「3タイプのMT-09」をサーキットで走らせて見えてきた、ヤマハ“CP3”シリーズのスゴさとは?

ヤマハの自動変速機構を搭載した“MT-09 Y-AMT ABS”の試乗会において、幸運にもMT-09のSTDモデルとSPにも乗ることができた筆者。MT-09はCP3シリーズの主幹となるモデルであり、XSR900やXSR900GP、トレーサー9 GT、そしてトレーサー9 GT+らも共通のフレームとエンジンを採用する。それら最新モデル全てに試乗した筆者が、このシリーズの魅力と今後について語る。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

2021年に発売された3代目MT-09でさまざまな新技術を投入

現行MT-09の先代にあたる3代目は、3年前の2021年8月26日(SPは7月28日)に発売された。写真は2022年に新色として登場したパステルダークグレーだ。

水冷並列3気筒という、近年ではトライアンフやMVアグスタしか採用していなかったエンジン形式を引っ提げ、10年前の2014年4月10日に発売されたヤマハ・MT-09。クロスプレーン・コンセプトに基づいて開発されたこの3気筒エンジンは、その頭文字から“CP3”と呼ばれ、翌2015年2月にMT-09トレーサー、2016年4月にはXSR900というバリエーションモデルを次々と投入する。

転機は2021年、MT-09が3代目にモデルチェンジした際に訪れた。CP3エンジンはストロークを3mm伸長して排気量を846ccから888ccへ。そして、特徴的なCFアルミダイキャストフレームは、最低肉厚を3.5mmから1.7mm(!)とした新型へと移行したのだ。

初代~2代目MT-09の846ccから888ccに拡大された水冷並列3気筒のCP3エンジン。最高出力は110psから120psへと引き上げられた。
MT-09の3代目と現行の4代目が採用するCFアルミダイキャストフレーム。CP3シリーズは全てこのフレームで作られている。
これがCFアルミダイキャストフレームの断面。最も薄い部分は100円硬貨と同じ1.7mmで、側面のほぼ全てがこの厚さとなっている。フレーム単体で2.3kgも軽くなったという。

初代のMT-09とトレーサーは、プラットフォームを共有する前提で開発されたのに対し、XSR900はあとから出てきた企画のため、バリエーションモデルを増やすことに対して限界が露呈。これが新型フレーム開発の発端になったという。そして、同時期に社内の鋳造技術グループが薄肉鋳造開発を推し進めており、タイミングが合致したことも功を奏した。

第2世代のCFアルミダイキャストフレームは、最初からラインナップ展開を要件に加えた上で、あとから剛性チューニングしやすいように設計されている。そして、このフレームを生産するために、ヤマハは新たなダイキャストマシンを導入しているのだ。

XSR900は125万4000円。写真は2022年モデルのブラックメタリックX。試乗インプレッションはこちら
2024年5月に発売されたXSR900GP。143万円。試乗インプレッションはこちら
KYB製の電子制御サスを採用するトレーサー9 GT。149万6000円だ。
ACCおよび世界初のミリ波レーダー連携UBSを搭載するトレーサー9 GT+。182万6000円。

サーキットにおいて何ら不足なし。これならレースも視界に入る

MT-09 Y-AMTを袖ケ浦で走らせる。試乗インプレッションはこちら

MT-09 Y-AMTのプレス向け試乗会は、千葉県にある袖ケ浦フォレスト・レースウェイで開催された。これまでにさまざまな車両でこのサーキットを走っているが、こと楽しさにおいてMT-09の最新モデルはかなり高いレベルにあると感じた。

特に感心したのは、CFアルミダイキャストフレームを中心とする車体構成だ。倒立式フォークを含むフロント周りの剛性が高く、ホームストレートから第1コーナーへのアプローチで狙ったラインをしっかりとトレースできる。それでいて、スーパースポーツほどガチガチな剛性ではないので、そこにある程度のファジーさもある。よって、ライダーを緊張させる度合いが少なく、おそらく路面温度が低かったりウェットだったりしても、それなりのペースで走れるはずだ。

