ヤマハの新型車〜アンダー100万円のエントリーモデル向けのスーパースポーツ、YZF-R7 ABSがイイぞ!

ヤマハからミドルクラスのスーパースポーツが新登場。12月16日の発表に先駆けた12月10日に千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで報道試乗会が開催された。今回はサーキットインプレの第一報である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機株式会社
YZF-R7 ABS WGP 60th Anniversary(左)は1,054,900円。

ヤマハ・YZF-R7 ABS…….999,900円

ディープパープリッシュブルーメタリックC

ヤマハブラック
60th Anniversary シルキーホワイト…….1,054,900円
細さを極めたデザインスケッチ

 試乗会当日、走行前に今回のYZF-R7開発に関する技術説明会が開催された。
 その内容を簡単に解説すると、YZF-R7はミドルクラス・ネイキッドスポーツの傑作として定評のあるMT-07がベースとなっている。
 基本的にフレームとエンジンはMT-07と共通。しかしネイキッドスポーツから“R”シリーズへの変更は、細部までこだわりを持って徹底的に作り込まれている。ライディングポジションとフルフェアリング装備による外観デザインの変更は当然だがサーキット走行を楽しめるスーパースポーツとして車体剛性を始め、サスペンションやブレーキ系のチューニングングまで、しっかりと手が入れられている。
 しかし今回、R7の開発で目指したのは、サーキット最速のスーパースポーツではなく、“最高の楽しさ”と“最速の成長”を与える云々と説明が成された。筆者が理解したのは、新世代ユーザーに向けて、改めてスーパースポーツの世界感を存分に楽しめる1台を提供したいというヤマハ開発陣の思いと、その先にモータースポーツの世界がある事を知って欲しいという願いが込められているような気がする。
 言い換えると、レースの世界で勝負できるハイパフォーマンスではなく、そこへ誘うこともできるワンステップとして、スーパースポーツで走る楽しさを体験できるマシンを提供すべく誕生したと言うわけである。

 搭載エンジンは270度位相クランク採用の水冷DOHC4バルブ直(並)列2気筒。ショートストロークタイプの688cc。低速域から扱いやすい柔軟なトルク特性には定評がある。
 細かな違いを上げると、右手のスロットル操作に対するレスポンスが向上。いわゆるハイスロットルが採用されている。また新たにアシスト&スリッパークラッチを搭載。左手の操作力軽減と減速時に急激なエンジンブレーキによる後輪のホッピングを軽減し安定走行をキープしてくれる装置である。
 サーキットでスポーツ走行を楽しむと、路面のグリップも良く、より激しい加減速操作を強いる事になるが、そんなハードな走行シーンでも車体の安定を保ちやすい。
 
 車体関係も手が入れられて剛性を強化。ステアリング回りも一新されており、ワイドスパンのフロントフォークを採用。前後捩じり剛性は約20%も向上。高剛性化に加えてキャスターも若干立てられた。
 リヤサスペンションもモノショックのバネレートを上げ、リンク系にも手が入れられ前後荷重配分も少しフロントヘビーに変わっている。そしてシート高は30mm高められた835mmに変更。
 これはコーナーの旋回を目指して体重移動によって車体を傾ける時の軽快感に大きく影響する大切なポイント。もちろんR7はあくまでストリート・モデルなので、足付き性をスポイルしないシートデザインの工夫も忘れていない。
 そしてもうひとつ。ドリブンスプロケットを変更。MT-07の43丁からR7は42丁に落とされ、2次減速比は2.687から2.625へ若干高められたのも見逃せない。
 今回は、袖ヶ浦フォレストレースウェイに限られた試乗だが、果たしてどんな乗り味を発揮してくれるのだろうか。筆者も興味津々でコースインしたのである。

