ホンダCRF250L 1000kmガチ試乗|ノルマの1000kmをきっちりクリアしてから、<s>の美点を改めて実感‼ |2/3

初代に存在したType LDが、ローダウン仕様にありがちな居心地の悪さを感じることがあったのに対して、第二世代のスタンダードの乗り味は至ってナチュラル。とはいえ、前後サスペンションやライポジのバランスは、車高とシートが高い<s>のほうが良好なようである。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダCRF250L……621,500円(消費税込み)

<s>のフレームとスイングアームの色は、市販レーサーのCRF250Rに近づけようという意識が伺えるシルバーだが、スタンダードは都会的でクール……な気がするブラックを選択。

ガレ場やぬたぬた路を余裕で走れる

第1回目で述べたように、車高とシートが低いCRF250Lのスタンダードを舗装路がメインの撮影兼ツーリングと+日常の足として使った僕は、オフロード重視の<s>とは趣が異なる万能性に好感を抱いた。では友人E+セロー250と共に、過酷な林道ツーリングに出かけての印象はどうだったかと言うと……。

まったく問題がなかった。いや、問題がなかったという表現は適切ではない気がするけれど、友人E+セロー250に遅れを取ることなく、普段の林道ツーリングで使っている1997年型SL230と同様の感覚で、ガレ場やぬたぬた路を余裕で走れたのである。などと書くと、20年以上前の旧車と現行車を比べることに違和感を覚える人がいるかもしれないが、SL230の装備重量はCRF250Lより26kgも軽い115kg(1999年型以降は116kg)だし、僕の愛車は悪路に特化したブリヂストンのED-03/04を履いているので、林道での走破性は決して低くないのだ。そんな車両と同様の感覚で走れたのだから、やっぱりCRF250Lはスタンダードでも十分なオフロード性能を備えているのだと思う。

ちなみにもし車両が<s>だったら、スタンダードほどの余裕はなかったような気がする。何と言っても、Eが設定した今回の林道ツーリングではいつものように、狭路でのUターンや二輪二足でなくては通過できない状況に頻繁に遭遇したし、車体を傾けた際にタイヤがズリッと滑って、イン側の足で車体を支えることが少なくなかったのだから。そういった場面を振り返ると、車高とシートが高い<s>では転倒したかもしれないし、乗り降りの煩わしさを考えれば、心身の疲労はスタンダードより大きくなっただろう。

アレ、意外にシャシーが硬い……?

そんなわけで、やっぱり自分の使い方には<s>よりもスタンダードが向いている、という思いを強くした僕だが、林道ツーリングの終盤で友人Eのセロー250にチョイ乗りさせてもらったところ、アレ?という気持ちになってしまった。と言うのも、セロー250のシャシーは驚くほどしなやかだったのである。もちろんCRF250Lのシャシーだって初代と比較すれば、相当にしなやかなのだが……。

その事実を認識してからCRF250Lを走らせた僕は、初代よりしなやかでも、このモデルのシャシーはやっぱり硬めという印象を抱いた。おそらくその資質の背景には、モトクロスコースでのジャンプなど、強い衝撃への対応があるんじゃんないだろうか。とはいえ、過去に<s>に乗った際に硬さを感じず、むしろ柔軟と感じた僕は、何だか腑に落ちない気がしたので、数日後に<s>の広報車を借用し、ショートツーリングに出かけてみることにした。

スタンダードとは異なる、<s>ならではの魅力

あぁ、そういうことか……。スタンダードで約1000kmをこなした後だけに、乗り始めてしばらくは車高とシートの高さに少々戸惑ったものの、<s>で峠道と林道を走った僕は、スタンダードとは異なる特性にしみじみ感心した。

まずはシャシーの説明をすると、豊富なストロークの前後サスペンションの動きがピッチングという形で見事にバッチリ連動しているため、<s>は硬さを感じないのである。逆に言うならスタンダードは、サスペンションの動きが前後で独立しているようで、フレームの存在感が際立ち、それが硬いという印象につながっていたような気がする。

そしてシャシーに加えてもうひとつ、僕がなるほどなと思ったのはライディングポジション、と言うかシートだ。オンロード車のように座る姿勢のスタンダードに対して、座面が高くてフラットな<s>のシートは中腰的な姿勢になるので、状況に応じて前後に動きやすいうえに、スタンディングも行いやすく、車体の挙動変化がわかりやすい。だから悪路ではスタンダードより融通が利くし、速くも走れる。いずれにしても、<s>の特徴を実感した僕は、どちらが自分に向いているのかがよくわからなくなってきた。

もっとも、だからと言ってスタンダードの印象が悪くなったかと言うと、そんなことはない。僕の技量では前述したように、<s>では過酷な林道ツーリングが楽しめない可能性があるのだから。とはいえ、スタンダードが自分の趣向に合致しているのかと言うと、それもまた微妙なところ。欲を言うなら2台の中間、前後ホイールトラベルが245mm、シート高が855mmくらいのモデルが存在すると嬉しいのだけれど(スタンダードはF:235/R:230mm・830mmで、<s>は前後260mm・880mm)、それだと初代(スタンダードはF:250/R:240mm・875mm)はよかった?的な展開になってしまう。でも僕としては、二代目のキャラクター設定と差別化に、異論を唱えたくはないのだ。

で、いろいろ考えて辿り着いた結論は、<s>をベースとするちょっとローダウン仕様である。具体的には、フロントフォークの突き出し量を増やし、リアにアフターマーケット製の車高調整機能付きショックを導入して、前後の車高を15mmほど下げれば、自分の理想に近いCRF250Lが作れるんじゃないだろうか。もっともそういった手法では、どっちつかずの中途半端なキャラクターになってしまうかもしれないが、チャレンジしてみる価値はあるだろう。

80/100-21・120/80-18の前後タイヤは、オン&オフ兼用という位置づけのIRC GP-21/22。なおIRCではGP21/22とは似て非なる特性のタイヤとして、悪路走破性を重視したGP-610、オンロード指向のGP-410などを販売している。

主要諸元

車名:CRF250L
型式:8BK-MD47
全長×全幅×全高:2210mm×900mm×1165mm
軸間距離:1440mm
最低地上高:245mm
シート高:830mm
キャスター/トレール:27.5°/109mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:76.0mm×55.0mm
圧縮比:10.7
最高出力:18kW(24PS)/9000rpm
最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルフラムスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.538
 2速:2.250
 3速:1.650
 4速:1.346
 5速:1.115
 6速:0.925
1・2次減速比:2.807・2.857
フレーム形式:セミダブルクレードル
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:80/100-21
タイヤサイズ後:120/80-18
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:141kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:7.8L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:47.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス2-2:33.7km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…