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カワサキ・エリミネーター/SE……759,000円/858,000円
初代/2代目とは異なる狙い
1985年から展開が始まった初代がストリートドラッガー、1997~2007年の2代目がクルーザーだったのに対して、2023年から発売が始まる3代目エリミネーターは、カジュアルさとフレンドリーさを追求したバイクである。あら、初っ端から何だか歯切れの悪い表現になってしまったが、プレスリリースを読んでもコレといったキーワードは見当たらない。あえて言うなら紹介文の冒頭に記された、“新型フリースタイル・モーターサイクル”という言葉が、このモデルの素性を示すのには一番適している気がする。
もっとも、1520mmのホイールベースや30度/121mmのキャスター/トレール、735mmのシート高などを考えると、その寸法ならクルーザーじゃないかという意見がありそうだし、2017年のデビュー以来、市場で大人気を獲得しているホンダ・レブル250/500への対向意識を感じる人もいるだろう(日本ではあまりパッとしないが、500は海外で好セールスを記録している)。ただし新型エリミネーターの開発陣が重視したのは、秀逸な資質を備えるニンジャ400の並列2気筒エンジンを多くのライダーに味わってもらうことで、クルーザーを造ろうとかレブルの市場を奪おうなどという気持ちは、ほとんど無かったようである。
まあでも、ニンジャ400のエンジンを転用してカジュアル&フレンドリーなバイクを作るなら、兄貴分の900と650に続く形で、ネオクラシックスタイルのZ400RSという選択肢もあったはずだ。カワサキがそうしなかった理由は定かではないけれど、同社としてはZ-RSシリーズとは異なる、新しいスタイルが必要と感じていたのだろうし、もしかしたらZX-4Rのネイキッドバージョンとして、すでに並列4気筒のZ400RSを検討しているのかもしれない?
エンジン以外のほとんどが専用設計
前述したように新型エリミネーターは、ニンジャ400から転用した並列2気筒エンジンを搭載している。そしてスポーツバイク用のエンジンをクルーザー系に転用する場合は、低中速域重視の見直しを行うのが通例なのに、新型エリミネーターのエンジンはニンジャ400とまったく同じで、最高出力:48ps/10000rpm、最大トルク:3.8kgf-m/8000rpmというスペックも共通。と言っても排気系は専用設計で、2次減速比はローギアード化(14/41→14/43)されているのだが、あえて仕様変更を行わない姿勢には、開発陣のこのエンジンに対する自信が現れていると思う。
一方の車体関連パーツは、ほとんどすべてが専用設計。フレームは細めの高張力鋼管を用いたトリレスタイプで、エンジン後部にスイングアームマウントプレートをボルト留めする、昨今の日本車では珍しい独創的な構成を採用している。この構成の先駆車は2015年型ニンジャH2で、2020年以降のニンジャ250/400も同様の構成を導入しているけれど、新型エリミネーターのフレームは完全な別物だ。
足まわりで興味深いのは前後ホイール。車格や寸法を考えれば、既存のバルカンSが履いていたF:3.50×18/R:4.50×17の5本スポークを流用してもよさそうなものだが、新型エリミネーターはF:3.00×18/R:4.00×16の10本スポークホイールを新規開発。その主な理由はタイヤを細くするためかと思いきや、新型エリミネーターのフロントタイヤはバルカンSより1サイズ太い130mmだった(リアタイヤはバルカンSより1サイズ細い150mm)。
峠道で感じた予想外の運動性能
確かに、クルーザーではないな……。それが、新型エリミネーターを体験した僕の第一印象である。感覚的には一世代前の400ccネイキッド、カワサキで言うならゼファー/χやZRXを、やや低く、やや長くしたかのようで、誤解を恐れずに言うなら、普通のバイク?という気がする。
もちろん、だからと言って特徴がないわけではない。シートと車高が低いから安心感は抜群だし、オーソドックスな形状のバーハンドルと旧車的な位置(現代のロードスポーツの基準だと前寄り)に設置されたステップのおかげで、ライディングポジションの落ち着きもいい。また、2次減速比と排気系を変更した効果で並列2気筒エンジンの二面性が際立ったこと、低回転域で適度な鼓動が満喫できる一方で、中高回転域で180度クランクならではのシャープな吹け上がりが味わえることも、このバイクの美点だろう。
そのあたりを実感したからこそ、僕はカジュアルさとフレンドリーさを追求したバイクだと思ったのだが、ワインディングでは意外な特性を味わうことができた。ここまでに述べた数字からはイメージしづらいかもしれないが、このバイク、見た目からは想像できないほどよく曲がるのだ。
と言うより、まず安定感が十分に確保されているので車体を寝かせるのが怖くないし、18インチの前輪は乗り手を優しく導いてくれるかのような挙動を示すし、長めのホイールベースや低めのシートのおかげで、ニンジャ400やその兄弟車であるZ400よりも、フルスロットルやフルブレーキングが容易に行える。もちろん、絶対的な旋回性はニンジャ400/Z400には及ばないのだが、気軽に性能を引き出してスポーツライディングが楽しめるという意味では、新型エリミネーターは侮りがたい資質を備えているのだ。
試乗後に僕の頭に浮かんだのは、“オールラウンダー”という言葉だった。現代のバイクでオールラウンダーと言ったら、多くの人はアドベンチャーツアラーを連想しそうだが、安定感と安心感が抜群で、それでいて重ったるさを感じなくて、エンジンの守備範囲が広い新型エリミネーターは、日常の足からツーリングまで、どんな用途にも気軽に使えそうなのだ。もっともすべてがパーフェクトかと言うと、必ずしもそうではなく、個人的にはいまひとつな乗り心地と盛り上がりに欠ける排気音が気になったものの、前者は純正アクセサリーのハイシート、後者は今後登場するはずのアフターマーケット製マフラーで解消できると思う。
ライディングポジション(身長182cm 体重74kg)
ディティール
主要諸元
車名:エリミネーター
型式:8BL-EL400A
全長×全幅×全高:2250mm×785mm×1100mm
軸間距離:1520mm
最低地上高:150mm
シート高:735mm
キャスター/トレール:30°/121mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:398cc
内径×行程:70.0mm×51.8mm
圧縮比:11.5
最高出力:35kW(48PS)/10000rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
1速:2.928
2速:2.055
3速:1.619
4速:1.333
5速:1.153
6速:1.037
1・2次減速比:2.218・3.071
フレーム形式:トリレス
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:スイグアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:130/70-18
タイヤサイズ後:150/80-16
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:176kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12ℓ
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.6km/ℓ(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:25.7km/ℓ(1名乗車時)