1990年代のスズキ名車5選|世界最速メガスポーツから250ccメットイン・スポーツまで!

いつの時代もさまざまな個性的なバイクを生み出してきたスズキ。1990年代も、市販車最速の伝説を作った初代「ハヤブサ」を筆頭に、メットイン・スペースを持つフルカウルスポーツの「アクロス」、名車「GSX1100S1100カタナ」を忠実に再現した250cc版の「GSX250Sカタナ」など、今でも語り継がれる多くの名車を生み出した。
ここでは、そんな1990年代のスズキ名車5台をピックアップして紹介しよう。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●スズキ、本田技研工業

世界最速の伝説を生んだ元祖GSX1300Rハヤブサ(1999年)

長年に渡り世界中で大きな支持を受けているのがハヤブサ。その伝説を生み出したのが、1999年に登場した初代「GSX1300Rハヤブサ」だ。

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初代「GSX1300Rハヤブサ」(1999年)

「Ultimate Sport(究極のスポーツバイク)」というコンセプトで開発された1300ccのスポーツモデルがハヤブサ。

1998年にドイツの国際見本市「インターモト」で発表され、翌年1999年に発売されたのが初代モデルだ。当時は輸出専用車で、現行モデルは「ハヤブサ」と改名されているが、初代の正式名称は「GSX1300Rハヤブサ」だった(2代目も同様)。

この頃の大排気量バイクは、各メーカー間における最高速競争が過熱していた時代。カワサキの「ZZ-R1100」やホンダの「CBR1100XXスーパーブラックバード」など、いずれも最高速度300km/hを謳ったモデルが人気を博していた。

そんな中に登場したハヤブサは、個性的で空力特性にも優れたフォルムと、最高出力175psを発揮する排気量1298cc・直列4気筒エンジンを搭載。完全ストック状態の市販量産車で初めて実測300km/h以上をマークしたことで大きな話題を呼び、「メガスポーツ」というジャンルを作り上げた伝説のマシンだ。

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GSX1300Rハヤブサのサイドビュー

その後、2007年に登場した2代目(2008年モデル)では、スタイルを変更したほか、排気量を1340ccへ拡大。最高出力も145kW(197PS)にパワーアップし、動力性能を向上させた。

さらに、2014年には、国内仕様車が正式発売され、日本でもハヤブサ・ファンが増加。北米などでは、ハヤブサを「Busa(ブサ)」という愛称で呼んでいたこともあり、オーナーたちは「ブサ乗り」などと呼ばれるようになった。

そして、2021年には約13年ぶりにフルモデルチェンジを受け、エンジンや車体を全面改良、電子制御も数多く取り入れた3代目が登場。

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現行モデルの3代目ハヤブサ

先代と同様の1340cc・直列4気筒エンジンは、最高出力こそ138kW(188PS)とややダウンしたが、車体の空力特性を向上させたことで高速性能を維持。また、最新の電子制御システム「S.I.R.S.(スズキインテリジェントライドシステム)」などの搭載により、街乗りからツーリング、サーキットまで、さまざまな走行シーンやユーザーの好み、スキルなどに対応できる懐の深いモデルとなっている。

初登場から20年以上経った今でも、スズキのフラッグシップとして君臨するのが、ハヤブサ。その魅力は、これからも世界中のバイクファンを虜(とりこ)にし続けるだろう。

250クラス初のメットイン・スペースを採用したアクロス(1990年)

メットイン・スペースといえば、今ではスクーターのシート下にあるラゲッジが代表的。出先の駐車時などにヘルメットを収納できるし、走行中はほかの荷物を入れられるなどで、とても便利な装備だが、そんな機能を250ccのフルカウルスポーツに投入したのが、1990年に登場した「アクロス」だ。

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アクロス(1990年)

通常の燃料タンクとなる位置に、メットイン・スペースを採用したのがこのモデル。スズキが「パーソナルスペース」と呼んだそのスペースは、大容量の25Lを確保し、フルフェイスのヘルメットを収納することも可能だった。

また、駐車時などに、ヘルメットを入れたままバイクを離れても安心なように、電磁式のロック機能も装備。開閉の操作は手元のメインスイッチで簡単にできることで、高い利便性も誇っていた。

