まで付いている。加えて、ハンドル位置が高いのでスタンディングしやすく(セローは社外品のライザーで上げても低い)、シートは座面が広いのでお尻が痛くなりにくそうだ(セローは狭いうえにウレタンが薄いのですぐに痛くなる)。

オフロードのガチ勢からすると、ジクサーと変わらないサスストロークの短さや、フロントホイールが21インチでないこと、ワイヤースポークでないこと、そして167kgという重さがマイナス要素になりそうだが、私のようなオンロードがメインの使い方においては、いずれもプラスでしかないのだ。付け加えると、併売される予定の水冷2気筒のVストローム250は、公式サイトにもカタログにもオフロードを走行しているカットが一切使われていないのに対し、SXは(今のところ海外サイトのみだが)ダート走行のカットが多数掲載されている。このことからも、ツーリング中にたまたま出くわした未舗装路ぐらいであれば十分に走破できると考えていいだろう。というわけで、私はセローからの乗り換えを前向きに検討しているのだが、バイク館ではあまりの人気でしばらく先まで入荷分が予約で埋まっているとのこと。欲しい人は今すぐにでも動いた方が吉だ。


ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

シート高は835mmで、セロー250よりも5mm高いだけだが、乗車1Gでのサスの沈み込み量が少なく、さらに座面も広いため、身長175cmの筆者で両カカトがわずかに地面から浮く。とはいえ、シングルだからといって無理に車体をスリムにしたり、ウレタンを薄くしてシート高を下げたりしていないのは好印象。ハンドルはVストローム250よりも幅が広く、スタンディングしやすい高さにあるのもいい。

ディテール解説

生産終了となったスーパースポーツ・GSX-R1000Rよりもショートストローク比(76.0×54.9mm)な249cc油冷SOHC4バルブ単気筒エンジン。圧縮比は10.7:1で、最高出力は26.5ps/9,300rpmを発生する。ミッションは6段だ。オイルクーラーのガードやアンダーカウルは未舗装路での走行を想定して金属製。ワイドなステップもSXの特徴だ。
フロントホイールは19インチで、MRF製のタイヤを標準装着。日本仕様はマキシス製になるようだ。キャリパーは前後ともバイブレ製で、デュアルチャンネルのABSを導入。フロントフォークは正立式で、ホイールトラベル量は120mmだ(リヤは記載なし)。
ダウンタイプのサイレンサーはジクサーシリーズによく似ているが、エンドカバーの形状とカラーが異なるSX専用品だ。前後ホイールは10本スポークのアルミキャスト。
サリーガードは車体側ではなくスイングアーム側にマウントされている。そのスイングアームは延長されているとのことで、具体的な数値は不明だが、ホイールベースはジクサーシリーズ比で95mm長い。
フルデジタルLCDメーターを採用。インドの本国サイトによると、スマホとの連携機能であるスズキライドコネクトを搭載しており、画面左側にターン・バイ・ターンナビの矢印を表示させることが可能という。このほか、青く点灯するUSBコンセントやスズキイージースタートシステムも採用。
リヤショックは7段階のプリロード調整が可能だ。ちなみにセロー250もダブルナット式の調整機構を持つが、公式にはショックユニットをいちいち外さないとならないので、出先でのアジャストはほぼ不可能だ。

スズキ VストロームSX(インド仕様) 主要諸元

全長 2,180mm
全幅 880mm
全高 1,355mm
軸間距離 1,440mm
最低地上高 205mm
シート高 835mm
装備重量 167kg
燃料タンク容量 12L
エンジン型式 4ストローク、単気筒、油冷
バルブシステム SOHC、4バルブ
ボア×ストローク 76.0mm×54.9mm
総排気量 249cm³
圧縮比 10.7:1
最高出力 26.5ps@9300rpm
最大トルク 22.2Nm@7300rpm
燃料供給装置 燃料噴射
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
変速機形式 6速コンスタントメッシュ
点火方式 電子点火
バッテリー メンテナンスフリー、12V 6Ah
サスペンション(前/後) テレスコピック/スイングアーム式
ブレーキ(前/後) シングルディスク/シングルディスク
タイヤサイズ(前/後) 100/90-19M/C 57S、チューブレス/140/70-17M/C 66S、チューブレス
キャスター/トレール 27°/97mm
生産国 インド

キーワードで検索する

著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一