目次
BMW・M 1000 RR……3,838,000円~
ライト・ホワイト・Mモータースポーツ(Mコンペティションパッケージ)…….4,335,000円
BMWのスポーツカテゴリーには、インラインの水冷4気筒エンジンを搭載して2009年にデビューしたS 1000 RRがある。その登場以前は、スポーティなキャラクターを誇ったとしても、BMWは終始一貫してツアラーモデルに力を注ぐメーカーだった。
ところがS 1000 RRの投入で、それまで培われたブランドイメージと、事業戦略を大きく方針転換。ユーザー層の若返りを果たすべく、新たなスーパースポーツ・カテゴリーへの新規参入を果たしたのである。
全てが新設計。高回転高出力を誇る直列4気筒のツインカムエンジンとレーシーなフォルム、後輪の駆動方式はチェーン式を採用。つまりホンダCBR1000RR-RやヤマハYZF-R1M、スズキGSX-R1000R、カワサキZX-10RR他の、ホットなスーパースポーツと真っ向ライバルとなるモデルを投入。既に10年以上前の出来事だが、BMWの新戦略が世界市場に与えたインパクトは非常に大きなものだった。しかも製品開発のみならず世界選手権スーパーバイクや同耐久レースに積極参戦。数々の戦績がそのポテンシャルの高さを証明してきているのである。
当初はよりレーシングライクな純正パーツが奢られたプレミアムラインを揃え、さらには超絶高価で高性能なHP4もリリース。モータースポーツシーンに掛ける本気を示す情熱は、エキサイティングなラインナップを誇る現在のBMWブランド・イメージへ見事に結実しているのである。
今回のM 1000 RRは、S 1000 RRをベースに開発されたレーシングマシンを元に、まさにサーキットの実戦で培われたノウハウをフィードバック。そこに惜しみないコストを費やしてさらに磨きを掛けられたホットモデルと言える。HP4に次ぐレベルまでポテンシャルを高められたハイパフォーマンス・スーパースポーツ。言い換えると公道走行が楽しめるレーシングマシンとさえ言えると思う。
オフィシャルWEBサイトから引用すると「類稀なピュアレーシングの遺伝子」と表現されていた。つまりレーシングテクノロジーがふんだんに詰め込まれた極めてホットな最上級のモデルなのである。
可変カムシャフト機構を備えた油水冷方式のツインカム・インラインフォアエンジンには軽量高強度なチタニウム製の16バルブを採用。燃焼室も変更されて圧縮比はS 1000 RRより高い13.5対1になっている。結果的に最高出力も向上し、156kW(212PS)/14,500rpmを発揮。レブリミットも500rpm差の15,100rpmまで高められた。諸元値に記されたマキシマムスピードは306km/h。サーキットレシオによっては315km/h。また0~100km/h発進加速性能は僅かに3.1 秒である。
高性能発揮には、ドライウエイトで170kgという軽量ぶりも見逃せない。燃料満タン時の装備重量でも191.8kg。そのパワーウエイトレシオは僅か0.905kg/psという驚異的な軽さである。
高価なドライカ-ボンパーツをふんだんに装備。Mコンペティションパッケージが装着された試乗車にはフェンダーやホイール、フェアリングの一部もカーボン製に換装され、高速時にダウンフォースを発生するMウイングレットも装着。ブレーキやドライブチェーンもより高性能な専用パーツで武装されているのである。
ちなみにモータースポーツの実戦で培われるノウハウが注ぎ込まれたプレミアムなモデルに与えられる称号として知られているMスポーツの“M”がバイク・ジャンルのネーミングに起用されたのはこれが初めてである。
こいつに乗れるライフスタイルって、どんなだろう・・・?