外観は、空気抵抗を考慮した滑らかなフルカバード・ボディで、エンジンは248ccの水冷4ストローク直列4気筒を搭載。最高出力45PSを発揮するエンジンは、中・低速域での使いやすさに重点を置くことで市街地走行にも配慮。メットイン・スペースと相まって、街乗りやツーリング先などで、乗りやすく、使い勝手もいいバイクとして一定の評価を受けた。

ちなみに、アクロスが登場した翌年の1991年には、ホンダが、50ccのフルカウルスポーツ「NS-1」に、やはりメットイン・スペースを採用。こちらも、従来の燃料タンク部分に24Lの収納スペースを装備しており、ヘルメットを入れることが可能だった。

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ホンダ・NS-1(1991年)

現在、こうしたメットイン機能を持つ国産スポーツモデルはホンダ・NC750Xのみ。おそらく、あまり市場のニーズがなかったのだろう。通勤や通学、近所の買い物などに使うスクーターと違い、スポーツバイクは、走りそのものやバイク旅を楽しむなど、趣味性が強い。メットイン機能という実用性の高い装備よりも、ユーザーはスポーツモデルにほかの付加価値を求めたことが、続かなかった要因かもしれない。

だが、例えば、最近人気のキャンプツーリングなどで、荷物を満載にしたバイクもよく見かける。そうしたバイクのユーザーは、積載性の高さも重要。そう考えると、最新のツアラーモデルなどに、こうした機能を持たせるのも面白いかもしれない。

中免ユーザー向けのミニ版GSX250Sカタナ(1991年)

1981年にデビューし、「日本刀をイメージ」したシャープで個性的なフォルムなどで一斉を風靡した「GSX1100Sカタナ」。そのデザインコンセプトを忠実に再現し、「KATANA」スタイルを見事に具現化した250ccモデルが「GSX250Sカタナ」だ。

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GSX250Sカタナ(1991年)

1991年に登場したこのモデルは、ネイキッドモデル「バンディット250」をベースに、新設計した軽量・高性能な248cc・水冷4ストローク4気筒エンジンを搭載。

最高出力40PSを発揮するパワーユニットは、低・中速を重視したセッティングとし、市街地などでの乗りやすさも確保していた。

また、水冷エンジンに空冷式のような冷却用のフィンを設けるなど、造形的な美しさも配慮。排気効率の高い4into1マフラー、リザーバータンク付きリヤサスペンション、前輪310mm+後輪250mmの大径ディスクブレーキなども装備し、250cc版ながら、本格的な装備も魅力だった。

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GSX1100Sカタナ(写真は2000年モデル)

このモデルが登場した背景には、当時の2輪免許制度も大きかったのだろう。今のように、自動車教習所では所得できず、運転免許試験場で一発試験を受けなければならなかった(教習所で取得可能になったのは1995年から)。

しかも、400cc超のバイクに乗るには、いわゆる限定解除の自動二輪免許(今の大型二輪免許)が必要だったが、これにパスするのは超難関。多くの若いライダーたちは、比較的取得が簡単な、400ccのバイクまで乗れる中型限定二輪免許(いわゆる中免、今の普通二輪免許)を所得していた。

つまり、250cc版カタナは、GSX1100Sカタナに憬れを持つ中免ライダーがターゲットだったといえる。なお、スズキは、1992年に、400cc版の「GSX400Sカタナ」もリリース。53PSを発揮する399cc・水冷4ストローク4気筒を搭載し、250cc版と同様に、まさにKATANAスタイルを再現。両モデル共に、中免で手軽に乗れるカタナとして、セールス的にも一定の成功を収めた。

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GSX400Sカタナ(1992年)

コーナー最速の単気筒ネイキッド! グース350(1991年)

1960年代のカフェレーサー的なスリムで軽量な車体と、高回転まで回る348cc・油冷4ストローク単気筒エンジンなどにより、かつてコーナー最速の異名を持ったマシンが、1991年に登場した「グース350」だ。

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グース350(1991年)

車名は、1907年から続くイギリス伝統の公道レース「マン島TT」が由来。コース内にある「グースネック(Gooseneck)」と呼ばれるヘアピンコーナーの名前から取ったという。そして、その車名の由来からも分かる通り、このモデルは、コーナーでバツグンな操作性が話題となり、一斉を風靡した。

高剛性の鋼管ダイヤモンドフレームで構成したスリムな車体は、往年のシングルレーサーを彷彿とさせるもの。また、足まわりには、前輪に倒立フロントフォークを採用するなどで、本格的な走りを実現。

