目次
雨の箱根へ
目をさましたのは東海道からだいぶ外れた伊勢原市内だ。コロナのバカ騒ぎが終わってインバウンド客が増えてから、安上がりな東海道沿いの宿は激減した。旅館業の儲けにさほど貢献しない低予算AFOライダー・タカハシが遠い町に追いやられたとしても、それが社会情勢というものだから無理もない。
まずは国道256号を西に進み、秦野市から海沿いの国道1号へ南下、約15kmのムダ足をふんで東海道に戻った。西へ進んで小田原へ。小田原城は遅い桜と花見客にまみれて華やいでいた。
ガチガチの雨装備で走り出したものの、雨は強くなく、時おり晴れ間も覗いている。とはいえ山の天気は不安定だ。箱根でいきなりドシャられると面倒だから、雨装備のままで国道1号をたどる。一気に走り抜ければ、小田原から芦ノ湖までは、あっという間だ。
XSR125は、細かいセッティングやライディングポジションはアレンジされているものの、兄弟車のMT125あたりとだいたい同じ仕様で作られている。が、トラクションコントロールを装備していない点は大きな違いだ。
つまり不用意にスロットルをガバ開けすれば、滑る路面でとっちらかる可能性だってゼロではないが、道交法でガチガチに縛り付けられた公道でそこまで飛ばしまくるのは、ヘルメット内に格納された臓器がだいぶイカれた奴くらいだろう。そもそも125クラスの4ストエンジンなら、多少スロットルワークが雑になっても、恐怖の激トルクが発生する心配はない。行儀よくおとなしく、可愛いイイ子で公道を走ってるぶんには、ABSとは違い、トラコンは(あっても別にいいけど)とくに必須の機能というほどでもない。路面はフルウエットでも「安全運転のためなら死んでもいい」という不退転の決意で日々運転に励んでいるタカハシならば、ぜんぜん普通にワインディングを楽しめた。
せっかくなので、箱根関所で記念撮影。未熟なカメラマンなら、こんなものは一文の価値もないクソ平凡なクソ写真だと切り捨てることだろう。だが、じつは観光記念写真としては、たいへんよくできた名作だ。アマチュアカメラマン諸君がツーリング先で写真を撮るときには、タカハシ直伝の、この秘技をぜひ参考にしてほしい。そのポイントは、できるだけデカデカ場所の名を写し込むことだ。どこで何を撮ったか一目瞭然なので、あとで見たとき何の写真かわからないという残念な事態だけは避けられる。
箱根旧街道は今も激坂
芦ノ湖を後にして、西の三島市へと向かった。空模様はゆらゆらと行き来して、日が差したかと思うとまた曇り、ときには冷たいものがぱらつく。箱根を降りる前にちょっと寄り道して「こわめし坂」に立ち寄ることにした。箱根旧東海道の中でも、とりわけ激坂として名高いセクションだ。
こわめし坂は、漢字では「強飯」坂と書く。ふつうの炊飯ではなく、蒸して作った硬いごはんをいう。一説には、この坂があまりにもキツかったため、登ってゆく旅人が背中に担いでいた米が、汗と熱でこわめしになったというのが、地名の由来だともいう。
雨上がりの駿河湾めぐり
沼津市をこえたあたりで、フューエルメーターを撮影。いちおうここで残りは3目盛りとなった。
早くも日暮れが迫り、太陽が黄色くなってくる。のんびりしてはいられない。手持ちのパンをひとつ、ペットボトルの水で胃に流し込んで昼メシがわりにすると、西を目指してまたスロットルを開いた。
富士由比バイパスで駿河湾をぐるりとまわる。混雑する静岡市街を避けて南にそれると、国道150号でさらに西へ。すっかり陽が落ちてから藤枝市の宿にたどりついた。
宿のパーキングにバイクを停めようと車体を傾けると、それまで残2目盛り表示だったフューエルメーターが、いきなりガス欠寸前のピコピコ点滅でアラートを発し始めた。それはいいとして、トリップメーターまで0kmになったのには驚いた。
これは、ピコピコが始まるとトリップメータが自動的に「TRIP F」モードに切り替わり、ピコピコ地点からの走行距離をカウントしてライダーに給油を促す親切機能だ。でもこれ、なんぼなんでもちょっとピコピコアラートが早すぎないか? まだめっちゃガス残ってるのに。もうちょっとフューエルメーターの精度を上げたほうがいいような気もするが、これもガソリンが減ったらすぐガソスタに駆け込めばすむ普通のライダーにとっては、まあどうだっていいことなのだろう。