見た目はネオレトロだが走りは正統派

レトロ感のある見た目を裏切る、正統派の走り|ヤマハ・XSR900試乗記|ズバリ、MT-09よりも扱いやすい!

2014年初出のヤマハ・MT-09。その派生モデルとして2016年に登場したスポーツヘリテイジモデルXSR900が、2022年に初のフルモデルチェンジを実施した。新型のコンセプトは"The Expert of Equestrian(伝統馬術のエキスパート)"で、排気量をアップした2021年型MT-09をベースにスタイリングを一新。6軸IMUによる先進のライダーエイド技術まで採用した。先代比で車両価格14万8500円アップの成果をじっくりとチェックした。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・XSR900 ABS……1,210,000円(2022年6月30日発売)

MT-09のフルモデルチェンジに伴い、派生モデルであるXSR900も1年遅れで大刷新。エンジンやフレーム、ホイールなど主要パーツを同一仕様としつつ、先代で約4kgの軽量化も。
2021年型で最低肉厚を3.5mmから1.7mmとした新型CFアルミダイキャストフレームや、排気量を845ccから888ccとしたCP3エンジンを採用するMT-09 ABS。STDモデルの価格は110万円。
カラーリングは2種類を用意。写真のブラックメタリックXはヘッドライトステーやヒールプレートもブラックとしてモダンな印象に。なお、このXSR900はYSPおよびアドバンスディーラーのみで販売される「ヤマハモーターサイクルエクスクルーシブモデル」となる。
もう1色は、1980年代にグランプリシーンで活躍したフランスソノートヤマハをイメージしたブルーメタリックC。ブルー×シアン×イエローのコンビネーションは、まさにゴロワーズカラーだ。PVには往年の名ライダー、クリスチャン・サロン氏を起用している。

水冷トリプルはよりスムーズに。各種制御による安心感も大きい

2014年にヤマハから登場した初代MT-09は、誤解を恐れずに言うなら、大型ビギナーに勧めにくいバイクだった。初めて試乗したのは発売から半年ほど経ったころだったと記憶する。ヤマハが並列3気筒を手掛けるのは1976年のGX750以来であり、これが初めてのエンジン形式ではないこと。そして、同一フォーマットを採用するトライアンフ3気筒モデルがどれも秀作だったこともあり、私の期待値は高かった。それを裏付けるかのように、同業ジャーナリストのインプレッションはいずれも好評価だった。ところが……。

箱根のワインディングロードで、私は全身に汗をかいていた。それはスポーツをしたあとの心地良いものでは決してなく、明らかに冷や汗の類いだ。ヤマハが久しぶりに新開発した水冷トリプル、通称〝CP3(クロスプレーン3気筒の意)エンジン〟は、走行モードにもよるが基本的にピックアップが鋭く、最高出力116psとは思えないほどパワフルだ。これに対して、前後サスはバネレートも減衰力もソフトな設定のため、スロットルをほんの少し開け閉めしただけで車体が大きくピッチングする。この過度な動きを生かせる腕の持ち主なら高い旋回力を引き出せるが、ギャップを拾った瞬間にどこかへ飛んで行ってしまいそうな危うさを持ち合わせていたのも事実。とはいえ、STDモデルで税込み85万円という値頃感も手伝い、MT-09は251cc以上でトップセールスを記録したのだ。

そうした強烈な第一印象により、個人的に負のイメージが強い初代MT-09だが、派生モデル第一弾として2015年に登場したスポーツツーリングモデルのMT-09トレーサー、そして2016年にリリースされたスポーツヘリテイジのXSR900は、むしろポジティブな印象しかない。特に驚いたのはXSR900の方で、てっきり流行に乗って外装を変更しただけのネオクラシックかと考えていただけに、これがCP3シリーズのスタンダードモデルでは? とすら思っている。

さて、2022年に初のフルモデルチェンジを実施したXSR900。エンジンは現行MT-09と同一仕様であり、前作から排気量を845ccから888ccにアップ。最新の排ガス規制に対応しつつ、最高出力を116psから120psへと引き上げている。

D-MODE(走行モード切り替えシステム)は、A/STD/Bの3段階から、1~4の4段階へと分かりやすく進化した。レスポンスが最もスポーティとなる1は、初代のMT-09を彷彿させるほどピックアップが鋭く、7,000rpm付近から弾けるようなパワーの盛り上がりを見せる。ただ、初代MT-09と決定的に異なるのは、新たに採用されたリフトコントロールシステムが介入しているのか、ヤンチャにスロットルを急開してもフロントが浮いてくるような気配がないこと。さらにトラクションコントロールも6軸IMUの搭載によりバンク角を反映したタイプへと進化しており、どんなシーンでもより安心して右手を動かせるようになったのだ。