のっけからお断りしておくと本来走るベき相応しい試乗ステージはサーキット。それもある程度長い直線のある高速コースで試してみたい。何しろそのポテンシャルを知り、本気で“楽しめる”場所はサーキットしかないと思えるからだ。
今回は市街地から郊外、そして比較的タイトな峠道での試乗。200kg未満の車体と200psオーバーのエンジンが組合わされたその走りを堪能するには不十分である事は明白だが、ポテンシャルの片鱗を味わいながら、色々と想像を巡らす時間は乙な物だった。
まずはレーシングスーツ着用で試乗車に股がった。車体サイズ的には前述のライバル達とほぼ同レベル。CBRとYZFの中間的ボリュームで足つき性も大差ない。
特徴的なのは、フロントスクリーンが高めで、前屈(伏せ)姿勢を決めるとヘルメットがスッポリと納まる。300km/hレベルの超高速で疾走する時にも高いウインドプロテクションが期待できそう。
そして何よりも車体を引き起こす時の扱いが、このクラスのスーパースポーツとしては明らかに軽いのである。高い位置にマウントされたバックステップに足を乗せてハンドルに手を伸ばすと、上体の前傾具合はそれほどきつくない。タンク際からシート後方まで腰をずらしたり、ハングオン姿勢の左右切り換え等、ライダーとマシンとの密着具合が程良く柔軟な姿勢(操縦)に上手く馴染んでくれる。
下半身及び腹筋と背筋もバランス良く使えあらゆる動作に瞬時に対応できる様、自然と身構えられる感覚からは、いかにもスーパースポーツらしいエキサイティングな乗り味が直感できる。
エンジンはピックアップに優れ加減速共その挙動に凄まじいG(勢い)が感じられる。スリックライクなタイヤのグリップ性能も高く市街地コーナリングでの安心感も十分。そのポテンシャルはまさに市販バイクのトップレベルにある事は間違いない。
マシンをコーナーへ向けて、ブレーキングからの進入でスパッと向きを変えられるクィックで素直な旋回特性と、クリッピングポイントあたりから後輪のグリップ力を高めつつ、グイグイと立ち上がれる俊敏な操縦性と動力性能の高さには目を見張る物がある。粘着質でグリップ力の高いタイヤと、巧みに前後連動制御されるパーシャリーインテグラルブレーキの効きも秀逸。高速からの急制動でも右手のレバー操作ひとつで車体全体がグンと地面に食いつくかの様な感覚で安定したブレーキング性能を発揮。コーナリングでは右足リヤブレーキペダルの操作で思いのままにスピードコントロールができる。もちろんコーナリングABSも機能してくれるから高い安心感が得られる。
ただ一般公道を走る限り、エンジンのオーバーパワーは侮れない。グリップに優れるタイヤを持ってしても、電子制御なくしては成立しない程のハイパフォーマンスは明らかに凄過ぎなのである。
試しにDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)をOFFしてサードギヤで右手をワイドオープンすると、まるでクラッチが滑ってしまったかの様にエンジン回転が急上々。実は後輪が綺麗に空転(過回転)してしまった。想定内の出来事ではあったが、エンジントルクとその瞬発力はまさに驚異的であったのである。特に8,000rpm前後からの噴き上がりは強烈。
なお、エンジンの走行モードはRAIN、ROAD、DYNAMIC 、RACE(サーキット向け)、そして各制御を個別にプリセットできるRACE PRO 1/2/3(サーキットのみ)が選択できるようになっている。ユニークに思えたのは、坂道発進アシストとしてHill Start Control Proと、クルーズコントロールが標準装備されていた。バイクのキャラクター的にそれを活用するシーンがイメージしにくいが、ユーザーの使い方は自由。ツーリング等を快適にできる便利機能である事に変わりはない。
一方サーキットでも数々のライダーアシストを果たす最新の電子制御技術が投入されている。詳細は割愛するが、例えばピットレーンリミッターやローンチコントロールは、実戦で役に立つ。
前者はピットレーンに設けられた制限速度をキープして走れる装置。予めエンジン回転数を設定の上ローギヤで走行中、右側のスターターボタンを押したままにすると、例えスロットルは全開でも回転数が設定以上にあがらず、設定速度がキープされる。ピットアウトと同時にスターターボタンを放せば通常走行に復帰できる仕組みである。ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは53km/hだった。つまり速度制限が60km/hなら、5,660rpmにセットすれば良い。
またローンチコントロールは、簡単な操作で最大限の発進加速力を発揮できる制御装置のこと。エンジン始動後にスターターボタンを長押ししてそのモードに入った事をディスプレイで確認の上、クラッチを握りローギヤに入れてスロットル全開。するとエンジンは自動的に9,000rpm以上には上がらない。ここでクラッチを一気にリリースすれば良い。この発進操作にライダーのコントロールは不要で、マシンは自動的にウイリーや後輪のスリップ(空転)を抑えつつ、最速タイムでスタートしてくれる。
その他ラップタイマーや、GPSも利用した走行データ記録装置用の連結機能も装備されている。サスペンションの調節機能も充実しておりまさにサーキットを疾走するに相応しい極めて高度なレーシングポテンシャルと最高峰のスーパースポーツバイクとしての魅力を誇っているのである。
足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)
シート高は832mm。足つき性はご覧の通り、踵は浮いてしまうが、バイクを支える時の印象は特に高過ぎない。車重も軽く支えるのに不安は感じられなかった。