ライディングポジションの比較図。R7はR6のそれに近い。

冷や汗じゃなく、イイ汗かける程よい高性能が魅力的。

 ピットレ-ンに整列した試乗車に跨がると足つき性が良く、腰高感が少ない。ただ、マシンを引き起こす時の手応えはそれなりの重量感を覚えた。
 MT-07では扱いの軽さに驚きを覚えていたので、その反動的な感覚もあるが、ハンドル位置が低く狭い関係で、引き起しや取り回しが重く感じられる。とは言え、スマートに仕上げられた車体のおかげで、手強さは皆無。400だと言われても信じてしまう程の親しみやすさである。
 既にお馴染みのエンジンは、適度に逞しい出力特性がとても扱いやすい。軽いクラッチを握りピットアウトするも、戦闘に行くモードではなく、ツーリングに出かける様な穏やかな気分で居られるのが何とも印象深い。
 つい「穏やか」という表現を使ってしまったが、簡単に全開にできるスロットルを開けると、堂々のダッシュ力を披露する。回転域(パワーバンド)を気にすること無く、柔軟に対応できる出力特性が、とても扱いやすく感覚的にピリピリと張りつめない優しい心持ちで走れるのことを表現したのである。なるほど、サーキットを走れるスーパースポーツでありながら、多くのライダーが楽しめるアイテムを提供したいと考えたヤマハ開発陣の思いが理解できた気がする。
 つまりレースの世界で、高度なライディングテクニックを駆使して、必至に走ればコンマ1秒でも高いところに到達できる過激な性能追求ではなく、多くの人にモータースポーツの楽しさを知ってもらえる気持ちの良さに重点を置いた開発コンセプトが好印象なのだ。
 前屈姿勢を決め、胸をタンクに押しつけてサーキットを走るのはやはりワクワク・ドキドキ。ロートルライダーの筆者でもエキサイティングで実に楽しい。
 僅かな違いだが、2次のギヤ比が少し高められたせいか、フルにそのポテンシャルを発揮するためには、9,000~9,500rpm当たりでシフトアップするのが良い感じ。
 レッドゾーンの10,000rpmへも難なく伸びるが、早めのシフトアップの方が効率が良さそう。吹き上がり具合が緩慢になる感覚が、MT-07より少し早い様な気がした。
 いずれにせよ、高回転域でドンドン元気に鋭くなるレーシーな出力特性とは趣が異なる。全力の加速途上でも次のコーナーが迫り来る感覚に違いがあり、落ち着いて居られるパフォーマンスが実に程良い。
 ピリピリと目を吊り上げて必死の形相で走るのではなく、ヘルメットの中で頬が緩んでいる自分に気付く。R7はそんなスーパースポーツなのである。

 ブレーキも十分に強力。右手の指一本でジワリとかつ鋭く掛けるのも自由自在になる。コーナー進入時や、旋回中のデリケートな操作もレバータッチが良くコントローラブルであった。
 MT-07で同じコースを走った印象と比較すると、旋回性もいくらか鋭さが増している。柔軟で扱いやすい操縦性を誇るMT-07も十分にスポーツ走行を楽しめる逸材だが、R7は空力特性に優れ、前方から襲われる風に耐える必要性がない。その乗り味は、サーキットにも相応しいピュアなスーパースポーツである点で、確かな優位性を発揮してくれた。
 最終コーナーを立ち上がり、400m程のホームストレッチを全開で行く時、MT-07では1コーナー直前迄の到達速度は175km/h程度だったが、R7では183km/hをマーク。
5km/h以上10km/h未満のポテンシャル向上は、最終コーナーの立ち上がり速度が速いこと、さらに空力特性が優れている点の証である。
 ちなみに1速ローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は44(MT-07は42)km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,000(MT-07は4,200)rpmだった。
 また車体のバンク角は、静止状態でステップのバンクセンサーが接地するまでを計測されたものだがMT-07の49度に対してR7は53度もある。実際今回のサーキット走行で、ステップを接地することはなかった。
 レーサーレプリカ系のホットモデルであるR6の57度には及ばないが、ピュアなスーパースポーツとしてR7はまるで不足の無いバンク角と旋回性能を備えていることは間違いない。
 走行直後、「サーキットデビュー願望のあるライダーにとって大いに気になる存在だろう」と思えたのが正直な感想。R25からのステップアップ、あるいはR1やR6経験後の返り咲きにも良いかもしれない。つまり多くのユーザーにとって丁度良く楽しめるミドルスポーツなのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ご覧の通り、両足の踵は軽く浮く程度。シート高は835mm。MT-07比較で30mm高いが、前方が細くなったシートデザインにより足つき性は大差の無い扱いやすいレベルに仕上げられている。

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…