D-MODEについては、2が標準的、3が穏やかなレスポンス、そして4はエンジン出力まで制限する設定となっており、それぞれの反応は明瞭に異なっている。さらに電子デバイスについて付け加えると、クイックシフターはシフトアップだけでなくダウンにも対応したものへと進化し、これは変速ショックが少なく非常に実用的だ。MT-09 SPやトレーサー9 GTと同一仕様のクルーズコントロールは、このマシンのコンセプトからして活躍する場面は少ないと思うが、とはいえ空いている高速道路では便利なことこの上ない。


旋回力を自在にコントロールできる。中身はモダンネイキッドだ

先代XSR900で最も感心したのはハンドリングだ。ピョコピョコとせわしなく動くサスセッティングのMT-09に対し、XSR900はしっとりと落ち着いており、同一シャシーでこんなにもハンドリングが変わるのかと驚かされた。しかも、MT-09は着座位置が前寄りかつステップが後退気味という特殊なライディングポジションなのに対し、XSR900はビッグネイキッドの王道とも呼べる乗車姿勢で、取っ付きやすかったというのも好印象の要素だ。

新型のXSR900もこの先代の流れを汲みながら、さらに安定成分が増えている。その要因となっているのは、先代比で軸間距離が55mm長いスイングアームの採用だ。これはトレーサー9 GTから流用したもので、結果的にホイールベースも1,440mmから1,495mmへと延びている(ちなみにトレーサー9 GTは1,500mmだ)。

横剛性を約50%高めたという新型CFアルミダイキャストフレームが採用されているが、変に硬すぎるということはなく、しなやかな印象は先代の延長線上にある。車体のピッチングを生かすことで旋回力を自在にコントロールできるが、あえてそうしなくてもスッとナチュラルに向きを変えてくれる。前後サスの動きは、現行MT-09 SPのKYB&オーリンズほどスムーズではないが、旋回中にギャップを拾ってもしっかりと吸収するだけの能力はある。そして、この新型から採用された標準装着タイヤ、ブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS22は、ナチュラルなハンドリングと乗り心地の良さをXSR900に提供している。

ブレンボの純ラジアルポンプ式マスターシリンダーを組み合わせたフロントブレーキは、入力に対する効力発生のリニアさにおいてトップクラスと断言できる。特にリリース方向の忠実さは絶品で、このマシンで一度サーキット走行を試してみたいと思えるほどだ。

気になったとすればUターンなどの小回りのしにくさだ。ハンドル切れ角は先代とほぼ変わらないはずで、現行MT-09でもそんなことを感じたことはなかったのだが……。取扱説明書の諸元を確認したところ、最小回転半径が3.0mから3.5mへと大きくなっていた。おそらくホイールベースの延長が原因だろう。片側1車線の道路でUターンする際に何度かヒヤッとしたので、オーナーになられた方は注意されたし。

丸型のマルチファンクションメーターは、MT-09と同一デザインの3.5インチフルカラーTFTメーターとなり、表示項目が大幅に増えている。バーエンドミラーは、一般的なタイプよりも視線の移動量が大きく、また狭い場所を通る際にぶつけやすいというデメリットはあるが、とはいえ後方視界は明らかに良いということをお伝えしたい。

まるで欧州の辣腕カスタムビルダーが手掛けたようなスタイリングであり、他社がいかに元ネタである往年の名車に近付けるかに躍起になっているのに対し、ヤマハは全く異なるアプローチでヘリテイジを解釈しているからこそ自由であり、見ていて痛快だ。特に1980年代のグランプリシーンを知る世代にとっては、シングルシート風のリヤ周りやサイドカバーのクイックファスナーにノスタルジーを感じるだろう。たまの休日、ライディングそのものを味わうには最高の相棒であり、走り方やペースによってさまざまな表情を見せてくれる。気になる方は店頭で実車を見て、そして叶うならぜひ試乗を。


ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

シート高はMT-09よりも15mm低い810mmを公称。やや腰を引いたライポジとなっており、MT-09で後退気味に感じられたステップ位置も適切に。ハンドル幅は狭く、全体的にコンパクトだ。なお、ハンドル位置は前後に2段階、ステップは高さを2段階に調整可能である。
MT-09よりも座面が15mm低いこともあって、足着き性はご覧のとおり優秀。さらに、MT-09は右足を地面に下ろすとクラッチハウジングに干渉するのが気になるが、XSR900は着座位置がやや後退したことで、結果的にそれが解消されている点を個人的にうれしく思った。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…