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その名も長きバーグマンストリート125EX

東海道ガス欠旅はこれで9回目。毎回、いろんなバイクで東京・日本橋から京都をめざし、東海道五十三次をガス欠停止までひた走るワンウェイ・アタックだ。今回の相棒には、スズキ バーグマンストリート125EXを選んだ。
例によって早起きの苦手なタカハシが日本橋を出発したのはそろそろ正午になろうという頃。幼児なみに早起きが苦手なだけじゃなく、幼児なみに遅寝まで苦手な甘えん坊なので、どうしても覚醒時間&一日に走れる距離が短くなってしまうのが残念だ。



バーグマンストリート125EXで、気になる欠点といえば「名前が長い」ということだろうか。なんと15文字もある。10回名前を書くだけで、もう150文字。400字詰め原稿用紙の枚数に応じて原稿料がもらえた昔の小説家なら、ひたすら名前を書きまくるだけで金になる長所だといえるかもしれないが、タカハシのごときチンケなライターは、たくさん書いたぶんだけ金がもらえるわけではない。なので本稿ではあっさり短く「バーグマン125」と書くことにしたい。

やたらぴかぴかしているだけでクソ退屈な都心のビル街を抜け、おおむね東海道づたいに神奈川方面へ走る。東京から離れれば離れるほど気分がよくなり、頭がすっきりしてくる。東京タワーあたりから、おかしなデンパとか出てるせいなのかもしれない。

バーグマン125は、エンジンとフレームを共用するアドレス125、アヴェニス125の兄弟車として生まれたマシンだ。スズキ開発陣がよほど熱心に作り込んだのか、完成度はきわめて高い。名前が長すぎることを除けば欠点はないといってもいいほどだ。

エンジンにもブレーキにもサスにも、車両デザインやユーティリティにも欠点らしい欠点がなく、コスパまでも良い。このクオリティで31万7900円(税抜)。発進するたびにサオ立ちウイリーしたいとか、峠でガリガリ火花を散らして街道レーサーを気取りたいとか、ガレまくったダートを全開走行して血まみれになりたいとかの特殊な嗜好をもつライダーじゃなければ誰にも不満はないだろう。もっとも、とことん底意地の悪い見方をしたければ、「とくに意外性のない全方位型優等生」っていう点が、欠点といえば欠点だといえなくもないが。

「エレガンス・アンアシューミング」をコンセプトにしたバーグマン125のデザインは、優雅にして奥ゆかしい。強烈な個性に達する一歩手前で踏みとどまり、上質なデザインにまとめあげている。

バーグマン125が積んでいるのは、兄弟車のアドレス125、アヴェニス125と基本的には同じSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)エンジンながら、アイドリングストップなどを追加した「SEP-α」と呼ばれるアッパーグレード版。出力特性はきわめて穏やかで、初心者でも難なく扱える。ただ、アイドリングストップからスロットルを開いて始動させるとき、ちょっと大きめのタイムラグがある。実用上はまったく問題ないが、神経質なライダーだと気になるかもしれない。



スロットルを開けてもドカンと加速するパンチがあるわけじゃないが、四輪の流れを軽くリードする小気味よい出足が楽しめる。操縦性は、いかにも125クラスらしく軽快だが、軽すぎてヒラヒラすることはなく、公道上のトップスピードとなる60km/h巡行時には、しっとりした安定性を発揮する。コーナリングは俊敏さよりも安定性重視。狙ったラインをゆったりトレースするジェントルな味付けだ。
コンバインドブレーキは、リアだけをかけると自動的にフロントもちょっとかかる仕組み。ABSほどバイク任せに気楽なブレーキングができるわけじゃないが、すくなくともドライの良路であれば、たいていのシーンでリアロックを軽減・防止してくれる。
生麦にはヘビがいる

横浜市鶴見区生麦は、あの超有名な生麦事件の現場だ。なのに「生麦事件って何?」とか言ってる無知な人は、今すぐ日本史の教科書を読み返すべきだ。ただ、かくいうタカハシも、生麦事件って何なのかぜんぜん知らない。鼻を垂らして朝から晩までふらふらバイクを乗り回している程度の人物には、とくに必要な知識でもないんだろう。
いずれにしても、この生麦にある生麦明神公園には、まあまあな大蛇が設置されていると聞きつけ、せっかくだからと立ち寄ってみることにした。

そういえば、スペイン バルセロナにあるグエル公園あたりは、このヘビとゴリゴリに酷似したデザインで世界的に有名だ。だがタカハシは、生麦明神公園がパクリをやらかしたなどと無礼きわまる主張をしたいわけではない。それどころか、なんならグエル公園のほうが生麦明神公園のヘビをパクった可能性だってあるわけだし。そのへんの判断は読者に任せたいので、現物を確認したい人は、ぜひ生麦明神公園(随時入場無料)まで。
湘南に陽は落ちて

神奈川県に入ってしばらくすると陽が傾きはじめた。藤沢から国道1号をはずれ、海岸線へ向かった。ビルまみれの東京・神奈川あたりの道路を走っていると無駄にストレスがたまる。辻堂海岸でバイクを停めて一息入れることにした。



クソ思い荷物をかつぎ直し、辻堂海岸をあとに、すっかり日暮れたシーサイドルート国道134号を走りはじめた。茅ヶ崎市に入ってしばらくしたところでフューエルメーターが初めて動き、全5目盛りのメーターは残4目盛りになった。だがまだたった5分の1しか減っていない。ガス欠への道はまだまだ遠い。



東海道を走ってるわけだから、できれば東海道沿いで泊まりたいのが人情だが、あいにく手ごろな安宿ってものは、そう都合よくどこにでも転がっているものじゃない。とくに湘南海岸から箱根にかけてのエリアは、インバウンドに活気づく昨今では観光客に人気らしく、むやみと強気の高値をつける宿が多くなった。この夜もタカハシの宿は都合がつかなかった。やむなく東海道を少し離れた町の安宿に転がり込み、コンビニ飯を掻き込んで眠ることにした。


