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小さなオシャレ番長 XSR125
日本橋から京都をめざし、ガス欠するまで走り続ける東海道ガス欠チャレンジも、これで7回目だ。いつものようにトリップメーターをリセットし、すっかり見飽きた日本橋のたもとを走り出した。
都内の道ばたでバイク撮影に熱をあげていると、通行人に声をかけられた。インターネットでXSR125の情報を拾ったが実車を見たことがなく、ずっと気になっていたという。押し出しのきいたボディサイズとデザインが目をひくのか、その後も行く先々でしょっちゅう声をかけられた。
クラスを超えた衝撃クオリティ
たいていの125クラスには、そのサイズ感から、どこかにオモチャっぽさがにじむものだし、そこが可愛いところだとも思っていたが、このクラスで、ここまで本気でデザインを作り込んできたのは驚きだ。欧州の名だたる大型車にすら肩を並べて恥じるところのない、きわめて優れたプロダクトデザインだ。
デザインだけでなく走りもイイ。が、最初の出会いはそれほど好印象ではなかった。だだっ広いコースで数分試走して「なんやコレ、あんまパワーないやん」とか思ってすぐ突っ返してしまったからだ。
だがそれは、哀れなライダーの哀れな早とちりにすぎない。昔ながらの125になじんだバイク乗りは、このクラスのマシンにまたがると脊髄反射的にいきなりブン回してクラッチミートし、バンバン回しまくって中高速域だけで走ることが多い。でも、そういうガサツな乗り方だと、コイツの味はわからない。ていねいに乗りさえすれば、XSR125のエンジンは、ガツンとパワーが盛り上がるタイプじゃないだけで、じつはおそろしく緻密に作り込まれていることがわかる。
XSR125の動力性能に文句をつける人は、ほとんどいないだろう。その気になれば、ガツンとフロントを振り上げて発進するだけの瞬発力があるし、タカハシの脳内計測では、0→60km/h加速は5秒台前半から中盤くらい。市街地でも四輪に巻き込まれず、ゆとりをもって流れをリードできるタフなエンジンだ。
エンジンは、下から上までなめらかに回る……なんて、今時どこのインプレにでも書いてありそうな感想だが、XSR125のエンジンは、下から上までなめらかに、ただし一本調子じゃなくドラマティックに回るところに独特の旨味がある。
中速域までのエンジン音はジェントルで、振動も少ない優等生だ。なのに(たぶんVVAのせいで)体感8000rpmあたりからは、突如「ダダダダダ!」みたいな野蛮な音に変わる。そして、この音のおかげでめちゃくちゃ気分が上がる。回したからって劇的に出力が上がるわけでもないが、少なくとも劇的に気分が上がる。もともと何をどう頑張っても、ライダーの首をへし折る怪物パワーとかは出せない125クラスだからこそ、このエンジンフィールとサウンドのチューニングは秀逸そのもの。さすがはもともとピアノ会社の連中、バイクの音をここまで作り込むかと感心させられるイキな演出だ。
転生したら茅ヶ崎にいた件
大渋滞の都心を抜けて神奈川へ。道ばたで買い食いしてサボっているとき、ふと気が遠くなり、意識を取り戻したときには、すでに陽の傾いた湘南に転生していた。
湘南、わけても茅ヶ崎あたりは、ハンパない異世界感に満ちている。現実には見たことすらない超高級外車や、オシャレにこだわりすぎるあまり大脳皮質がどうかしちゃった系人物が亡霊のごとくウジャウジャさまよい歩いているのだ。
最近のマンガには、ビデオゲームっぽい世界を舞台にした「異世界モノ」というジャンルがあり、作中には剣士だの魔女だの勇者だの、現実には見たことすらないヤラれちゃった系人物がウジャウジャさまよい歩いている。読むたび「キショ!」と叫びたくなるが、茅ヶ崎の地はマンガより格段にリアルな異世界だ。訪れるたび「めっっっちゃキショ!!!!」と叫びたくなる。
ぶれぶれフューエルメーター
胸クソわるい茅ヶ崎をあとに、西へと走り出した直後、フューエルメーターの目盛りがまた減った……のなら記事が書きやすいのだが、じつはここまでの間にも、目盛りがあっちに行ったりこっちに来たりフラフラしっぱなしだった。ワンタンクの航続距離が長いバイクほどフューエルメーターがフラつく傾向があるのは、経験的にわかっていたが、ここまで極端に表示がフラつくとさすがに戸惑う。
くだらないガス欠旅でもやらないかぎり、フューエルメーターなんて計器に精度を求める奴はいないから、いちいち苦情を持ち込むにはあたらないが、実際そのアホなガス欠旅をやらかしている本人にだけは、なかなか厄介な不安定さだ。信用ならないメーターなので、表示が変わったと思っても、しばらく待ってフラつきがおさまるタイミングを見定めてから記録をとるしかない。だから今回のガスの減り加減記録については、あくまでざっくりした目安にすぎないと考えてもらいたい。
すっかり日暮れた海岸沿いをまず西へ、平塚市内から海を離れて北上を始めた。東海道から10km以上も離れた伊勢原市内でかろうじて宿を確保できたからだ。金に糸目をつけないなら、インバウンド客にまみれた昨今でも、箱根の高級旅館あたりには空き部屋があったろう。だがタカハシ風情がそんなとこに泊まったら瞬時にクビが飛ぶ。少し遠いぶん安直な宿に転がり込み、コンビニ飯を掻きこんでソッコーで眠った。