BMW 最強のネイキッドスポーツ、S 1000 Rに試乗。なんだかヤマハMT-10の存在が気になってきたぞ。

BMWブランドは、スクーターを含めると7つのタイプに分けられ、全36機種ものバリエーションを揃えている。今回試乗したS 1000 Rは、“Roadster”のカテゴリーに属すスポーツネイキッド。“Sport”カテゴリーにあるS 1000 RR譲りのエンジンを搭載する、次元の高いハイパフォーマンスモデルなのである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー 株式会社

BMW・S 1000 R…….1,780,000円〜

ライト・ホワイト、ダークブルー、レッド(Mパッケージ)…….2,350,000円〜

レーシング・レッド・ユニ
ホッケンハイム・シルバー・メタリック…….1,821,000円〜

 BMW のラインナップ中“Roadster”カテゴリーには4機種が揃えられているがS 1000 Rはとびきり力強い精悍なフォルムを披露するネイキッドスポーツである。中でも今回の試乗車両は、Mパッケージ装備仕様。
 赤(レーシング・レッド)い素のモデルに対して57万円も高価な上級モデルだ。M スポーツカラーを纏ったカラーリングの違いだけでなく、マフラーやホイールにシート、さらにリチウムイオンバッテリー等、高価で軽量な部品が奢られているのである。
 既にスーパーバイクシーンで活躍するS 1000 RRのDNA を受け継いで開発されたネイキッドバージョン。搭載エンジンは基本的に共通のショートストロークタイプ。前傾直(並)列4気筒、水冷ツインカムの16バルブエンジンを活用しながら、ネイキッドスポーツとして専用チューニングし直されている。
 全体が醸すエネルギッシュな雰囲気を始め搭載されたエンジン形式と車体サイズ、価格も含めて、ヤマハのMT-10が真っ向ライバルとなることは間違いないだろう。

 エンジンは燃焼室の変更で圧縮比がS 1000 RR の13.5対1からS 1000 Rでは12.5対1まで下げられ、最高出力も152kW/13,500rpm~121kW/11,000rpm にデチューンされている。レブリミットもRRの15,100~12,000rpm までセーブされている。
 しかし最大トルクに着目すると、113Nm/11,000rpm のRRを凌いで、Rは114Nm/9,250rpmを発生しているのである。
 ちなみにヤマハMT-10 の同データは、118kW/11,500rpm と111Nm/9,000rpmを発揮。またWMTCモード燃費率はS 1000 Rが16.12km/L 、同RRが15.62km/L 、MT-10は14km/Lという諸元値である。
 S 1000 Rで見逃せないのは、走行可能状態で199kg と言う軽い車両重量を実現している点にある。国内仕様の届け出で値では燃料満タンで204kgとなっているようだが、オプションで用意されているMパッケージやカーボンホイール等への換装では、なんと194kgまで軽量化できるそう。ちなみにMT-10の車両重量は諸元値で210kgとなっている。
 軽い車体とビッグトルク・エンジンとの組み合わせからは、エキサイティングな走りが期待できる事は間違いなさそうである。


ダイナミックパワーとその扱いやすさが秀逸。

 Mスポーツカラーの試乗車を目前にすると低い位置にセットされたヘッドランプ&メーターから、ウェッジシェイプに後方へと跳ね上がりシンプルにフィニッシュするスマートなシートエンドが印象的。
 一方斜め前方から眺めると、湾曲した大型アルミラジエターの存在からは、相当高性能なエンジンを搭載している事が窺い知れる。またワイドなアルミフレームと16.5Lタンク周辺のガッチリとしたフォルムが、流石1Lモデルらしいボリューム感を漂わせている。
 しかし跨がってみると、しっくりと身体に上手く馴染むライディングポジションが好印象。少しワイドなハンドルバーに手を添えて車体を引き起こすと、見た目のイメージから想像されるより軽く扱えた。
 200kgを切る車重値は伊達じゃないと思えたのが正直な第一印象である。片足でバイクを支えると、足はちょうど踵までベッタリと地面を捉える事ができ、軽い感触も相まって扱いに不安は感じられない。
 1L、4気筒、高性能モデルというキーワードが揃うと、とかく慎重になるし、緊張しても不思議は無いが、意外にもフレンドリーな感触にホッとさせられたのである。
 
 低めにセットされたバーハンドルに手をやると、ライダーの上体は軽い前傾姿勢が決まる。スイングアームピボットよりも後方に位置するバックステップに足を乗せるといかにもスポーツバイクらしい。
 戦闘的と言う程ではないが、いつでも臨戦態勢に身構えていられる感覚。タンク下のサイドカバーあたりをニーグリップすると、太く逞しい車体との一体感が増す。
 股は前下がりで膝の位置は腰より低く、下肢の筋力を積極活用しやすい。右へ左へのワインディングロードも実に心地よくスポーツ心が刺激され、ライダーが主役となれる感じで、いつの間にか積極的にマシンをコントロールしつつ、快適なリズムに乗った走りを楽しんでいるのである。
 市街地でもハンドル操舵は軽快。舵角が十分では無いので、小回りUターンは苦手だが切り返し等でも扱いは軽く、それほど不便は感じられなかった。
 凸凹と路面の悪い場所を通過する時も、まず基本の車体がガッチリと剛性感があり、それ故にサスペンションが素直に動いてくれる印象。前後共に硬めなセッティングだが、レベルの高い初期作動性と衝撃吸収性が感じられ、前述の臨戦態勢で居られるライディングポジションも相まって乗り心地も良かった。 
 
 そして何よりも驚かされるのは、ダイナミックなスロットルレスポンスにある。一般公道で走る限り、有り余るパワー感は当然だろうが、右手をひと開けした時のピックアップの鋭さは秀逸。決して軽過ぎないクランクマスとの相性も良く、シビヤさの少ない(ギクシャクしない)スムーズに扱える出力特性が、市街地から郊外や高速、時にはサーキットまで、走るステージを選ばない一級の高性能を披露してくれる。
 スロットルをワイドオープンすると、途中で排気音を変えながら伸びやかさと勢いを増す吹き上がり感も実にエキサイティング。いかにもスポーツバイクらしい、その高性能な走りと、それを扱う気持ちよさがとても魅力的に思えた。
 ブレーキも実に強力。右手の扱いで、前後連動ブレーキがごく自然なバランスで効き、ノーズダイブを抑えてくれる安定した制動感覚も良い。コーナリング中の微妙なスピードコントロールには、単独でリヤブレーキを作動させられるのも嬉しい所だ。
 いつもの様に1速ローギヤで5,000rpm回した時のスピードはメーター読みで54km/h。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は4,000rpm強だった。
 低速域まで柔軟に良く粘る事、発進も楽な底力はもちろん、10,000rpmオーバーまで難なく吹き上がるそのハイパフォーマンスぶりには誰もが満足させられる事だろう。 諸元値からも推察できる通り、高い燃費性能は期待できないが、それだけにエネルギッシュな走りはピカイチなのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

ご覧の通り、両足の踵は地面から軽く浮いた状態になるが、車体を支える上で特に不安は感じられない。シート高は830mm。オプションでローシート(810mm)とハイシート(850mm)も用意されている。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…