いまどきのバイクは暖機運転が不要? でも、冬は愛車をいたわる「ウォームアップ運転」がおすすめな理由

ひと昔前のバイクでは、当たり前だった暖機運転。寒い冬などに、ギアをニュートラルにし、アイドリング状態で数分間エンジンを温めることだが、最近のバイクには不要だといわれている。
だが、実は、暖機運転ではないが、走りはじめをゆっくり走行する「ウォームアップ運転」はかなり大切だといえる。愛車に優しいだけでなく、冬に安全な走行を行うためにおすすめ。一体どんなものなのかを紹介する。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●平塚直樹、カワサキモータースジャパン、写真AC

*写真はイメージです

今のバイクに暖機運転が必要ない理由

昔のバイク、特に、キャブレター搭載車の場合は、冬などに暖機運転が必要だった。そうしたキャブレター搭載のモデルは、ガソリンを霧状にして空気と混ぜ合わせた混合気を作り、それをエンジンに送り込む仕組みだが、冬にガソリンが冷めていると霧化がうまくいかず、エンストしてしまったりするからだ。また、冷えたエンジンでいきなり回転を上げて走ると、故障の原因になるともいわれていた。

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昔のバイク、特に、キャブレター搭載車の場合は、冬などに暖機運転が必要だった

だが、最新のバイクでは、エンジンの暖機運転は特に必要ないといわれている。理由は諸説あるが、例えば、エンジンの部品精度が上がっていることで、ある程度エンジンが冷えた状態で走行しても、故障しにくいことが挙げられる。

また、インジェクションの搭載が当たり前となり、電子制御で燃料噴射量や点火のタイミングもコントロールできるので、エンストなどが起こりにくいという面もある。

ほかにも、エンジンオイルの性能が上がっているなどで、気温が低い状況下でも無理なくエンジンを始動できるようになっているといわれている。

その証拠に、最近のバイクでは、取扱説明書、いわゆるオーナーズマニュアルなどにも、「走行前に暖機運転を行って下さい」といった意味合いの記述はない。逆に、「長時間の暖機運転はやめた方がいい」などと言わたりすることもある。これは、暖機運転で長時間エンジンを掛けたままにすることで、排気音や排気ガスが近所迷惑になるなどの理由からだ。

また、アイドリング状態を長時間続けたり、エンジンを早く暖めようとアクセルを空吹かしするのも、御法度。周囲の迷惑になるだけでなく、バイクのエンジンなどに悪影響となる場合もあるので注意したい。

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最近のバイクは、例え昔風の空冷エンジンでも、暖気運転は不要(写真はカワサキ・メグロS1の232cc・空冷シングル)

走り始めはゆっくり走行がおすすめな訳

ただし、いかに最新のバイクは、エンジンの暖機運転が不要だからといって、始動の直後に、いきなり急発進するのもよろしくない。

もちろん、それでエンジンがすぐに故障することはほぼないが、特に、寒い冬の場合は、始動してから5〜10秒くらい走り出すのを待つほうが、インジェクション車でもアイドリングなどが安定しやすい。

さらに、特に真冬の朝などには、走り出してから5分〜10分程度は、意識して「ゆっくり走る」方がいい。

理由は、まず、冷えたタイヤは、乾いたドライ路面でもグリップしにくいためだ。いきなりガンガンに走ると、滑って転倒するリスクも高くなる。

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冬はタイヤを温めるという意味でも、最初あゆっくり走る方がいい

また、冬は、路面が夜の間に凍結していても、ぱっと見は分かりづらい箇所などもある。うっかり、そうしたところに乗ってしまうと、転んで大事故にもなりかねない。そのため、注意しながらゆっくりと走ることが重要になるのだ。

また、最初にゆっくりと走ることは、ミッションのウォームアップにもなる。機種にもよるが、ミッションが冷えた状態だと、シフトフィーリングがやや硬い状態であることもあるからだ。

例えば、筆者の愛車であるホンダ・CBR650R(2020年式の初期型)の場合もそうだ。

筆者の愛車であるホンダ・CBR650R(2020年式の初期型)

エンジンを始動してしばらくは、特に、1速から2速へのシフトアップ時に、やや引っ掛かるような感じとなりやすい。そこで、ギアチェンジやクラッチの操作を丁寧に行いながらゆっくり走行。すると、エンジンが温まってくるにつれ、だんだんとスムーズな変速フィールに変わってくる。

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エンジンが冷えていると、1速から2速へのシフトアップ時に、やや引っ掛かるような感じとなりやすい

もちろん、こうした傾向は、車種はもちろん、同じモデルでも個体差などもあるため、一概にはいえない。だが、こうしたケースもあることを念頭に入れ、十分に注意した方が愛車にとって優しい走り方になるといえる。

愛車を長く良好な状態にし、ライダーにも優しい

ほかにも、走りはじめをゆっくりにすることは、ドライブチェーンや各部のベアリングなどにも優しいといえる。塗布しているグリスやオイルなどの潤滑油が、冷えた状態から徐々に温まることで、馴染んでくるからだ。

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走りはじめをゆっくりにすることは、ドライブチェーンなどにも優しい

さらに、フロントフォークなど、各部に使われているゴムパーツも、寒いと硬くなっている。そのため、冷えた状態のまま、ガンガンに走ると寿命を縮めやすい。

特に、乗り始めて何年か経っているバイクの場合は、ゴムパーツも劣化が進んでいることもあるので、注意したい。そして、これら気遣いが、結果的に、愛車を長く良好な状態に保つことにつながるのだ。

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フロントフォークなど、各部に使われているゴムパーツも、寒いと硬くなっているため、ウォームアップ運転をすると長持ちにつながる(写真はカワサキ・ニンジャZX-4RR)

このように、特に、冬場におすすめなのが、最初はゆっくり走るウォームアップ運転だ。もちろん、これは、必ずしも冬だけではない。エンジンを始動後すぐは、できるだけ愛車をいたわった走り方をし、徐々にペースを上げていく方法は、1年中おすすめだ。

夏場でも、例えば、早朝などは、タイヤなどが走る前に冷えていることは同じ。冬ほどではないが、いきなり全開で走るのは危ないことは変わりない。

あと、こうしたウォームアップ運転は、愛車だけでなく、ライダー自体の身体を慣らすことにもつながる。バイクは、体重移動など身体の動きを駆使して運転する乗り物だけに、身体や目など、人間の慣らしも大切だ。安全・安心なライディングのためにも、最初はゆっくりのウォームアップ運転を、普段からぜひ心掛けてもらいたい。

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ウォームアップ運転はライダーの身体を慣らすことにもなり、安全運転につながるといえる

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…