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MVアグスタ・ドラッグスター800RR SCS……2,574,000円
ドラッグスターと言えばヤマハのクルーザーシリーズを思い浮かべる人が多いと思われるが、ヤマハがDragStarなのに対し、MVアグスタはDRADSTERとスペルが異なる。なお、標準仕様のドラッグスター800RRは2,442,000円だ。
非常に珍しい逆回転クランク採用の798cc水冷並列3気筒エンジンを、ALS鋼管トレリスフレームに搭載するプレミアムネイキッドがブルターレ800RR。その派生モデルに位置付けられるのがドラッグスター800RRだ。タンクやシュラウドなど主要な外装パーツは両モデルに共通するが、シートレールを含むテールデザインやハンドルバー、バックミラー、フロントフェンダーなどが異なっている。さらに、リヤタイヤがブルターレ800RRの180/55ZR17に対し、2サイズもワイドな200/50ZR17を採用。付け加えると、ドラッグスター800にはいくつかのバリエーションモデルが存在するが、今回試乗した800RR SCS(標準仕様の800RRを含む)は前後ともチューブレスのワイヤースポークホイールを選択しているのが特徴だ。
まずはSCSについて簡単に説明しよう。マニュアルミッション車でありながらクラッチレバーの操作を不要とする機構としては、ホンダのDCT(デュアルクラッチトランスミッション)や、ヤマハのYCC-S(ヤマハチップコントロールドシフトシステム)などが挙げられる。これらに対して、MVアグスタはアメリカのアフターパーツメーカー、リクルス社のシンプルなオートクラッチキットを採用する。クラッチ機構そのものは一般的なMT車と同様で、フリクションディスクの1枚が遠心力によって拡幅するEXPディスクとなっているのが最大の特徴だ。
このアフターパーツを組み込むにあたり、MVアグスタはECUのセッティングを入念に最適化。さらに従来からあるオートシフター(EAS 2.1アシストギヤチェンジパワーシフターシステム)を組み合わせることで、発進時から走行中、そして停止に至るまで左手の操作を不要としたのだ。そして、DCTやYCC-Sと決定的に異なるのは、クラッチレバーが存在すること。高回転域でミートするなど必要に応じて操作できるため、ライダーの楽しみを全て奪わないあたりにMVアグスタの哲学が見え隠れする。
798ccから140hp(141.9ps)/12,300rpmを発揮する水冷並列3気筒エンジンは、ヤマハやトライアンフの直3とは全く趣きを異にする。最高出力はヤマハのMT-09が845ccで116ps/11,000rpm、トライアンフのストリートトリプルRSは765ccで123ps/11,750rpmであることから、同じ直3でもドラッグスター800RR SCSがいかに高回転高出力型かが分かるだろう。
ライディングモードはスロットルレスポンスの良い順にスポーツ、ノーマル、レインとなり、このほかにトラクションコントロールやABSの介入度を任意に設定できるカスタムを用意する。まずはエンジンを始動し、クラッチを握らずにローへシフトすると、まるで4輪のAT車のようなクリープ現象が発生する。SCS特有のものであり、ブレーキをしっかり作動させておく必要がある。そこからブレーキをリリースし、スロットルをゆっくりと開けると、驚くほどスムーズに発進する。完全にクラッチミートするのは2,000rpm付近だろうか。スタートはもちろん、Uターンのような小回りの際でもギクシャクしたりエンストするような気配は皆無。このイージーさには正直驚いた。
エンジン自体のフィーリングも実に良い。6,000rpm付近を境にパワーフィールとエキゾーストノートが、まるで全盛期の2ストレーサーレプリカのように切り替わり、特に排気音はレーシングサウンドと表現できるほどに官能的だ。1速なら60km/h前後であり、それ以下の回転域では粒立った鼓動感が楽しめる。ちなみに、最高出力や最大トルクなど同スペックのエンジンを搭載するブルターレ800RRでクローズドコースを走ったことがあるのだが、10,000rpmを超えてからさらに盛り上がる加速感とサウンドは鳥肌モノだ。
そして、オートシフターのセッティングも素晴らしい。2,000~3,000rpmあたりでポンポンとシフトアップしてもスムーズにつながり、ライダーがクラッチレバーでサポートしたくなるような症状は皆無。SCSとオートシフターのタッグは最強と言っていい。
そして、エンジンと同等かそれ以上に感心したのがハンドリングだ。ドラッグレースをイメージしたモデルなのでそれを想起させる車名とし、リヤタイヤも極太サイズをチョイスしているのだが、とにかくフロントからの回頭性はスーパースポーツ顔負けだ。スロットルのオンオフやブレーキングで発生する車体のスムーズなピッチングと、それによって伝わるマスの集中感は、バランスのいいエンデューロマシンやモタード車のそれに近く、全てがライダーの手の内にあるような感覚を抱くほど。極太タイヤにありがちなロール方向の粘りや重さもほぼ感じられず、また旋回中にギャップを拾ってもステアリングダンパーのおかげですぐに収束してくれる。絞り角の少ないハンドルは、おそらく自然とフロント荷重を増やすための工夫だろう。ブレーキは前後ともコントローラブルで、ここにも官能的なフィーリングがある。
リクルス社のオートクラッチキットは、エンデューロモデル用で約14万円。ドラッグスター800RR SCSはこれを最初から組み込んでいるほか、ECUも合わせて最適化。さらに、ギヤを入れた状態でも押し引きできてしまうことから、パーキングブレーキに相当するシステムまで導入している。そう考えると、標準仕様との差額13万2000円はほぼ原価と言っても良く、ドラッグスター800RRを買うなら積極的にSCSをお薦めしたい。
ドラッグスター800RR SCS 主要諸元
エンジン形式:4ストローク DOHC 12バルブ 3気筒 12バルブ 総排気量:798cc 圧縮比:13.3:1 始動方法:エレクトリック ボア×ストローク:79.0mm×54.3mm 最高出力:103kW(140hp)/12,300rpm 最大トルク:87Nm(8.87kgm)/10,100rpm エンジンマネージメント: MVICS イグニッションシステム(MOTOR & VEHICLE INTEGRATED CONTROL SYSTEM) 4モード(ノーマル・スポーツ・レイン・カスタム) 8段階調節トラクションコントロールシステム EAS(クイックシフター アップ・ダウン) ミッション:6速 クラッチ:湿式多板クラッチ 全長×全幅:2,035mm×935mm ホイールベース:1,400mm シート高:845mm 最低地上高:135mm タンク容量:16.5L 車両重量:168kg(乾燥重量) フレーム:スチールパイプ ・トレリスフレーム スイングアーム:アルミニウム ・シングルサイドスイングアーム フロントサスペンション:MARZOCCHI φ43mm 倒立フォーク リヤサスペンション:プログレッシブ シングルショック ブレーキキャリパー(前/後):brembo 4ピストン ラジアルマウント/brembo 2ピストン ブレーキディスク(前/後):φ320mmフローティング ダブル/φ220mmシングル ホイール(前/後):スポーク3.50″×17″ /6.00″×17″ タイヤ(前/後):120/70-17 / 200/50-17