倒し込みは、車重が200kgを下回るという物理的な軽さに加え、同等排気量の並列4気筒よりも幅の狭いCP3エンジンであること。また、高回転域をキープしなくても力強く立ち上がれる=クランクのイナーシャの少なさなどが相まって、1リッターに迫る排気量のバイクとは思えないほどに軽快だ。これについては、3代目MT-09から採用され、現在はCP3シリーズ全車が導入する“スピンフォージドホイール”の効果も大きいだろう。

アルミ重力鋳造ながらリム部にフローフォーミング加工を行うことで、鍛造に迫る強度と軽さを実現したスピンフォージドホイール。リム部の最小厚さは2.0mmと非常に薄く、従来比で慣性モーメントは10%もダウン。ヤマハの社内で製造されている。

標準装着タイヤは、STD/SP/Y-AMTの3タイプともブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS23だ。このタイヤの特性もあってか、「思ったよりも早くにインに寄ってしまいそうだから切っ先を外側へ向けよう」などという具合に、旋回中のライン修正がしやすかったのも好印象のポイントだ。

ブレンボ&オーリンズ採用のSPは価格差以上の価値あり

写真はMT-09 SPで、価格は144万1000円。STDモデルとの価格差は18万7000円だ。

MT-09 SPは、STDモデルをベースにKYB製倒立式フロントフォークの調整機構を強化。リヤショックをオーリンズ製とし、さらにフロントキャリパーをブレンボのStylemaとした上位仕様だ。

このSPは、STDモデルやY-AMT仕様よりもさらに走りが軽快で、標準装着タイヤは共通なのに、路面からの情報が瑞々しく伝わってくる。そして、何より違いを感じたのはフロントブレーキのフィーリングで、STDのキャリパーの調整範囲が10段階だとしたら、Stylemaは50段階に増えたかのように緻密にコントロールできるのだ。これはキャリパーの違いだけでなく、フォークの作動性向上(インナーチューブにDLCコーティングを加えている)なども効いていると思うが、サーキットで走らせたことで違いがより明瞭になったのは間違いない。

ちなみに、日本では6:4ぐらいの割合でSPの方が売れているが、メイン市場である欧米ではSTDの方が圧倒的に販売台数が多いとのこと。海外ではバリュー・フォー・マネーが重んじられる傾向にあり、とりあえず高いヤツをくれというのは日本市場だけの特徴らしい。そうした背景もあって、Y-AMTはSPではなくSTDモデルに導入したとのことだ。

これだけのポテンシャルを秘めるなら“YZF-R9”も楽しみだ

STDのMT-09もサーキットでの走りは非常に楽しい。

ヤマハは、688cc並列2気筒エンジンを搭載するMT-07をベースに、YZF-R7というスーパースポーツを作り上げた。そして、同様の手法でMT-09ベースの“YZF-R9”が2025年にも出るのでは? という噂が絶えない。

その背景にはワールドSSPの多様化や、YZF-R1の欧州での販売終了宣言などがあるが、とはいえMT-09の各タイプでサーキットを走ってみた限りでは、このエンジンとシャシーならレースでの戦闘力はかなり高いのではないかと感じた。もちろん、フレームに関してはそれなりに剛性チューニングされるだろうが、軸足を公道に置いた状態で素晴らしいスーパースポーツができることを期待せずにはいられない。

ヤマハ MT-09 Y-AMT ABS 主要諸元

認定型式/原動機打刻型式 8BL-RN88J/N722E
全長/全幅/全高 2,090mm/820mm/1,145mm
シート高 825mm
軸間距離 1,430mm
最低地上高 140mm
車両重量 196kg
燃料消費率 国土交通省届出値
定地燃費値 31.6km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 20.8km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列 直列、3気筒
総排気量 888cm3
内径×行程 78.0mm×62.0mm
圧縮比 11.5:1
最高出力 88kW(120PS)/10,000r/min
最大トルク 93N・m(9.5kgf・m)/7,000r/min
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 3.50L
燃料タンク容量 14L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比 1.680/2.812 (79/47×45/16)
クラッチ形式 湿式、多板
変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式
変速比 1速:2.571 2速:1.947 3速:1.619 4速:1.380 5速:1.190 6速:1.037
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター/トレール 24°40′/108mm
タイヤサイズ(前/後) 120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名
価格 136万4000円(本体価格:124万円)

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…