レトロスポーツ? いやいや、現代的な走りが楽しいぞ! カワサキZ650RSは等身大で楽しめる逸材だ。

2018年にデビューし、今もなお納車待ちの状態が続いているカワサキのZ900RS。その弟分として2022年に登場したのが、レトロスポーツのZ650RSだ。ベースとなっているのはスーパーネイキッドシリーズのZ650で、649cc水冷並列2気筒エンジンをほぼそのまま流用しつつ、フレームの一部をはじめ前後ホイールやブレーキディスクなどを変更。Z650との価格差15万円分の違いやいかに。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン(https://www.kawasaki-motors.com/)

カワサキZ650RS……1,012,000円~

STDモデルの車体色はキャンディエメラルドグリーンとメタリックムーンダストグレー×エボニーの2色。特にグリーンは1977年に登場したZ650を彷彿させるカラーリングということもあり、非常に人気が高いという。標準装着タイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。
試乗したのはZシリーズ50周年を記念する「50th Anniversary」で、Z1を象徴するファイヤーボールカラーを採用。専用の立体サイドカバーエンブレムやメッキのグラブバー、シボ入りの専用シート表皮がSTDとの主な違いだ。価格は8万8000円アップの110万円に設定。
ベースとなっているのはZ650で、シート高はZ650RSよりも10mm低い790mm、車重はZ650RSのSTDより1kg重い189kgを公称する。価格は85万8000円だ。Z650の兄弟モデルでフルカウルのニンジャ650は91万3000円。Z650RSはカワサキケアが付帯する分だけ値段は高めだ。

フレキシブルな水冷パラツイン、素性の良さにあらためて感心

スクープ記事が出回るようになったころから試乗を楽しみにしていたカワサキのZ650RS。ヤマハのMT-07と並んでミドルクラスの傑作と名高いZ650をベースとしているので、発売前から成功が約束されたモデルといっても過言ではない。

まずはスタリングから。兄貴分のZ900RSと同様に、往年のZシリーズの要素をうまく抽出してまとめ上げた外観は多くの人が満足するであろうレベルにあり、アグレッシブなSugomiデザインを採用するZ650の面影はほぼ皆無だ。またペイントも含めて各部の質感が高く、ミドルクラスのネイキッドながら100万円オーバーという車両価格にも納得だ。

エンジンを始動する。往年のZを彷彿させるパーフェクトなスタイリングと、そこから聞こえてくるツイン独特の歯切れの良いサウンドとの組み合わせに最初は戸惑うが、それはすぐに慣れるはず。1970年代にはZ750ツインという、Z2に似たスタイリングの空冷並列2気筒モデルが存在したことから、それの再来という見方もできるだろう。180度位相クランク採用の649cc水冷並列2気筒エンジンは、クラッチやサイレンサー、ラジエーターのカバー類が異なる程度で、スペックはZ650と共通。ちなみにZ900RSとZ900は最高出力などが異なっており、その弟分はコストを抑えるためにもあえて変更しなかったと思われる。

さて、一般的に180度位相クランクのパラツインは、等間隔爆発となる360度や、不等間隔爆発の270度位相クランクよりもパワーが稼げる分だけ(ゆえに250ccクラスでの採用例が多い)低中回転域でのトルクが薄いと言われる。だが、Z650RSは2,000rpmからしっかりとした力があり、街中では5,000rpmまでで事足りるほどフレキシブルだ。そこから上の領域では180度位相クランクならではのシャープな伸び上がりが味わえ、レッドゾーンの始まる10,000rpmまできっちり回る。最高出力は68psなので決してパワフルではないが、111psを公称するZ900RSよりもスロットルを大きく開けられるという楽しさがある。

なお、スロットルを大きく開けずに(イメージ的には開度25%以下で)加速すると、4,000rpm付近で一瞬だけ回転上昇が鈍るような症状が発生する。とはいえ気になったのはその程度で、もしかするとほとんどの人は気付かないかもしれない。シフトフィーリングはスムーズで、アシスト&スリッパークラッチによるレバー操作の軽さも美点。このエンジン、あらためて完成度が高いことに感心した。


どんな操縦でも良く曲がり、さらに伸び代もあるハンドリング

車体に関するスペックを確認する。前後17インチというホイールサイズや標準装着タイヤの銘柄、キャスター&トレールの数値までZ650と共通であり、操安性に影響がありそうなのは5mm短いホイールベースぐらいだ。ゆえに、基本的なハンドリングはZ650に限りなく近く、どんな操縦でも車体を傾けてさえしまえば曲がれるという安心感をそのまま受け継いでいる。厳密にはハンドル幅がより広くなり、乗車姿勢がアップライトな分だけフロントへの荷重を掛けづらくなってはいるが、それを意識しなくてもスムーズに気持ち良く旋回できるというのは基本的な操安性が優秀な証だ。また、フロントブレーキを残しつつ体重移動で倒し込むといった操縦をすると、それに応えるように旋回力が高まる。そうした伸び代もZ650から受け継いでおり、単に乗りやすいだけで止まらないところにカワサキの良心が感じられる。

なお、前後のサスペンションは作動性が上質というわけではないが、ギャップ通過時にはしなやかなフレームと柔軟なタイヤの特性も適度に加わり、ショックをうまくいなしてくれる。さらに肉厚かつ座面の広いシートも乗り心地の良さに貢献している。

ブレーキは、フロントにピンスライド片押し式2ピストンキャリパーを採用するが、レバーを握り込めばしっかりと制動力が立ち上がるので、特に不足を感じなかった。前後ともコントロール性は高く、ABSの介入レベルも不満なしだ。

Z650に採用されているスマホ接続機能こそないが、このスタイリングに惚れて購入を検討している人にとっては無視できる案件だろう。最大の問題は、年内の販売予定分はほぼ完売状態で、今から予約しても買えるのは2023年モデルかもしれないということ。それだけ市場の期待値が高いということであり、カワサキはそれに十分応えられるモデルを作ってきたのは間違いない。Z900RSと同様、欲しい人は少しでも早くショップに相談することをお薦めする。


ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ベースとなったZ650よりも幅の広いアップハンドルを採用しており、レトロスポーツらしい上半身の起きたライポジを形成。ブレーキ、クラッチレバーとも5段階の調整機構付き。
シート高は欧州仕様よりも20mm低い800mmを公称。並列2気筒ならではのスリムさにより足着き性は良好だ。なお、純正アクセサリーでハイシート(4万4880円)も用意している。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…