スズキGSX-8R 1000kmガチ試乗2/3 安定指向の万能選手?でも峠道はメチャ楽しい‼

あんまり攻めてないんだな……。当初の僕はそう感じていた。とはいえ、ワインディングロードでのGSX-8Rは水を得た魚で、ゆったりした乗車姿勢や穏やかなディメンションからは想像しづらい、抜群の運動性を披露してくれたのである。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキGSX-8R……1,144,000円

純正指定タイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。ツアラーとして性能を追求するなら、ダンロップの場合はロードスマートⅣが最適なのだが、そうしないところに開発陣のこだわりが表れているように思う。

仮想敵とは似て非なるキャラクター

第1回目で記したように、GSX-8Rはスポーツツアラーである。とはいえ、日常の足+約400kmのプライベートツーリングの後に、撮影を兼ねたロングランで約500kmを走った僕は、その表現が誤解を招くような気がしてきた。と言うのも、スポーツツアラーという言葉からどんなキャラクターをイメージするかは各人各様で、個人的にはどんな用途にも使える万能車なのだが、世の中には中途半端や鈍重などというイメージを抱く人がいるかもしれない。でもワインディングロードにおけるGSX-8Rは、実にスポーティでムチャクチャ楽しかったのだ。

なお試乗中の僕が脳内で比較していたのは、270度位相クランクのパラレルツインエンジンという共通点があって、おそらく、GSX-8Rの開発陣が仮想敵の1台として設定したヤマハYZF-R7だった。そして第1回目を読んだ人は薄々気づいているかもしれないが、ネイキッドのMT-07をベースにして車体を中心とする改革を行い、スーパースポーツとして生まれ変わったYZF-R7が僕は大好きで、スパルタンな乗車姿勢や現代ならではの電子デバイスにあえて背を向けた姿勢には漢気を感じていた。

2022年からヤマハが発売を開始したYZF-R7は、MT-07をベースとするスーパースポーツ。車重はGSX-8Rより17kgも軽い188kg。

その一方で、ライディングポジションがゆったりしていて、エンジン特性切り替えモードやアップ&ダウン対応型クイックシフター、トラクションコントロールなどを採用するGSX-8Rに対して、レーサーレプリカ時代をリアルタイムで体験した昭和生まれのオッサンライダーとしては、何となく親近感を抱けなかったのだが……。

妙な緊張を感じることなく、走りに没頭できる

GSX-8Rで走るワインディングロードは、YZF-R7とは違った意味で楽しかったのである。まず高めのハンドルのおかげで上半身が起きているから、周囲の状況を遠くまで見渡せるし、排気量に余裕があるエンジンは低中回転域から十分なトルクを発揮してくれるので、高回転域まで回さなくても十分な加速が得られる。そしてコーナー進入時と立ち上がりでは、クイックシフターとトラクションコントロールのありがたさを改めて実感。いずれにしてもGSX-8Rに乗っていると、妙な緊張を感じることなく、安心してスポーツライディングに没頭できるのだ。

もっとも、YZF-R7のようにギュイン‼と表現したくなるほどシャープな旋回ができるのかと言うと、それはなかなか難しい。何と言ってもハンドリングを左右するキャスター角/トレール/ホイールベース/シート高は、同価格帯のミドルクラスの中でも安定性重視の姿勢が伺える、25度/104mm/1465mm/810mmである(YZF-R7は23度40分/90mm/1395mm/835mm)。だからサーキットで誰かと勝負する、あるいは、タイムを削るとなったら、GSX-8Rには何らかの不満を感じるだろう。

でも一寸先は闇の公道では、安定性重視のディメンションが有効な武器になる。中でも旋回初期の安心感は特筆モノで、穏やかなキャスター角と多めのトレールのおかげで、車体を傾けた際にフロントまわりに発生する舵角には優しさが感じられるし、長めのホイールベース、と言うか、長めのスイングアームは、程よい塩梅で車体を後方から引っ張るかのような安定感を披露してくれる。いずれにしてもGSX-8Rの乗り味は、躊躇や逡巡とは無縁で、見方によってはYZF-R7を含めた他のスーパースポーツよりも、思い切ったライディグが楽しめるのだ。

まあでも、今現在の僕がYZF-R7とGSX-8Rのどちらに魅力を感じているのかと言うと、やっぱり昭和生まれのオッサンとしてはYZF-R7の肩を持ちたい。その主な理由はストイックでシンプルで、キャラクターが明快なことだが、バランサーが1軸式のエンジンが適度なワイルドさを感じさせてくれることも、僕がYZF-R7に好感を抱く一因である。ただし、守備範囲が広くてどんな場面でも安心感が抜群で、2軸式バランサーの効果で実直なエンジン特性を獲得しているGSX-8Rのほうが、不特定多数のライダーにはオススメしやすい……ように思う。

スズキならではの前後サスペンション

ここからはちょっと長めの余談で、今回の試乗を通して僕は、スーパースポーツやリッタークラスのアドベンチャーツアラーのように、膨大なコストをかけられない車両に関する、スズキの前後サスペンションの設定の上手さに改めて感心した。いや、この表現だと褒めているのか非難しているのか、不思議な印象を持たれそうな気がするけれど、そもそもの話をするなら、近年のミドル以下のベーシック系モデルでワインディングロードやサーキットをムキになって走ると、意外な姿勢変化に戸惑ったり、いざという時にダンパー不足を感じたりと、前後サスペンションに何らかの違和感を抱くことが珍しくないのである(目的意識がハッキリしたYZF-R7は除く)。

もちろんスズキの前後サスペンションも、すべてにおいてパーフェクトではないものの、ライダーがソノ気になって飛ばしたときに、同社のベーシック系モデルは裏切らないのだ。それはGSX-8Rに限った話ではなく、兄弟車のGSX-8SやSV650シリーズ、GSX250Rやジクサー250/SF250などにも言えることで、スズキの技術者とテストライダーはどんなモデルを開発するときでも、ここぞ‼という場面での信頼性を重視しているのだと思う。

その結果として、車両によっては微妙な硬さを感じることがあるのだが、コストという面で厳しい制約があろうとも、スポーツライディング中の信頼感を大切にするスズキの姿勢に、僕としては好感触を抱いているのだ。

エンジン特性を変更するライディグモードは、A:アクティブ、B:ベーシック、C:コンフォートの3種。いずれのモードもしっかり作り込まれていて、今回の試乗ではBをメインにしつつ、見通しのいい峠道ではA、雨天走行時とロングランの帰路ではCを使用した。

主要諸元

車名:GSX-8R
型式:8BL-EM1AA
全長×全幅×全高:2115mm×770mm×1135mm
軸間距離:1465mm
最低地上高:145mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/104mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:775cc
内径×行程:84.0mm×70.0mm
圧縮比:12.8
最高出力:59kW(80ps)/8500rpm
最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.071
 2速:2.200
 3速:1.700
 4速:1.416
 5速:1.230
 6速:1.107
1・2次減速比:1.675・2.764
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:205kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:23.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…