なんとユニークなバイクだろう。オリジナルフレームに31ccエンジンを搭載する、従来モデルの「仔猿」ですら冗談のような乗り物だったのに、CKデザインが発表した新たなモデルは写真のようにエンジンが2基搭載されているのだから。ここまで脱帽ではすまないほどロマンの溢れるバイクと言わざるを得ない。開発した佐々木和夫さんの言葉からも真面目な設計思想が貫かれていることは、実際の車体を見ても伝わってくる。まるでおもちゃのようなスケール感だが安全性を担保していなければ、公道を走行可能とする乗り物として失格だと考えているのだ。だから佐々木さんは開発したマシンを自らかなりの距離をテストライドして、安全に操作できるか徹底して確認している。そこが怪しげなカスタムマシンとは一線を画するメーカーとしてのプライドだろう。だから冗談やおもちゃと表現したのは貶める言葉としてではなく、称賛の意味を込めているのだ。だって、これほど小さくエンジンが2基連結されたバイクなのに、絶対的な安全性を求めるなど誰が真面目に開発するというのだ!
仔猿はKo-zaruと表記されるキットバイクで、2000年代初頭に発売された。ホンダ製汎用エンジンであるGX31を見初めたことが開発のきっかけとなり、佐々木さんのバイク原体験である多摩テックで乗ったモンキーの祖であるZ100のような車体を作ってみることとなったのだ。そのコンセプトは「世界一可愛くて楽しいバイク」。そこで31ccしかない排気量でもバイクとしての性能が確保できるサイズが生まれ、購入者自らが組み立てるキット販売というスタイルが採用された。
従来の仔猿でも十分以上のインパクトがあり、現在でも生産され続けているほどの人気を集めた。また自ら組み立てる工程が楽しいと評判にもなったが、それ以上に自分で作ったことが愛情へと育つ。仔猿というネーミングの通りに、育てることが喜びにもなるのだ。ところが佐々木さんの野望はこれで終わらず、2007年ごろから2気筒モデルの開発に乗り出している。小さくて可愛いけれど安全重視の設計はそのままに、ツアラーとして育てるにはエンジンを2気筒とすることが導き出されたようだ。そこで従来モデルより小さな汎用エンジンを見つけ出し、検討が開始された。
使われた汎用エンジンはホンダGX25で4ストローク単気筒。2基を連結させたといってもそのまま縦に並べただけでクランクシャフトを1本にまとめたわけではない。出力をどう繋げるのか疑問に思うところだが、答えはカンタンでベルトにより2基を繋いでいる。リヤ側エンジンにスプロケットを取り付け、駆動にはチェーンを用いるのはバイクと変わらない。またエンジンを2基搭載するにあたり、吸排気系は大幅に見直されることになった。新たにインテークマニホールドやエキゾースト+マフラーを作り出して、バイクらしい特性が得られるようモディファイされている。
従来モデルに対して大幅なパワーアップが実現されたが、エンジンが2つあることでホイールベースは延長されている。これはツアラー向けでもあるが、長距離を走るなら乗り心地も大切な要素。そこで従来リジッドだったリヤを2本ショックによるサスペンション仕様として、求められる性能を確保したという。
この仔猿X50TT(仮称)は従来モデルと同じように組み立て式のキット販売になる予定。この日に公開されたのは試作型とのことで、まだ改良される可能性はある。受注窓口や詳細に関してはCKデザインのオフィシャルWEBサイトから(http://www.kozaru.us)。予定価格は99万円(税別)とのことだ。
先行試作車の諸元
全長/全幅/全高:860mm/430mm/625mm シート高:450mm 軸間距離:599mm 車両重量:23.5kg エンジン形式:空冷4サイクル単気筒SOHC2バルブ 総排気量:50cc 最高出力:2.2ps/7,500rmin 燃料タンク容量:0.75L(無鉛レギュラーガソリン) タイヤサイズ(前後):90/70-4 制動装置形式(前後):ドラム 懸架方式(前/後):倒立式テレスコピック/スイングアーム