加えて、348cc・油冷4サイクル単気筒エンジンは、レッドゾーンを10000回転とし、単気筒としてはかなりの高回転まで回る設定に。最高出力こそ33PSと、当時人気だった250cc・2ストレプリカの40PSに及ばなかったものの、低回転から高回転まで充分なトルクを発生し、扱いやすさも抜群。乾燥重量145kgという軽量な車体と相まって、コーナーでレプリカマシンを抜き去るほどの軽快なハンドリングを実現していた。

ちなみに、グース350が登場した1991年はレプリカバイク全盛期。WGP(現在のMotoGP)で活躍した250cc・2ストローク2気筒マシンや、耐久レースに出場した400cc・4ストローク4気筒のマシンなど、レーサー風のフルカウルモデルに人気が集中していた時代だ。

スズキでも、「RGV250Γ(ガンマ)」や「GSX-R400」という高性能レプリカバイクを発売。ライバルであるホンダ、ヤマハ、カワサキと性能・販売台数を競い合っていたが、そんな中に登場したのがグース350だ。

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RGV250Γ(写真は1988年モデル)

シンプルなネイキッドモデルながら、コーナーの旋回性能では、レーサーレプリカを凌ぐほど軽快。その俊敏な走りは、まさにコーナリング好きの玄人ライダーを惹きつけ、絶大なファンを獲得したほどだ。ワインディングはもちろん、サーキットのスポーツ走行やレースなど、モータースポーツのシーンでも大活躍したマシンだといえる。

なお、スズキは、1992年に、250cc版の「グース250」も発売。こちらは、最高出力30PSを発揮する249cc・油冷4ストローク単気筒を搭載。高回転まで回るエンジン特性や軽快な走りは兄貴分のグース350譲りだった。車検のない250ccモデルであることもあり、こちらも好評なセールスを記録した。

その走りもさることながら、現在のネオクラシックにも通じるスタイルは、今でも古くささを感じさせないことも魅力。個人的には、ぜひ復活して欲しいモデルの1台だ。

50ccレプリカ顔負けの装備が光ったストリートマジック(1997年)

オートマチックの50ccバイクながら、当時の「NSR50」や「TZR50R」といった50ccレプリカモデル顔負けの装備により、スポーティな走りに定評があったのが、1997年に登場した「ストリートマジック」だ。

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ストリートマジック(写真は1999年モデル)

コンセプトは「速い、カンタン、カッコいい」。エンジンには、最高出力7.2PSを発揮する49cc・強制空冷2ストローク単気筒を搭載。車体には、ロードスポーツモデル並みの高剛性ツインチューブフレームを採用したほか、制動力の高いフロントディスクブレーキ、太く大径の12インチ前後タイヤ、倒立フロントフォークなどで足まわりも強化した。

これらにより、高い走行性能を実現すると共に、オートマチックのVベルト無段変速方式を採用したことで、手軽にスポーツ性の高い走りが楽しめるスポーツスクーターとして大人気となった。

特に、スポーティバージョンの「TR-50S」には、リザーバータンク付リヤショックなども装備し、さらに軽快で安定感ある走りを実現。当時の2ストレプリカにも劣らないスペックを持つことで、カスタムのベース車としてや、ワンメイクレースで活躍するマシンも多かった。

ちなみに、派生モデルには、ストリートマジックをベースに、オフロード風の外観にアレンジした「ストリートマジックII」も同じく1997年に追加発売。

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ストリートマジックII(1997年)

また、1998年には、最高出力10PSを発揮する113cc・空冷2ストローク単気筒エンジンを搭載した「ストリートマジック110」も追加。さらに、同様のエンジンを採用したオフロード風モデル「ストリートマジックⅡ 110」も登場し、豊富なラインアップを誇っていた。

スポーツスクーターといえば、外観は通常のスクーターと同じで、エンジンや足まわりなどを強化したモデルが一般的。1990年代には、例えば、スズキも「セピアZZ(1990年登場)」といったモデルが人気で、その速さにはかなり定評があった。

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セピアZZ(1995年)

だが、ストリートマジックは、ネイキッドバイクのフォルムに、スクーターのエンジン、レプリカ並みの足まわりといった、さまざまなファクターを融合させていたことがポイント。その個性の強さは、独自路線を貫くスズキというメーカーの特徴がよく分かるモデルのひとつといえるだろう。

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…